AIは「空」を飛び「欲望」を知る

▼AI(人工知能)を題材にしたニュースが二つ、目についた。一つは軍事。一つは経済。

ひとつめは、2018年12月28日付朝日新聞の1面トップ。記事の冒頭から読ませる内容になるよう、工夫して書かれている。

〈AI兵器開発 米中しのぎ/ドローンが攻撃判断「自動戦争」に現実味〉

〈赤土がむき出しになった中国の山あいを、ドローン(無人機)が鳥の群れのように舞った。その数119。人工知能(AI)が機体を制御し、集結や分散を繰り返す。攻撃目標を発見すると、2群の編隊に分かれてぐるりと取り囲んだ。

 5月、中国の国有企業「中国電子科技集団」が開いたAI技術の発表会。同社が世界記録と誇る固定翼ドローンの群集飛行実験のビデオが披露された。

 「生物が群れをなすのは種の生存のため。ドローン群集は未来の戦争で勝利のかぎを握る」。映像ではこんな説明に続き、北米の地図が映し出された。「攻撃」の文字。ここから先は架空のCG映像だが、人工衛星を通じて指令が送られ、無数のドローンによる攻撃で高層ビルが立ち並ぶ都市が火に包まれた――。発表会場に集まった軍や企業、大学関係者ら約300人は静まりかえったという。〉

▼中国は200機の群衆飛行に成功しているそうだ。

▼もう一つは経済。動画配信サービスの最大手はネットフリックスだが、「機械学習(マシンラーニング)」を使って猛烈に成長している。

〈会員の家族などを含めれば数億人に上るという膨大な視聴データを分析して個人の「好み」をはじき出し、作品を薦めている。どんなオリジナル作品を制作、また何を配信すればヒットしそうかの予測にも生かす。〉(朝日新聞2018年4月23日付、藤えりか記者)

▼政策担当統括責任者のトッド・イエリン氏いわく「歴史ものか未来の話か、現代の物語か。サルが出るのか警官か登場するか、男女どちらが多いか。そうした要素をタグ化して全作品にあらかじめつけ、視聴者の好みを細かく探っている」そうだ。その分析がすごい。

〈会員が作品を一気に見たか中断したか、途中で見なくなったか、どんなデバイスで見たかなども含めて記録。マシンラーニングやアルゴリズム(情報処理手順)を専門とするデータサイエンティストや数学者ら計数百人で分析している。

 かつては年齢や性別などの情報も参照していたが、好みの分析や予測のためのデータとしては「意味がない」と気づき、8年ほど前にやめたという。

 「ヒーローアニメが好きな70代女性もいれば、ドレスのドキュメンタリーを見たい若い男性もいる。私たちは世界を国や性別ではなく、好みで分けている」とイエリン氏は言った。〉

▼客を「好み」で分けるのは、分けられている側からすれば、まさに「世界の自分化」につながる。しかも客の「国」や「性別」などのデータはビジネスに使われないからといって、完全に削除されるわけではないだろう。ある人からすれば無意味な情報が、ある人からすれば決定的な情報である場合は多い。そうした膨大な情報が企業間で「共有」されている実情は、以前紹介した。

▼ネトフリを扱った朝日記事には、政治社会学の堀内進ノ介氏のコメントも紹介されている。

「今は企業が、私の欲望を、私より正確に知ることができる時代。消費者が企業や製品を評価していた構図とは、主客が逆転した状況だ」「行動履歴の分析に基づき、自分が企業側にどう評価されるかを、私が気にする。こうした状況が広がっていくだろう」

「自分が企業側にどう評価されるか」という判断基準は、すでに中国では「芝麻(ジーマ)信用」というかたちで実現されつつあり、それは「自分が国家にどう評価されるか」という基準に直結する。そもそも中国では「BAT」(バイドゥ、アリババ、テンセント)を使って国家が個人情報を管理している。10年前には想像もつかなかった状況だ。10年後の状況も想像できない。

民主主義とAIの相性は良いのか悪いのか。この問いは、どちらも正解だろう。決めるのは人間だから。

(2019年1月4日)

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