33歳の女性が入管で死んだ件
▼異常な状態が、「文書」を介すると、一見、正常に見えてしまう。その好例が2021年3月23日付毎日新聞夕刊に載っていた。適宜改行と太字。
〈スリランカ人女性が入管収容中死亡 33歳衰弱、SOS届かず 専門家「収容可否、裁判所判断を」〉
〈「ここから連れ出してほしい」。それが、30代のスリランカ人女性から、支援者が聞いた最後の言葉だった。
名古屋出入国在留管理局(名古屋市港区)に収容されていた女性は、支援者が面会した3日後の3月6日、居室内で脈がない状態で見つかり、緊急搬送先の病院で死亡が確認された。
支援者らは「最後の面会時、体調が極端に悪化した様子だった。死んでしまうから入院させてと入管に訴えたのに」と批判。上川陽子法相は、事実関係の速やかな調査と結果の公表を表明している。【和田浩明】〉
▼この女性は去年の8月に拘束された。名古屋入管に収容され、体調を崩し、半年ちょっとで85キロだった体重が20キロも減った。
支援団体STARTの松井保憲氏(66)が面会を続けた。
▼女性はバケツを手に面会に来たこともある。体調不良で吐くからだ。
たとえ体調不良で倒れても、入管の職員は「コロナ対策」を理由に何も介抱せず、同じ大部屋に収容されている女性が助けてくれたという。面会した松井氏が彼女の点滴と入院を申し入れた。それほど異常な状態だった。
〈松井さんが最後に言葉を交わしたのは3月3日の面会だった。
午前中に会ったが、頭は車椅子の背もたれに置いた状態だがふらつき、唇は黒ずみ、口の両脇からは泡が出ていたという。
右手はぶらっと下がった状態でうごかせず、左腕でつかんで動かしていた。
「ここから出たい」「連れ出してほしい」。女性はそう繰り返したという。
達者だった日本語は、片言のようになっていた。
「容体が極めて悪化している」。そう感じた松井さんは面会を早めに切り上げ、被収容者の処遇部門にすぐさま向かった。
「このままでは死んでしまう。すぐ入院させ点滴を打って」。そう訴えると、職員は「ちゃんとやっている」「予定はある」と応えたという。
2日後の5日も松井さんは面会に向かった。しかし、職員から「(女性は)動けないので会えないと言っている」と伝えられた。本人が求めていた洗剤などを差し入れた。
そして翌6日の午後2時過ぎ、女性は居室で脈がない状態で見つかり、病院で死亡が確認された。
収容されてから半年以上。33歳3カ月の生涯だった。
名古屋入管の広報担当者は「内部の医師が何度も診察し、2月と3月には外部の病院でも診察を受けた。3月の診察ではCT検査など専門的な検査も行った。対応は適切だったと考えているが、今後、(法相が言及した)調査が入る」と話した。3月の診察日がいつかは明言しなかった。死因は現時点で不明だが「判明しても公表するかは現時点では言えない」と述べた。〉
▼入管の職員は、とても真面目であり、定められた文書に忠実に則って行動しているのだろう。しかし、その動きだけでは、このような「未必(みひつ)の故意」の人殺しを止めることはできないし、極めて異常で悲惨な状態を変えることはできない。
これ以上、入管の職員に、未必の故意の殺人に加担させないためにも、こうした報道が重要だ。大きく報じる価値のあるニュースであると考える。
(2021年3月25日)