タンザニアのタクシードライバーがいう「自分を変えるために必要なこと」の話
「雪を見たことがある?」
タンザニアの大都市、ダルエスサラームの空港へ向かうタクシーの中、カタコトの英語でドライバーが私に聞く。
「もちろんあるよ。雪って土地ごとに違うんだよね、ロシアに行った時、粒の大きな雪を見かけたよ。東京はもっと水分が多くてべちゃって。あんまり降らないけど」
そう答えると、ドライバーはうなずく。砂汚れのついた服を着たドライバーで、やけに鮮やかな赤い帽子をかぶっていた。くるくるの髪の毛に白いものが混じり、目の周りにしわができていた。
「いつか自分も日本に行きたいよ」
当時、タンザニアの中級ホテルの平均月給が七万五千タンザニアシリングくらいだと聞いていた。日本円にすると四千円くらい。時期にもよるが繁忙期の夏に行く場合、日本からタンザニアへの往復航空券は二十五万円だった。五年間働いても往復の航空券には満たない計算になる。
「旅はどうだった?」
「大変だった。思ってたよりすごく。でも、来てよかった」
「大変だったというのは、いいことだよ」
老いたドライバーは赤い帽子を左手でなでながら言った。
「どうして?」
「本当に苦しい思いをしただけ人は変われるんだ」
少しの空白ののち、なんとなく気になって聞いた。
「何か苦しいことがあった?」
「妻と娘をなくしたよ。出て行ったんだ。もっと一緒にいればよかった」
ドライバーは左手で赤い帽子を取って、前を向いたまま私に渡した。
「思い出の品だよ」
空港に着いてトランクからバックパックを取り出した後、私はドライバーに手を差し出した。
「変われた自分はどう?」
ドライバーは私の手を握ると、白い歯を見せて言った。
「最高だよ」
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