第28回 後宮物語のプロット
年末年始も挟んで、中国の後宮に関するドラマや資料を見て研究しながら、ようやく一本のプロットを書き上げることが出来た。
2018年。この年は36歳になる年。すなわち、自分の干支の年だった。
「さあ、始まったぞ! 2018年は自分が主役になってやる!」
これまでの人生は、自分の望み通りにならないことが多かった。他人の都合に振り回されることも多かった。そんなのは、2018年で終わりにしてやる、と思っていた。
そんな強い決意と共に新年を迎えた私は、X社の編集長に、さっそくプロットを送った。
ちなみに、次のような内容である。
※ ※ ※
【タイトル】
後宮のアサシン(仮)
【コンセプト】
中国後宮物語+潜入物
【狙い】
絢爛な宮廷文化の楽しさ 時代物の面白さ 立身出世の快感 潜入物のスリル 知的興奮(アクション要素は最小限に!)
【概要】
主人公は、秘密結社に所属する女殺し屋。自らの復讐を果たすため、また国を腐敗させている政治家達を誅殺し、あるべき国の姿へ戻すという結社からの命令を果たすため、後宮に潜りこむ。やがて宮廷内の権力争いや、秘密結社との戦いに巻きこまれていく。より皇帝へと近づくため、後宮の中での地位を伸ばしていく主人公。だが、そのうちに、皇帝と、それを取り巻く人々に感化され、秘密結社の任務を続けることに迷いを抱き始める。
【ストーリー】
①異民族の国で姫として生まれ育った主人公。ある日、自分の国を宋国に滅ぼされる。生き残った主人公は復讐を誓う。そして、宋国の大名府という都市で行き倒れているところを、ある大商人に救われる。
主人公の事情を聞いた大商人は、彼女を男として偽らせながら、小間使いとして雇う。実は秘密結社の一員である大商人は、彼女を殺し屋として育てていく。
②それから5年が経ち――18歳にして秘密結社随一の殺し屋となった主人公は、「国を腐敗させる奸臣を排除せよ」と特命を受ける。ただし、諸外国から狙われている中、国に混乱を起こさず、自然と失脚させる工作が必要となる。そのため、主人公は後宮へと潜りこむこととなる。
③大商人の手配で「才人」(後宮でも一番下のランク)として後宮に入った主人公。皇帝に最も近づくことで、秘密結社の任務も達成しやすくなり、また自分自身の復讐(国を滅ぼした将軍を殺すこと。誰かはわからない)を果たしやすくなるので、最高位である「貴妃」を目指す。幼い頃から姫として仕込まれていた歌や踊り、果てはもともと持つ絵画の才能を発揮させ、次第に皇帝に目をかけられるようになる。
一方で、貴妃達の嫉妬等、後宮内のあらゆるところから妨害が入り、さらに不正を監察する「宮正」の青年からも疑いをかけられる。
④やがて、彼女は三人の男達の間で葛藤を抱き始める。天真爛漫で自由奔放な皇帝、自分を育ててくれた大商人、いがみ合いながらも時に自分を助けてくれる宮正の青年……三者三様の男達の中で、復讐よりも、もっと大事にしたいものが生まれてくる。
⑤愛か、復讐か。己の中に渦巻く矛盾した感情に苦しみながらも、主人公はその先に必ず未来があると信じ、生き抜いてゆく――。
⑥正五品(才人)から正四品(美人)まで昇った主人公は、ラスト、自分の国を滅亡させた、ある人物への復讐を果たし、一応の目的は遂げる。そして、新しい人生を求めて、改めて後宮の中で生き始める。
【舞台設定】
・舞台は中国の北宋時代。1110年代。※ただし実際の1110年代と同じとは限らず、パラレルワールドの可能性もある。
・文人政治が主体であり、文化面では花開いていたが、特に武力面で弱かった時代。隣国への貢ぎ物や、軍事費用で出費がかさみ、度重なる徴収によって国庫は壊滅状態。1127年に滅亡する。
・滅亡を招いた皇帝徽宗は、為政者としては失格だが、文化人としては一流、というのが後世の評価。
・中国四大奇書の一つ『水滸伝』の舞台も北宋時代である。
【キャラクター】
①「主人公」 燕青(えんせい)・燕才人
18歳。西方の異民族国家の姫。宋国に国を滅ぼされ、孤独の身となる。やがて秘密結社のナンバー2である盧俊義に拾われ、「燕青」と名付けられ、男として育てられながら、撃剣や弓術を仕込まれ、秘密結社随一の暗殺者となる。もともと歌舞音曲をたしなんでいたため、芸能に関しての技量はあり、さらに絵画の才能もある。凄惨な過去を持ち、何人も殺めているが、決して闇に落ちず、正義の心も失っていない。本質はまっすぐな女性。
②「皇帝」 趙佶(ちょうきつ)
宋朝の第八代皇帝。31歳。無邪気で奔放な性格。兄が早くに死んだことで自分に帝位が回ってきたが、本当は文化人として風流に生きたくて仕方がない。自分の趣味のために公費を使うとんでもないところもあるが、政治について考え無しというわけでもない。本心は、自由を望んでいる。
③「秘密結社のナンバー2」 盧俊義(ろしゅんぎ)
35歳。北京大名府の大商人であるが、その正体は秘密結社「替天行道」のナンバー2。棍術、棒術にかけては河北随一の猛者。落ち着いていて、大らかな性格で、リーダーの貫禄がある。しかし、たまに鋭く、暗い目を見せることがある。
④「宮正の青年」 許仙(きょせん)
20歳。字は貫忠(かんちゅう)。後宮内の不正を取り締まる役職の青年。実直な性格。剣技に長けている。主人公のことを怪しみ、密かに監視するが、もともと官界や後宮の腐敗に嫌気が差していた彼は、やがて彼女のまっすぐな心に惹かれてゆく。
⑤「正室(第一夫人)」鄭皇后(ていこうごう)
34歳。現在の皇帝の正室。美貌で詩才がある。
⑥「側室」劉貴妃(りゅうきひ)
25歳。化粧と、衣服のデザインが得意。遊ぶのが大好き。
⑦「側室」韋修容(いしゅうよう)
33歳。地味な見た目から寵愛されないが、野心に満ちている。
⑧「ライバル」名前考え中
18歳。主人公を敵視する同期の才人。本来後宮入りするには遅い年齢だが、父親が実力者のため、推挙された。美しいが、性格はねじ曲がっている。
⑨「友人」名前考え中
18歳。主人公と同期の才人。おっとりとした性格。淑女としてのたしなみは一通り教わっている。主人公と仲良くなり、何かと手助けをしてくれる。
※ ※ ※
ひとまずプロットを送り、後はX社からの返答を待つのみとなった。
さて――この当時、実のところ自分は小説どころではない状況でもあった。ある大きな三つのことで忙しく動き回っており、その隙間時間を縫って、X社向けの案件もこなしていたのである。
その三本柱を抜きにして、ここから先の話を語ることは出来ない。
なぜなら、その三本柱こそが――X社の案件と合わさって――このエッセイの第一回のタイトル「小説が書けなくなった小説家」へと後々繋がってくるからである。
X社からの返事がどうなったかはしばらく置いて、私がどんなことでバタついた日々を送っていたか、それについて触れたいと思う。
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