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悪魔の所業相談所👿第二章

――第二章 小さな優しさ――

 それはずっと忘れられないであろう出会いでした。私は珍しく、この日の客人の姿を見て驚きました。
「どうしましたか、レディ。」
私は優しい笑みでその客人に話しかけた。
とても小さな白いワンピースを着た可愛い少女がこの相談所に訪れたのです。まるで天使のようで…この相談所には不釣合い過ぎる。
私の問いに何も答えが返ってこないので私は、
「迷ってしまわれたのでしょう?」
そう聞いた。それを聞いた少女は黙ったまま首を横に振る。そしてこう言ったのです。
「お願い聞いてもらいにきたの。」
と。それが、この相談所始まって以来の最年少の客人との出会いでした。私はどうしたらいいのかと首を傾げました。結局、
「何かをいただかないと、願い事は叶えてあげられないんですよ。」
そう説明して笑った。これで諦めてくれるだろうと思っていたのに、少女は、
「知ってるよ。」
そう言って相談所に入りソファーに腰掛け遊んでいるかのように足をぶらぶらとばたつかせていた。
「悪魔…嫌いでしょう?」
私は小さな客人にそう聞いた。
「いいえ。何時も悪魔ばっかり嫌われていて可愛そうだわ。だから、私は悪魔、好き。」
と、無邪気な顔で少女は言う。私も思わずそうですかと言ってにこりと笑った。
「それで…お願い事って何ですか?」
私は少女に聞きました。
「ママとパパを仲良くさせて。」
先ほどまでばたつかせていた足を止め、少女はそう言った。
「…で、何をくれるのかな?」
私は出来るだけ叶えてあげようという気になって話しを進めた。
「これ…。ママがパパからもらったの。凄く大事なものだって聞いた。
だからこれで叶えてくれる?」
そう言って少女が差し出したのは、真珠にガーネットのトップがついたネックレスでした。
このネックレスを大事にしているという事は、きっとこの少女の母親は父親が本当に嫌いになったわけでもないようです。もし私が願いを叶えても、流石にこんな小さな少女から報酬を貰ったとあってはこの相談所の名が錆び付きます。それに願いを私が叶えなくても何時か自然に叶うような気がします。しかしながら私は悪魔。代償なしに私が願いを叶えたら、その代償は私自身が払わねばならないのです。私は悩んだ挙句にこう言いました。
「それで願いを叶えるには少な過ぎます。でも、お詫びにいい事を教えてあげましょう。」
と。客人は私の話しに興味を持ったのか、私の顔をまじまじと見つめてきました。私は、
「実は貴方のお父様も、悪魔なのですよ。
だから貴方のお父様にお願いすればきっと願いを叶えてくれる筈です。その代わり、今日…私に話した事をちゃんと貴方のお父様にも伝えるのですよ。」
そう少女に教えた。勿論、少女の父親が悪魔のはずなどないが、悪魔が好きだと豪語するぐらいのこの子ならば父親を嫌いに思う事もないでしょう。これで私も無駄な仕事をする事もなくなるのだ。
「うん、わかった。」
少女は言って納得したようだったので、私もほっとした。しかし、その後少女はこんな事を言い出したのです。
「もう一つ…あるんだけど…。」
と。安堵も束の間でした。
「もう一つ…ですか…。」
私は困って、そう口から漏らしました。
「結婚してくれる?」
少女が私にした願い事はこれでした。私は困り果ててこう言います。
「嬉しいですが…まだあなたは若いのだから、これから他に好きになる人も出きるかも知れません。それに、何ももらわずに願いは叶えて差し上げられないのですよ。」
と、私が申し上げると少女は悲しそうな瞳をして、
「私が人間だから駄目なの?」
そう聞いてきます。私は首を横にふり、
「いいえ。私の母も人間でしたから…。」
と、答えると少女はまた聞きます。
「じゃあ、私が嫌いなの?」
と。私は困りながらもこう言いました。
「私には貴方が大人になって素敵なレディになっている姿が見えます。悪魔の花嫁としては勿体無い人ですよ。けれど、もし…その願いを本当に叶えて欲しいと思うなら…。」
そこまで言うと、少女は瞳を輝かせて、
「思うなら?」
と、聞き返しました。私は思わず、その愛らしさに微笑みながらこう言います。
「これは願いではなくて、約束という事にしましょう。もし、貴方が二十歳になっても私の事を好いていて下さったならば、貴方を花嫁として迎えに参上致しましょう。それでいかがですか?」
その提案に快く少女は頷いてくれた。
「じゃあ、フィアンセねっ。」
少女はそう言って笑いました。私もええと言って笑いました。
「でも、この婚約の話しはお父様には内緒ですよ。」
と、私は付け足した。私は悪魔であって、預言者ではない。代償無しには何の力もないのです。だから本当は、彼女の将来なんて見えない。
只、思ったのです。長い命の時間の中で、約束というものに縛られても悪いものじゃないと…。
「お礼に…これあげるわ。」
少女は帰り際に、約束の印にと小さなくまのぬいぐるみをくれました。このくまを代償にすれば、本当は今すぐにでも叶えられる願いだったのかも知れません。でも、そんな気にはなれなかったのです。例え花嫁に迎えられなかったとしても、私はこの子の将来の姿を見る楽しみが出来たのですから。遠い夢は…夢のままにとっておいた方が綺麗なものなのです。この黒い羽根で大人になった少女を迎えにいくという夢が出来た。不自然なものです。だって…私は悪魔なのに…。
本当は願っているのです。
人間の欲が夢のようなものであったのならばと…。そう思いながら、私は夢を代償で叶える。天邪鬼なんですよ…。
だって…私は悪魔だから…。

🔸次の↓第三章へ↓(此処からお急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。