分詞構文って何ですか?📙文学的表現だよ!
分詞構文って何ですか?
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」
川端康成の『雪国』の書き出しです。
あまりにも美しい表現です。
トンネルを抜ける前の「現実世界」。
トンネルを抜けた後の「ユートピア」。
英語の分詞構文を授業で扱うときに,なぜか雪国の冒頭の一文が思い浮かびます。英語は「主語の省略」が少ない言語です。もちろん,その場面や状況で省略しても勘違いされない場合,英語でも主語を省く場合もあります。しかし,日本語と比べると,あまりにも少ない。
その中で,分詞構文は「接続詞と主語」を省略する正規のルールです。ただし,もともとある語句を省略する訳ですから,何らかの意図があるはずです。考えられるものは,以下の2つ。
①意味が通じるなら,省略や短縮形を使ってして短くしたほうが楽である。
②省略して表現を変えることで,文脈に幅を持たせる。
※新聞などの記事では,スペースの関係上,文字数を減らす目的で使われることがあるようです。
私は,分詞構文の役割として,②の「文脈に幅を持たせる」ことに大きな意味があると考えています。
それでは,『雪国』の冒頭の一文を英語にしてみましょう。
Coming out of the long tunnel on the country boundary, we found the snow country.
これを分詞構文を使わずに表現すると,以下のようになります。
When we came out of the long tunnel on the country boundary, we found the snow country.
2つの文を比べたとき,どうしても私の中の『雪国』は,分詞構文を使った表現の方がしっくりきます。
しかし,アメリカの日本学者であり翻訳家であったサイデンステッカーさんは,最終的に次のように翻訳しました。
The train came out of the long tunnel into the snow country.
名訳と言われています。彼の英訳によって,『雪国(Snow Country)』は世界の人々に読まれ続けています。日本文化とアメリカ文化の両方を知っていたサイデンステッカー。主語を「私"I"」や「私たち"we"」にしていないところが注目されてきました。また,彼の翻訳には分詞構文は使われていません。
言葉の構造そのものを知ることと同時に,文法を言葉の表現として考えることは,とても大切なことだと思います。