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第24回 「渡る世間は嘘ばかり」

 チームLemoneの合同誌に寄稿する、と決まってから、生活に彩りが戻ってきた。自分の小説家としての腕を存分に振るえる場所がある、ということがとても幸せに感じられた。

 テーマは「嘘」。腐ってもプロの小説家として、世に出しても恥じない作品を作り上げようと、どんな内容で書くか、一所懸命頭をひねって考えた。

 ちょうどニュースで、とある高校の女性教師が、男子生徒と不適切な関係になり、最終的には男子生徒の訴えで処分された、という話があった。実際のところはどんな具合かは知らないが、これでもし女性教師がエロス溢れる美女で、年下の男子を強引に襲っていた、とかいうことだったら、なかなか熱いシチュエーションだな、と感じていたりした。
 そんな妄想をベースに、もっと話を膨らませられないものか、と考えた。
 なぜ女性教師は、男子生徒と肉体関係になったのか。
 なぜ男子生徒は、一度は女性教師のことを受け入れながら、結局彼女のことを訴えたのか。
 そんな二人の間で繰り広げられる、愛と嘘の物語――。
 頭の中でプロットを構築してから、一気にキーボードへと叩きつけた。
 打ち始めたらあっという間だった。

「出来た……」

 商業ベースで書くのは厳しい、という状況になり、執筆意欲は失われていたかと思っていたが、そんなことは無かった。
 書き出したら止まらなかった。

 チームLemoneの合同誌は、一般向け非エロの本ではあったので、直接的描写は書けなかったものの、それがかえって淫靡な雰囲気を醸し出していたようで、後日、作品を読んでくれた人達から口々に「逢巳先生の短編がすごくエロかった!」と評されたりした。

 そんな短編「サキュバスの涙」が完成した瞬間だった。

 今回の担当編集者・うめじそさんに原稿を送った私は、久々に充実感を覚えながら、その日の夜は安らかに眠りについた。

 ※ ※ ※

 合同誌は『渡る世間は嘘ばかり』という誌名で頒布された。

 不思議な気分だった。多くの人達と一緒に本作りに関わり、その本の一部に自分の作品がある、という体験は初めてのことだった。

 ページをめくれば、一人一人が出せる力を全て振り絞って描いた、情熱に満ちた作品群が次々と展開されてゆく。短編であるからサクサクと読めて、とても楽しい。どの作品も非常に凝った作りで、それぞれの描き手の発想力に唸らされたりもした。その皆さんの輪の中に、自分も入れてもらえたことが、非常に光栄に感じられた。

 気が付けば、コミティア当日も終わり、打ち上げの飲み会が始まっていた。

 一人で悶々としながら飲む酒とは比較にならないくらい、心の底から幸せな酒だった。共に本作りに携わった仲間達と、笑い合いながら酒を飲む。まるで一つの大きな祭りを終えた後のような気分だった。

「またこの次も、よろしければ、ぜひ書かせてください」

 そう、私はうめじそさんに頼んだ。この新しく出来た創作の輪を、いつまでも続けてゆきたい、と思っていた。

「もちろん、ぜひ!」

 うめじそさんに快諾してもらったことで、私の心は晴れやかになった。

 執筆の場所が、一つ出来た。それは端から見れば小さな舞台かもしれないが、自分にとっては大切な舞台。何も出来ないまま飲んだくれているより、少しでも何かを書いているほうがいいに決まっている。

 そして、チームLemoneの合同誌に参加したことで活力を得た私は、新しい同人誌を一冊作ろうと考えていた。

記事を読んでいただきありがとうございます!よければご支援よろしくお願いいたします。今、商業で活動できていないため、小説を書くための取材費、イラストレーターさんへの報酬等、資金が全然足りていない状況です。ちょっとでも結構です!ご支援いただけたら大変助かります!よろしくお願いします!