「小規模映像制作チームにおける撮影編集以外の仕事の話」
フリーの映像クリエイター同士がお互いの仕事を持ち寄って2~3人でチームを作る。よく聞く話だ。仕事を取るために採算度外視でクオリティーの高いものを作ってポートフォリオを埋めていく。小規模チームの創業期はどこも大体こんな感じなんじゃないかと思う。チームメンバー全員がプレイヤーである場合が多く、持てる戦力のすべてを撮影編集業務に集中することになる。それ以外の仕事、例えば窓口業務、クライアントとの折衝、財務や経理などのフロントオフィス及びバックオフィス業務はリーダーが請け負うか身近で気軽に誘える人間を仲間に引き入れてお願いしたりする。
その後はチームの成長次第でより高度に組織化されていくか現状維持のままか、それとも分裂し消滅するかの道を歩むことになる。いずれにしても現状維持はやがて衰退に至るので、中長期でチームを運営していこうと考えるならば組織化は避けて通れないだろう。ただ一つ厄介な点は、チームをうまくまとめ上げて継続して運営していく方法に対する明確な答えが存在しないことだ。いくら成功した経営者の本を読みまくったとしても見つけることは絶対にできないだろう。こればかりは自分自身がトライアンドエラーを繰り返しながら探し当てていくしか方法はない。非常に面倒で骨の折れる仕事になることは覚悟した方が良いが、もし継続することができたならばその経験は他に代えがたいものとなる。
アドミニという仕事
もしこれからチームを作っていきたいと考えるならば、優秀なクリエイターの仲間を探すことも必要だが、それよりも優秀なアドミニストレーター(略してアドミニ)を探すことに注力したほうがいい。Administratorとは海外の求人などでよく見る職種で、日本では総務、秘書業務も含む事務職などに相当する。自分が運営する会社ではアドミニは管理運営業務全般と定義している。プレイヤーを管理するマネジメント、つまり映像の撮影編集以外の仕事全般を請け負っている立場になる。なぜクリエイターよりも優秀なアドミニの方を探すべきなのかというと、映像制作という仕事は撮影編集だけで成り立っているわけではないからだ。そんなの当たり前なのだが、意外とそこを理解できないプレイヤーが多いように思う。なぜならば、アドミニの仕事や成果が傍からは見えにくく、ただ単純に問い合わせに返信してシフトを組んで納品手配する裏方の単純作業だと勘違いされることが多いからだろう。恥ずかしながら自分自身も創業して数年は、アドミニの存在意義に対してその程度の認識しか持ち合わせていなかった。だが、チームが成長していくに従い、アドミニの仕事の質も明らかに変化していった。クライアントとクリエイターの狭間で、表にはなかなか出てこない地味なマネジメント業務の積み重ねで得た知識と経験が、チーム運営や経営戦略の指針を考えるうえで必要不可欠な判断材料を提供してくれる。アドミニとはまさにビッグデータそのものと言える。いかにプレイヤーが優秀であったとしても、アドミニの能力を最大限に活用できなければ高度な組織化などあり得ない。
2度の大きな失敗から学んだこと
創業から10余年、その間に2度の大きな失敗を経験した。そのどちらもがアドミニとしての資質を持ち合わせていない人間をアドミニとして登用してしまったことに起因する。ただ単純な窓口業務の領域だけに留まっていれば問題はなかったのだが、チームが成長していく過程でアドミニ業務の意義や解釈も否応なく変化した。この変化に柔軟に対応することができなければ、成長するチームとの間に起こる認識のズレやひずみが発生してしまう。その小さなズレが時間とともに蓄積され、不満となって一気に噴出することになる。もちろん会社にも任命責任がある。その人の資質の有無をよく精査せずにアドミニ業務への採用を決めてしまったことは本当に反省すべきだ点だった。
もしアドミニ=窓口業務(事務員さん)という程度の考え方から抜け出すことができないとすれば、その人はアドミニとしての資質はないと言える。戦略を練り、チームをどの方向に進めて行くのかを決めて行く際の判断材料を提供し、データに裏打ちされた理論的な助言を行えるかどうか。アドミニとはまさに作戦参謀(注1)なのだ。ただ単純な窓口業務だけを求めるならば、マネジメントの領域とは切り離した「裏方要員」としてそのポジションをクリアにしてから組み込むべきである。時間をかけて精査し、資質のある人物以外のマネジメントサイドの登用は慎重になるべきだ。さもなければ、マネジメントの本質を理解していない人間が「管理する側」として勘違いし、暴走してしまう危険性が高い。
アサイン業務の本質
多岐に渡るアドミニ業務の中でも特に重要なのがアサイン業務である。クリエイターを案件ごとに割り当てる仕事だ。本来かなり骨の折れる仕事のはずなのに、その本質を理解している人間は意外と少ない。コンビニのバイトのシフトを組むのとは次元が違う。会社を運営していると様々な性格の案件が日々舞い込み、会社を取り巻く情勢は刻々と変化していく。クライアントとのやり取りの中でその一つ一つを精査し、どのクリエイターが最適かを状況を伺いつつ判断してアサインする。もし適材ではないクリエイターを送り込めば相手の信用を失うことに繋がる。戦況を俯瞰し、どの作戦にどの部隊を投入するべきなのか。後方支援(兵站)は十分か。どの部隊をどう動かすか。その作戦自体が戦略的に意味があるものなのか。アサイン業務とはまさに組織の存亡を賭けた作戦参謀の仕事なのだ。目の前の敵を掃討していくことに特化したプレイヤーとは見ている景色がそもそも違う。物事の側面やその裏側には何があるのかを理解しようとする努力をしなければ、いつまでたってもその仕事の本質を知ることはできないだろう。
プレイヤーはプレイヤーに専念できる仕組み
自分の会社では、クリエイティブの部分で最大限の効果を発揮してもらうために、クリエイターにはなるべくそれ以外の仕事(いわゆる裏方作業)はさせないような体制にしている。そうすることによって、作品の質を維持しストレスなく世界観の構築や技術の向上に時間を費やすことができるからだ。ただし、もちろんこのシステムにも欠点はある。その狭い領域に特化することで、逆に俯瞰で大局を見るという視点が欠けてしまうという落とし穴がある。どの仕事でもそうだと思うが、様々な領域の業務がうまく相互に作用しあってチームを動かしているということを忘れてはいけない。プレイヤーとマネージャーは表裏一体の関係なのだ。
注釈1:参謀とは高級指揮官の下で、作戦・用兵などの計画・指導を受け持つ将校。転じて一般に、人を支えてあれこれ策略を立てる人。
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