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売れない不動産は相続財産管理人に任せるべき?判断ポイント2点

「うちの実家、相続財産管理人に任せるべき?」
「売れそうもない田舎の不動産を相続することになりそう。相続したら、ずっと維持費がかかるので何とかしたい。」

こんな時には、相続財産管理人に任せることを検討してみてください。
なぜなら、相続財産管理人に任せれば売れない不動産の管理責任を免れることができるからです。

相続財産管理人とは、相続する人がいなくなった相続財産を国に帰属させる手続きをする人のことです。

"相続財産管理人は、被相続人(亡くなった方)の債権者等に対して被相続人の債務を支払うなどして清算を行い、清算後に残った財産を国庫に帰属させることになります。”(裁判所 HPより引用
しかし、相続財産管理人に任せるためには数十万円、100万円以上の費用がかかることもあります。このような場合、相続放棄するのではなく、少額でも売却する、又は無償譲渡(贈与)することを検討したほうがよい場合もあります。

本記事では、相続財産管理人に任せるメリット・デメリットとともに、相続財産管理人に任せたほうがよいのかを判断するポイントをステップでお伝えします。

読み終えていただければ、相続財産管理人を利用すべきか否かを判断できるようになり、売れない不動産を手放すためにやるべきことがわかります。わかりやすくお伝えしますので、ぜひ検討してみてください。


監修者情報

印南和行(宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)、一級建築士、一級建築施工管理技士、不動産コンサルティング技能士試験合格)全国不動産売却安心取引協会 理事長。住宅専門チャンネル「YouTube不動産」が「わかりやすくて参考になる」と大好評でチャンネル登録者8万人、総視聴回数2100万回を超える(2022年7月1日現在)。著書に「プロ建築士が絶対しない家の建て方」(日本実業出版社)、「プロが教える資産価値を上げる住まいのメンテナンス」(週刊住宅新聞社)がある。


1.相続財産管理人に任せるメリット・デメリット

『相続財産管理人』とは、相続する人がいなくなった相続財産を国に帰属させる手続きをする人のことです。相続放棄された不動産を相続人に代わって管理・処分してくれます。

メリットとしては、手放した債務の返済や、空き家の管理などを一任できるので、遺産を相続放棄したあとも安心して過ごすことができます。

たとえば相続人全員が相続放棄した不動産が空き家として放置され続けると、害獣などが住み着き、近隣住民に迷惑をかけてしまう恐れがあります。

野犬が住み着き、近隣住民にかみついて怪我をさせてしまった場合、たとえ相続放棄していても管理責任が問われ、損害賠償を求められることになります。相続財産管理人を選定するとそのような不安がありません。

一方、デメリットとしては費用が発生することです。
相続財産管理人は、家庭裁判所が申し立てに応じて選任します(民法952条1項)。
家庭裁判所は申立内容を審査し、必要があると判断したときは、弁護士や司法書士など、最適な者を相続財産管理人に選任します。

選任には費用がかかります。相続財産管理人の報酬は、原則として相続財産から支払われます。
相続財産から報酬を支払うことができないと判断された場合、家庭裁判所は申立人に対して「予納金」と呼ばれる金額の前納を求めます。
この予納金は状況によっては100万円以上になることもあるので注意が必要です。

家庭裁判所への申し立てについては戸籍など必要書類が必要となりますので、戸籍を集めるなど、自分で行うには手間がかかります。
こちらも費用はかかりますが、基本的に専門家に手続きを依頼することをお勧めします。

メリットとデメリットを比較検討し、相続財産管理人に任せるか検討しましょう。

では、具体的に相続財産管理人にかかる費用をみていきます。

1−1.相続財産管理人にかかる費用

相続財産管理人の選任申し立てをおこなうには、裁判所への手数料がかかります。
申立書に貼付する収入印紙、連絡用の郵便切手、官報公告料があります。

収入印紙は800円、連絡用の郵便切手は1,000円程度、官報公告料は4,000円程度、それぞれ必要となります。
このほか必要書類として提出が求められる戸籍謄本などの発行手数料もかかります。※2022年9月末時点

相続財産管理人が選任されると、報酬を支払わなければなりません。月額1~5万円程度の報酬金額が多いです。
まずは相続財産から報酬が支払われます。それでも足りない場合は『予納金』から報酬に充てられることになります。

予納金とは、申立人があらかじめ納めるお金のことです。
価額が明確でない相続財産が含まれる場合、基本的に予納金が必要です。

金額は裁判所が決めますが、20万〜100万円程度になることが多いようです。
預貯金が少なく、現金に換金されていない不動産などの財産が多い場合には予納金が多くなる傾向があります。

予納金は被相続人の財産の多少によって金額が変わります。
特に預貯金が多ければ多いほど、予納金の金額が少なくなることを覚えておきましょう。
事案によっては100万円以上の費用がかかることもあります。業務が終了した時点で、余った予納金は返還されます。

1−2.相続財産管理人の手続きは専門家に依頼する

相続財産管理人の手続きは専門家に依頼することをお勧めします。
理由は申し立てに必要な書類を集めるために手間がかかるからです。

一例をあげると、被相続人に相続人がいないことを確認するために、父母の代までさかのぼって戸籍を調べる必要があります。
出生から死亡までの戸籍謄本は、移籍や法令の改正によって何通かに分かれることが多いです。
慣れていないと大変な作業となります。報酬費用はかかりますが、司法書士などの専門家に依頼したほうが時間と手間を節約できます。

戸籍謄本と除籍謄本・改製原戸籍の手数料は次のとおりです。

戸籍謄本 1通あたり450円
除籍謄本・改製原戸籍 1通あたり750円
※2022年9月末時点

戸籍附票と住民票の発行にも手数料が必要です。
金額は市区町村によって多少異なります。
相続財産管理人の選任申し立てに必要な書類は次のとおりです(同一の戸籍は1通あればよいです)。

2.相続財産管理人に任せたほうがよいかを判断するポイント

親から譲り受けた不動産を相続放棄するか迷われるケースも多いでしょう。
相続放棄は原則、相続開始を知ってから3ヶ月以内にしなければなりません。

一部の財産だけを放棄することもできません。
たとえば「家はいらないが、預貯金は相続する」というようなことは基本的にできないのです。
プラスの財産も、マイナスの財産も、すべて放棄することになります。

相続放棄して相続財産管理人を選定したほうがよいか?具体的な判断ポイントを説明します。

ポイントはズバリ、「相続放棄した不動産の管理責任があるか?ないか?」です。
以下、くわしく見ていきます。

2−1.判断ポイント1 相続放棄して他の相続人がいるなら相続財産管理人は不要

相続人が1人だけのケースでは、相続放棄しても不動産を管理しなければなりません。

言い換えると複数の相続人がいて、1人でも相続する人がいる場合は、不動産はその方の管理下になるので、相続財産管理人は不要となります。

そもそも相続人がいる場合は相続財産管理人を選出することはできません。
全員が相続放棄したときは、最後に放棄した相続人が不動産を管理しなければならないので注意が必要です。

【民法940条】
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

2−2.判断ポイント2 相続放棄しても不動産の管理責任が残るなら検討する

繰り返しますが、相続放棄しても不動産の管理責任は残ります。
不動産を放置しておくと、近隣に迷惑や被害が生じる不安があるときは、相続財産管理人の選任を検討すべきです。
空き家を放置することで起こりうる事故はさまざまです。
豪雨によって石垣が崩れて損害賠償を請求されたケースもあります。

住宅自体の倒壊のほか、ガラスの飛散や庭木の倒木などにより、近隣住宅を破損させたり、近隣住民にケガを負わせたりする可能性も十分に考えられます。
第三者にケガを負わせた場合、さまざまな賠償責任を負うことになります。

被害者の治療費や入院費など各種の費用、休業損害などの賠償金も支払うことになります。
入通院させてしまったことに対する慰謝料も請求されるので、賠償責任は重大なものになります。
このほか害獣が住み着く、不審者やホームレスが利用する、スズメバチが巣をつくるなど、さまざまな空き家問題が存在します。


3.比較検討の手順

この章では不動産の管理責任が残るケースを想定し、相続した方がよいか、相続財産管理人を選任した方がよいか、メリットとデメリットを比較する手順を解説します。

ステップ1 
まずは準備として、不動産を相続した場合、毎年かかる費用を算出します。
固定資産税、草刈りやメンテナンス等の管理費用を見積もりましょう。
現地に行く交通費や損害賠償責任のリスクも確認します。

ステップ2
次に相続財産管理人にかかる費用を算出します。
弁護士または司法書士に見積もりをとりましょう。
予納金の額については裁判所が決めるので時間がかかります。
相続放棄の判断は相続発生を知ってから3カ月以内なので注意が必要です。

ステップ3
『毎年の管理維持にかかる費用』『相続財産管理人にかかる費用』、二つの費用を見比べて検討します。

では具体的な例を挙げて判断基準を説明します。

3−1.相続して手放す

相続が発生した不動産について毎年の管理費用が10万円以下、かつ損害賠償リスクも低いと判断できたとします。

一方、相続財産管理人にかかる費用60~100万円と見積もった場合は、相続してから手放したほうが良いでしょう。

管理費用が少ないということは、不動産の保存状態もそれほど悪くないと想像できます。
このようなケースでは、一旦相続してから売却または無償譲渡(贈与)を検討してみることをお勧めします。

3−2.相続放棄して相続財産管理人に任せる

毎年の管理費用が20万円以上と算出された場合はどうなるでしょうか?

相続財産管理人にかかる費用の見積もりが20万円程度であれば、相続財産管理人に任せる手続きを進めたほうが良いでしょう。

相続財産管理人の選任にかかる費用の中で、一番大きなものが予納金ともいわれます。
金額は安くても数十万円かかることが多いようです。

ただし損害賠償リスクが高いと判断した場合は、予納金が高額になっても相続財産管理人を選任し、安心感を優先するという選択肢が出てきます。

4.少額でも売却できるならそのほうが手続きは簡単

これまで見てきたように相続放棄と相続財産管理人の手続きは手間と費用がかかります。
少額でも売却できるかどうか可能性を探ってみましょう。

売却先は不動産業者をお勧めします。
理由は、不動産会社が購入すると『契約不適合責任』を免責にすることが多いからです。

契約不適合責任とは、売った不動産に何らかの欠陥が見つかった場合、売主となった相続人全員が連帯して損害を賠償する責任を負うことです。
契約不適合責任を回避したいのであれば、売却先を不動産業者へ絞った方が良いです。

まずは現在の家の価値を調べてみましょう。
インターネットの『不動産一括査定サービス』があるので便利です。
複数の不動産業者が査定金額を出してくれます。

実際に不動産を直接見にくる訪問査定をしてくれる業者もあります。売れないとあきらめている土地や建物も、ノウハウのある不動産業者によっては買い取ってくれる場合があります。
相続放棄を考えていた不動産に思わぬ価値を発見できるかもしれません。

まとめ

「売ることが難しい」「固定資産税や管理維持費が負担になりそう」。
不安のある不動産に相続が発生した場合、相続財産管理人に任せれば、不動産の管理責任を免れることができます。

ただし手続きには高額な費用がかかる場合もあるので、相続してから手放すのと、どちらがよいか比較検討しましょう。

たとえ少額でも売却できたり、または無償譲渡(贈与)できるのであれば、そのほうが手続きは簡単です。

いまはインターネットの『不動産一括査定サービス』があり、簡単に売却できるかどうか調べることができます。

それでも不動産業者への売却が難しい場合には、相続放棄して相続財産管理人を活用しましょう。
相続放棄は相続発生を知ってから原則3カ月以内にしなければなりません。

期限があるので対応は早めに行うことが肝心です。親の生前から準備と心構えをしておくことが大切です。


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