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環境が作り出す発達の凸凹

子どものからだに異変?

「鉄棒から落ちて顔面を殴打した」
「跳び箱で両腕を骨折した」

時々、首を傾げてしまうような子どもの怪我を耳にすることがあります。
独立行政法人日本スポーツ振興センターによると、骨折が小学生から高校生まで増加しており、全体で30年前の1.5倍、1970年と比べると2.4倍にまで増えているというのです。
これは一体どういうことなのでしょう?
今回は、子どもの運動発達について考えてみたいと思います。

遊びが変わった?

共同注視

皆さんは、子どものころ、どんな遊びをしていましたか?
今のようにスマホもゲームもなかった時代に育った私は、家にずっといても楽しくないので、することがなくても、遊ぶ友だちがいなくても、外に行けばきっと何かあると思い、日が暮れるまで外で過ごしていたことを思い出します。

実は、子どもたちのけがが増えているのは、危険と感じる”遊具”が減ったことと、そして、時には怪我をすることもある”遊び”が減ったからではないかといわれているのです。

どうも大人が見ていなくても、必要なからだの動きやその成長を支えてくれた「遊び場」や「遊ぶ環境」が、急速に失いかけているようなのです。

ブランコが使用禁止の公園

水たまり

いつだったか、公園を通りかかって驚いたことがあります。
外枠だけはあるのに、肝心のブランコが外されていたり、シーソーが取り外されているのです。
驚いて、調べてみたところ、こんな実態がわかってきました。

国土交通省による2001年と2013年の比較調査で、動きのある遊具が半減していたのです。
理由は「危険回避」です。
どこかで事故が起こり、この遊具は危険だと判断されると、次々と取り外されていたのです。

危険なものが取り外されて「安全」となった公園ですが、果たして子どもたちは、元気いっぱいに遊ぶようになるのでしょうか?

残念ながら、子どもたちの取り巻く環境の中で、ここ数年で増えたのは「不審者情報」です。
不審者情報は、リアルタイムで「どこどこに、不審者が出没したので気をつけるように」と教えてくれるのですが、一体どこだろう?と調べると、同じ市内でも遠く離れた場所だったりします。
ところが、この不審者はさも今すぐ近くにいて、知らぬ顔で次の獲物を物色しているかのような恐怖を感じるのです。
そうなれば、安心して子どもを一人で遊びに出すことは出来なくなりますよね。

このような変化は、子どもたちのからだを動かす機会の減少を誘発します。
例えば、小学生の平均歩数。
1979年は平均27000歩でしたが、たった30年で62%も減少し、今では約1万歩になりました。

また、昔は夏になると汗が滴り、肌はよくべとつきました。
冬は、よくしもやけで足の指がかゆかったものです。
それはある意味、お風呂に入って汗を流す心地よさを体感したり、湯船につかりながら足をもむといいんだと教わったりする体験でもあったのです。

ところが、進化した今の私たちの暮らしは、夏はクーラー、冬は暖房で、いつでも快適さを保つことができるようになりました。
この変化は、本当に人をしあわせに、生きやすくしてくれたのでしょうか?
子どもたちの心とからだの健やかな育ちを、守ってくれることになっているのでしょうか?

しゃがめない曲がらない

しゃがめない2

宮崎大学医学部整形外科教授の帖佐悦男先生の調査によると、小中学生8783人を対象に「かかとをつけたままでしゃがみ姿勢をとって静止できるか」というテストを実施したところ、同じ姿勢を取り続けることが出来ずに、後ろにひっくり返ってしまう子どもが一定数いることが分かったのです。

皆さんも、一度やってみてください。
「かかとをつけたまましゃがむ」
この姿勢で、一番負荷がかかるのは、足首の「関節」です。

ご存知の通り、関節は骨と骨とのつなぎ目のことですが、筋肉や靭帯がくっついて動きを可能にしています。
からだを動かさなければ、関節が固まってしまい、動く範囲に制限がかかってしまいます。
それが足首の関節であれば、しゃがむと動きに制限がかかってしまい、後ろにひっくり返ってしまうというわけです。

このような検査の結果、約23%のお子さん(4人に1人)に関節が固まる傾向があることがわかったのです。

自然の中が一番の公園

しゃがむ

では、子どもたちはどんな環境であれば、からだを動かして、運動機能を発達させることができるのでしょうか?

一番は、自然に囲まれた環境に置くことではないかと考えます。

砂場で夢中になってトンネルを作る
しゃがんでアリの行列をみる
木登りをする

運動に注目すると、見えてくるのは、関節をギリギリに伸ばしている動きだったり、足の指に力を入れて踏ん張り、飛んだり跳ねたりしている動きだったりするのです。

しかも、単純に動くだけではありません。
その時に、感情が大きく揺れることで、心の豊かさも育まれていくのです。
友だちと激しい意見のぶつかり合いの経験も、心を近づけて、強い結束力を作る事ができる、大事な経験になります。
だから、自然がとっても魅力ある公園なんだと思うのです。

実際に、こんなデータもあるんです。

① 一緒に遊ぶ友だちの数が多い
② からだを活発に動かす事が多い
③ 自由遊びを楽しんでいる

上記に当てはまる子どもは、「我慢強さ」「やる気」「集中力」の全てにおいて、高い値を示したのです。
反対に、遊ばない、遊びを楽しめない、一人遊びが好きな子は、この3つの値が低くなることも示されました。
(文科省幼児期運動指針策定委員会H24)

つまり、環境というものは、人間のつくりそのものを変えてしまうほどの威力を持つのです。

コロナで生活環境が一変した今、私たちのつくられ方がどう変わっていくのかは、まだ未知数ですが、発達途中の子どもであれば、尚のこと、偏りを作らせない注意と配慮が必要なのです。

すすむ二極化

サッカーの少年

人間はあえて未熟で誕生し、環境に適応するために、成長の余地を残しました。
大人が「おとなしくしていてね」と要望し、スマホやゲームを与えるということは、20cm四方の小さな画面をジッと見続けて、何時間も過ごすという環境に置かれるということになります。

では、習いごとをたくさんさせればいいのでしょうか?
サッカーやスイミング、バレエに体操。
今では幼児の習いごとが盛んですが、これらの習いごとをしておけば、足りないものを補っていけるのでしょうか?

習いごとをすれば子どもの身体が作られるというのかというと、実はそうではないと指摘する医師は多いです。

実際に、先ほどの「かかとをつけたままでしゃがむ」という姿勢保持ができずに、後ろにひっくり返ってしまった子の一人は、一週間に10時間以上もサッカー教室に通っている男の子でした。
どうも習いごとをしていれば安心というわけでもなさそうです。

ちょっと習いごとをしている子どもの動きに注目して、考えてみてください。
習いごとの様子を見ていると、実は順番を待っていたとか、動かずにただジッとしているという時間が意外の長い事がわかってきます。
また、決まった動きを何度もくり返すことはあっても、全身の運動器を動かすことが少ないといったことに気づくかもしれません。

習いごとがいけないと言っているわけではないのです。
社会性を発達させる意味もありますし、いつもと違う環境で、多様な刺激を受けることで、意欲を育てたり、覚えたことを家でくり返すことで、できる事が増えることもあるでしょう。
そうではなくて「習いごとさえしていれば大丈夫」と思うのは、早急すぎるのではないかということなのです。

自然に触れよう!

海を眺める少女

今は、昔と違って「放っておいても子は育つ」という時代ではなくなりました。
環境は人のつくりを大きく変化させる威力を持つという事、そして、そのことを意識できる大人のもとで育つ子と、そうでない子との格差がどんどん広がってしまうということを、知っておくことがとても大切なのです。

子育て世代は、とにかく時間に追われます。
忙しくて、休む間もないほどです。
それでも、あえてお伝えしておきますね。
お休みの日には、ぜひ意識して、お子さんを自然の中に連れ出してあげてください。
現代の子育ては、親も一緒に遊んであげること、いろんな活動を一緒になって体験し、その感動を一緒に共有してあげることが重要なのです。
なぜなら、放っておいても、豊かな環境が勝手に育ててくれる時代ではなくなったからなのです。

そして、きっと「楽しい」という感情と共に引き出される動きや記憶は、子どもの心とからだを間違いなく、丈夫に、たくましく、そして、しなやかに育んでいくことと思います。

大切なお子さんが、どうか健やかに育っていきますように。
心から願っています。

鶯千恭子(おうち きょうこ)

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