あんたの首輪は赤いから

 
 わたし生まれ変わったら、来世は、犬になりたいのだ。

 
 だいすきなあなたが飼っているちいさなフレンチブルドッグになって、赤い首輪をつけられて、たべものの名前(ココアとかわさびとか)をつけられて、可愛がりたいときにだけわしゃわしゃと撫でられて、ごはんをもらって、ふだんは家でさみしく帰りを待って、ドアが開く音で駆け寄って、リードをつけられて散歩に連れて行ってもらって、たまにベッドにもぐりこんで、そうやって彼に飼われて生きていけたら、どんなにしあわせだろうと思う。
 わたしが君に抱いているこの気持ち、きっと恋、なんだろうけど、つやつやの長い髪を携えて君と並ぶ女の子なんかよりあの優しい声でちくわ、と呼ばれる犬の方がよほどうらやましかった。数カ月で入れ替わる彼女たちと違って、ちくわ、あんたはきっと彼のとなりで生きたり死んだりできるでしょう。
 
「無理無理、きっとあんたには耐えらんないわ。ひとりぼっちで家にいるあいだ、彼は彼と同じニンゲンの女を撫でたりしているんだろうし、今は入れ替わる女だって、いつかはケッコンしたりして決まったひとりになって、一緒に暮らしたりするのよ。彼に愛された女と家族になって、そいつからご飯をもらったりそいつに撫でられたりして、死ぬときだって、彼よりそいつが泣いたりするのかもしれない。どんだけ吠えたって憎んだって、そいつにあんたの言葉は届かないんだから」

 お昼寝中の夢の中で、まんまるの目を細めてちくわが言う。
 ねぇちくわ、それならあんたは耐えられるの。彼に連れられて散歩するあんたのあのきらきらの瞳はきっと恋でしょう、あんたは、そんな日が来るのがつらくないの。あんたはわたしなんかよりずっと強くて賢いから、上手に彼といられるのかしら。
 尋ねたって返ってこない。これは夢で、今世のわたしは犬じゃないのだ。ちくわの言葉を理解することも、ちくわに言葉を届けることも、本当はできやしない。

「あ、今日もいるんだね」
 散歩中、彼は塀の上で身体を丸める猫を見つけてそう言った。猫は声が聞こえるとぱちぱちとまばたきをして、その大きな目でじぃっとその顔を見やる。
「わぁ、真っ白でかわいい」
「野良猫なんだけどさ、いつもこのあたりでひなたぼっこしてるんだ」
 こんにちは、と彼が細い腕を伸ばすと、猫は触れられる前に素早く身体をよじり、甲高い声でにゃあと鳴いて走り去ってしまった。
「あれ、珍しい。機嫌でも悪かったのかな。人懐こくて、いつもは気持ちよさそうに撫でさせてくれるんだけど」
「わたしも撫でたかったな。今度はご機嫌だと良いね、猫は気まぐれだから」
「そうだね」
 細いリードがくいと引かれて、あたしはふたりの後ろをとことこと着いていく。
 そう、飼ってもくれない男になんて、触らせないほうがいいわ。それで忘れた方がいい。それでも好きなら、来世は飼い犬なんかじゃなくってニンゲンになれるように願いましょう。あんたにはやっぱりあたしの生活、耐えらんないわよ。
 あたしは大丈夫、だってあんたより、ずっと強くて賢いから。あんたが傷つかないようにそっと、ちゃあんと、忠告してあげられるくらいね。











生活になるし、だからそのうち詩になります。ありがとうございます。