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「聞く」ことで心を育む

人は五感を使って、360度から24時間、休みなく情報を入手し、処理しながら生きています。そして、その情報処理の方法は、深く思考するというよりも、思いの外直感的で、反射的なものが多いです。

強い刺激を絶え間なく浴びていれば、ゆっくり考えるよりも、素早く対処することを要求されますからね。その判断基準は、自分にとって「損か得か」「危険か安全か」「快か不快か」。これは動物である以上、避けられませんが、何を持って『得』とするかは、人それぞれです。

大きなウエイトを占める視覚情報

人の五感による知覚はかなり偏っていて、受け取る情報は、視覚が圧倒的に多く、9割近くもあります。しかも、今は誰もがスマホを持つ時代。電車に乗っていても、ぼーっと外の景色を眺めている人はほとんどいません。人々の目線はスマホの画面に釘付けで、同時に、脳は絶え間なく、視覚情報の処理に追われているのです。

【人間の知覚】
視覚 87%
聴覚 7%
嗅覚 3%
触覚 2%
味覚 1%

圧倒的に「見る」より「聞く」が早い

ところが面白いことに、情報を伝える伝達速度は、聴覚の方が早いのです。

大きな音がして瞬間的に身構える、ということがありますよね。反対に視覚情報は、何が起こっているのかを考える、タイムラグが生じることが多いです。これは進化の過程で生まれた差異。

かつて、人間が夜行性で、昼間は穴蔵で暮らし、生き延びてきた小さな動物だった頃の遺産だといわれています。視覚情報があてにならない暮らしの中で、身を守るにために発達させてきた、というわけです。

その結果、聴覚情報は思考回路を通さずに、直感的に大脳辺縁系に入力され、感情を揺らすようになったのです。耳から入る音、特に音楽は心を揺さぶるエモーション的な要素が強くなりますが、それにはちゃんと理由があったのです。

音のご褒美

そう考えると、私たちが日頃耳にする「音」が気になりますね。
最近、音楽を聴く機会が多いのですが、短調の曲は物悲しい気持ちになりますし、長調は明るい気持ちになるのが自分でもはっきりとわかるので面白いです。

騒音は、時に暴力的だなと感じますし、美しい音は心のご褒美だと感じます。静寂というのも、都会で暮らす人にとっては、究極のご褒美。そして、子どもにとってのご褒美は、何よりも優しく語り掛けられることにあるのです。

母の声

子どもは、胎内にいる頃から聴覚を発達させていきます。
妊娠7ヶ月にもなると音をしっかりと聞いている、といわれますから、どの子にとってもお母さんの声は一番馴染みがあり、安心感を与えてくれるもの。

どんな声色で、何を語りかけるか。
時々振り返ってみましょう。

幼いうちは、どうしても禁止用語が多くなるでしょう。
だからこそ、伝え方は大切なのです。ダメを伝えるときは、厳しい口調で、はっきりとわかりやすく伝えます。それは「しまった…」という反省を促すためです。

でも「自分はなんてダメなんだ…」とまでは、思わせる必要はありません。
やった行為はいけないことだけれど、あなたは大切な存在だから伝えたかったんだ、次はきっとしなくなる、と受け取ってもらうことが必要です。同じことが繰り返されたとしても、何度でも同じように伝えるのです。

そして、寝る前の時間をぜひ大切にしてください。
「あなたを心から愛している」という気持ちが伝わるような「声」を届けてあげてほしいのです。頬を撫でて、微笑みながら、語りかけてください。それはきっと想像以上に、力強く、お子さんの心を守ってくれる”お守り”になります。それくらい「母の声」は大きな影響力を持つのだと思うのです。

鶯千恭子(おうち きょうこ)

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