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人生は走馬灯

12月15日(日)、9日に中能登に来て7日目だ。東京を離れて1週間が経った。今日は黄さんが中能登町に来る日だ。20日(金)に同じ新幹線で帰る。ちょっとホッとする。
今回、黄さんは二人の女性をお連れいただいた。一人は木造建築の地震対策に関わっている女性社長で、私の20年来の友人。もう一人は古民家に興味がある女性社長で、黄さんの友人だ。
”友だちの友だちは皆友だちの法則”に則り、私たち4人は皆友だちだ。

道端さんの鵜宿(古民家)に対してどのような地震対策を講じることができるのか、そのための内見が今回の目的だ。ビジネスではあるが、そのベースに人間の情という温かい心がある。それが、みんな、Win‐Winになる根っこの考え方だ。


今朝は、この冬初めてのみぞれと雪の朝だった。朝風呂に浸かっていて、けたたましく屋根に打ち付けるみぞれの音を聞いた。これでは、道の駅までのウォーキングはきつい。こんな時こそコミュニティバスを利用するに限ると思って、防寒対策を完璧にして、かしまコース[みおや方面]8:21小田中バス停発に乗ろうと思った。
外に出ると、みぞれは雪に替っている。道路一面に薄っすらと雪が積もっている。
バス停で待っているとおばあさんがひとりバス停に向かってこちらにやって来られた。私は、「今年の初雪ですね」と声をかけたところ、おばあさんは能登訛りで、「自宅は小金森にあって、古くて住むことができなくなってしまったので、小田中に借りて住んでいる。地震で壊れたのではない。もう住んで2年経っている。新築する余裕がないので、近くの小田中に空き家を借りているのだ。能登は空き家ばかりで、一人住むには全く困らない。
能登は、老人ばかりで若い人はいない。能登半島地震があって、これからどうなることやら。私たち老人は死んでいくだけだが、子どもたちは都会に行ってしまって帰ってこない。能登は廃れていくばかりだ」とか何とか、バスに乗ってからも私に話しかけてこられる。
私も72歳の老人だが、このおばあさんは私より10歳も15歳も年上ではないかと思われる好々婆(こんな言葉はないが)だった。
私も半世紀ぶりの能登弁を懐かしく思い出しながら、和気藹々と話すことができた。

ふるさとの訛り懐かし
停車場の人ごみのなかにそを聴きにゆく(石川啄木)


能登訛りと加賀訛りは違う。都会の人は分からないだろうが、能登で育った私にはしっかりと分かる。
金沢大学附属高校に進学して金沢に下宿したが、同期生たちはほとんどがはしこい金沢の生徒たちだ。そして、教室では加賀弁が飛び交っている。
加賀と能登の関係性は悪くないと思うが、金沢は加賀百万石の城下町であり雅な街だ。能登の田舎っぺはコンプレックスの塊だ。154人中10名足らずの能登出身者がいたが、みんな黙りこくっている。能登の人は口下手だ。
これからどうなることやら、私は早速ホームシックに罹ってしまった。

能登のととらく
加賀のかからく

金沢の人は偉ぶっているわけではない。能登の人をバカにしているわけではない。能登の人だとかそうでないとかを全く意に介していないだけなのに、能登の人が委縮しているだけなのだ。
何の切っ掛けがあったのか、金沢大学附属中学出身の同期たちが、「小林は面白い奴だ」と思ってくれて、私に「おっさん」という仇名を付けてくれた。

それから少し経って、私は劇団[星]をつくり、当時スポコンもので人気があった「巨人の星」を高校の文化祭や予選会で実演するまでになった。勿論、主役の星飛雄馬はこの私である。学年のマドンナだった同期の女性に飛雄馬の恋人の美奈さんの役をお願いし、1年後輩の女性には姉の明子の役をお願いした。どうしても劇団に加わりたいと言った2年後輩の女性には、「左門豊作の妹の役しかないよ」と言って、「それでもいい」と言うので、左門の妹の役をしてもらった。セリフは一言だけ「お兄ちゃん、頑張って!」

劇団[星]では、寸劇「王将」も実演した。阪田三吉と関根金次郎の二人芝居だ。私は勿論、主役の阪田三吉役だ。それが、東京大学応援部に入部して、東大駒場の駒場祭で実演した「一人芝居[王将]」の原型だった。

人生は四季に準えられる。その春夏秋冬は、人生では冬春夏秋ではないだろうか。
人生の冬は、生まれてから大学を卒業する20代前半までの20年強だろう。
私の人生の冬は、能登の田舎っぺは変わることはないが、引っ込み思案の田舎っぺから誰よりも目立ちたがり屋の田舎っぺになっていった20年強だ。
そして、応援部に入って、”応援とは黒子”と教えられ、目立ちたがり屋と黒子の両面を兼ね備えた人間に変わっていった20年強だったろう。

そして私は、人生の白秋の今、その原点である能登に帰ってきた。

人生とは、グルっと回る走馬灯のようなものだ。


不動院重陽博愛居士
(俗名  小林 博重)


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