第41回 超ニコニコ結婚式~その四~
ステージ上では新郎新婦の紹介がされている。
「新郎、逢巳花堂様は、会社員をされているかたわら、執筆活動をされている作家さんです」
作家、と名乗るのもおこがましいな――と私は内心苦笑した。だけど、ここから始まりにすればいい。X社とやり取りをしている『金沢友禅ラプソディ』の案件が軌道に乗れば、また商業作家として返り咲くことが出来る。
などと考えていると、舞台裏にスペシャルゲストのキティちゃんが現れた。
着ぐるみだから自分達より一回り大きいのだけれど、生で見るキティちゃんは、それはそれは可愛いものがあった。私もお嫁様もテンション上がりながら、キティちゃんと対面する。キティちゃんは、物言わず動きのみで、(おめでとう、頑張って!)と私達にエールを送ってきてくれた。
やがて、キティちゃんがステージ上に出ていって、しばらく司会とやり取りをした後、とうとう私達の出番がやって来た。
「さあ、拍手でお迎えください! どうぞ!」
事前に指定していた楽曲、レッドクリフのテーマと共に、私達はステージへと上がった。会場内から拍手が沸き起こる。目の前には、人、人。しかし、想定していたよりは、いい意味で、そこまでギャラリーが集まっているわけではない。四、五十名といったところか。これくらいの数なら、過去にはもっと大勢の人前に立つことが何度かあったので、大して怖くはない。どこか、ホッとした。
気持ちが安心したら、もうあとはこっちのものだった。
事前に打ち合わせていた手順通り、司会の進行に従って、結婚式を進めていく。
「それではここで、誓いの言葉に代わりまして、この超結婚式では定番になりました、公開プロポーズをしていただきたいと思います!」
と言われても、マイクが見当たらない。京劇面を着けているせいで視界も悪い。どこから渡されるのかとステージの中央へと目をやると、お嫁様が(後ろ後ろ)と教えてくれた。
ステージの下からマイクを渡された後、公開プロポーズを行う。もはやここまで来たら恥ずかしさも何もない。やるべきことをやるだけだ。
さらに誓いのキス。やってやるよおらぁ! の精神で、仮面を外した私は、お嫁様とキスをした。
そして結婚指輪。U-TREASUREさん提供のもと、事前に我々夫婦で選んでいた、キティちゃんデザインの指輪を、キティちゃん自ら運んできてくれた。
指輪についての紹介が終わった後、いよいよ指輪の交換へと移る。
お嫁様の大好きな曲「ムーンリバー」が流れる中、私は指輪をお嫁様の左手薬指へと嵌めようと――嵌め――は――
嵌まらない……!
サイズはぴったりのはずだが、上手く嵌めることが出来ない。会場中の視線を一身に浴びながら、焦った私は、両手を使って無理やり指輪を押し込んだ。よし、これで上手く嵌めることが出来た、と思いきや、中途半端なところで指輪は止まっていたので、お嫁様が自分で指輪の位置を調整するという、何とも珍妙な指輪の交換となってしまった。
そんなしょうもないことをしてしまったのだけれど、それでも、お嫁様は感極まって涙を流していた。(この時、ニコ動では「お幸せに」「うれしいのね」「泣かないで…」というコメントが流れていた。みんな優しい……!)
指輪の交換が終わり、ケーキの入刀、ファーストバイトとやったところで、キティちゃんは退場した。
さて……ここからが、自分にとってはメインイベントである。
実は、事前にニコニコ超会議の担当者より、メールでサプライズの提案があったのである。それは、新婦への気持ちを込めた手紙を読み上げた後、プレゼントをする、というものだった。これは当然、お嫁様は事前に何も知らされていない、本当のサプライズイベントである。
司会からサプライズの言葉が飛び出た時、お嫁様は「え? 何? 何?」と言いたげに私のことを見てきた。
事前に準備していた手紙を広げると、私はお嫁様への想いを読み上げた。
「柄にもなく、ちょっと手紙を書いてみました。
初めて出会ったのは二年前、あの頃は君とこんな風にニコニコ超会議で結婚式を挙げることになるとは夢にも思っていませんでした。
二人はそもそも性格が全然違っていて、例えば夜中の帰り道で酔っ払いが喧嘩しているのを見て、僕は関わらないほうがいいと言っているのに対して、君は迷わず喧嘩の中に入り込んで仲裁したこともあったし、この間も何か映画を観ようという話になって、僕が『キングダムを観たい』と言えば、君は『いやだ、ハロウィンを観よう』と言ってきましたし、そもそも僕は戌年で君は申年で、犬と猿が一緒になれたというのは本当奇跡だと思います。
申年生まれの君は、本当お猿さんみたいにやんちゃで、喜怒哀楽が激しくて、のんびり屋な戌年生まれの僕はいつも翻弄されっぱなしですけど、でも、そんな賑やかな毎日が、とっても楽しいです。
僕は、これまでの人生で失敗してきたこともいっぱいあったし、人に誤解されることは多いですし、思い通りにいかなくて悔しいことっていうのもいっぱいありましたけど、でも、そういった中で、何か一つ思い通りに進んでいたら、この世界線に立っていることもなくて、君に出会うことはなかったんだな、と。そう思うと、失敗したからってなんだ、という勇気が湧いてきます。
何よりも、コスプレイヤーとして頑張りたい、という君の夢は、とっても素敵なものです。夢に向かって頑張っている君の姿が、僕に、挫けるな、なりたい自分になるために挑戦し続けるぞ、というパワーを与えてくれます。
僕にとって君は、本当に欠かせない存在です。これからも末永く一緒にいてください」
手紙を読み上げた後は、プレゼントのネックレスをお嫁様に渡した。
会場内から割れんばかりの拍手が寄せられる。
いまこの瞬間、私は幸せを噛み締めるのと同時に、胸の内から気力が湧き上がってくるのを感じていた。
やれるぞ! 自分はまだ頑張れる! ここから作家・逢巳花堂としての新たな挑戦が始まるんだ!
そんな熱い思いを胸に秘めながら、会場とオンラインの皆様へのお礼の言葉を述べて、私はお嫁様と一緒にステージを下りた。
時は2019年4月27日。令和元年まであと少し。何かが劇的に変わるわけではないけれども、しかし、気持ちは新しい時代へと突入しようとしていた。
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