ピアスを開けても、きっと運命は変わらない
「ピアスを開けたら運命が変わるんだって」
数年前、母にピアス穴を開ける相談をしたときに言われたこと。
新しい靴は午前中に下ろす
夜中に口笛を吹くと蛇が出る
夜に爪を切ると親の死に目に会えない
そういうのと同じレベルの、昔から言われている迷信めいたもの。
だけどピアスのそんな話を聞いたのは初めてだったので、一体いつの時代の話なの?って気持ちで全然信じていなかった。
それでも開ける日も、開けてしばらく経った日も。なんとなく、私の運命は変わったんだろうかと思うことがあった。一度聞いてしまったことがずっと頭に残っている。
開けてから1年半以上経つけれど、結果的にはまあ勿論なんにも変わっていないのだ。
環境は停滞するばかりで、人間関係にも変化はない。なんならこんな状況の世の中が私の両耳ひとつずつの穴ごときで、今の運命に変わってしまったなんてあり得ない。
私がピアスを開けたのは、ただの憧れ。
ピアスが開いているということへの憧れがひとつ。
もうひとつは両親の結婚指輪や、漫画やアニメのキャラクターが肌身離さず身につけるアクセサリー。そういう「ずっと身につけていられるお守り」に憧れがあった。
私はピアスを開けた当時も今も、誰かと一生を添い遂げる覚悟で左薬指を埋められる自信はなかった。社会人になるとアクセサリーも服装も大好きなネイルも、自分の好きなままに居られるわけじゃない。
新卒で入った会社が、イヤリングはダメだけど、穴が開いてるなら控えめなピアスひとつくらいは仕方ないか...みたいな謎の風潮だったので、じゃあ開けたろ!という反骨精神も大いにあった。(正直こういう勢いがなきゃ開けられない)
ピアスを開けるっていうのは、大事にしたいものが増えるっていうこと。
開けてからしばらくはジンジンとした痛みがあるし、個人差はあるけどなかなか安定しなくて困った。服を脱ぎ着するときに引っ掛けないように気をつける鬱陶しさもある。寝るときだって邪魔だ。
でもそれがあるから私は安心できる。自分の体に穴を開けて、お気に入りを通す。身につけるひとつひとつを大事にできる。
この穴は、反骨精神と自己主張とお守り。運命は変わらなかったけど、大切なものになった。
今日も、どうか塞がらないで欲しいと願って、ピアスを刺して眠りにつく。