「神様がなんでも叶えてくれるって言ったら、今この瞬間は何をしたい?」京都のお蕎麦屋さんで聞いたこと
初めて一人で京都に行った時、銀閣寺の前のお土産物屋さんの多い通りで、赤い和傘の女性が歩いていた。桜の花模様の青い着物の女性で、立ち止まって振り返った姿が、白い鶴のように心に触れる。
歩き疲れた私は、少し町をさまよってお蕎麦屋さんで休むことにした。一番安いかけそばを頼む。喉が渇いていたので十分ごとにお茶を頼んでいたら、お店の人が急須ごと持ってきてくれた。唐辛子をかけすぎてむせながら、大事に大事にそばをすする。
「ねぇねぇ、もしも神様がなんでもしていいよ、なんでも叶えてくれるって言ったら、どうしたい?」
その問いは後ろの席から聞こえてきた。
「そんな大げさなことなの、そばを頼むのって。鴨がいいけど、ちょっと高いね」
女性の声に、男性の声が返す。
「だってさ、高いけど、今払えないほどじゃないじゃん。本当はできることを、毎日そうやってちょっとずつ妥協して生きてたら、一生のうち、妥協が占める割合ってどのくらいなんだろうって」
私は思わず、そばをすする手を止めて、後ろの席の会話に耳をそばだてた。
「うーん、そしたら、すごく大金持ちになっていろんな国を旅行したいよ」
「そうじゃないの。未来っていっぱい可能性あるのに、そのうち一つに決めちゃうってもったいないじゃん。そうじゃなくて、今、この瞬間にしたいことで一番のことってなーに? だってさ、今すぐ海外って行けないじゃん。今、うちらは京都にいるんだし。今、この京都の蕎麦屋さんにいるっていうこの瞬間に、一番したいことだよ」
少しの沈黙の後、男性が言う。
「鴨、食べるよ。アキは?」
「私、とろろ!ね、毎瞬ごとに、一番やりたいことだけやってたら、やりたいことだけしかない人生になるでしょ?」
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