おじいちゃんの夢を見た
小学5年の時に亡くなった、
祖父が先日、夢に出てきた。
真顔で目の前に立っている。
何も言わず、私の寝ている布団を叩く。
優しくというより急かすように。
起きなさい、というように。
笑ってくれると思っていたのに、やたらと叩くから嬉しくなかった。嫌だと言うかわりに布団を強く引っぱり、そっぽを向いた。
起きた頃にはすっかり忘れていて。
いつもの習慣でお線香をあげ、手を合わせている時に祖父の顔を思い出す。
本当のおじいちゃんかさえ、微妙。
でも夢に出るんなら、もう少し機嫌よくてもいいじゃん。
祖父は寡黙だった。
俳句を詠み、町内では俳号で呼ばれていて、なぜ名前が二つあるんだろうと思っていた。
お絵かきする私を褒めることなく
「その紙に斜めに女の子を描いたら、女の子が立てなくて倒れちゃうじゃないか」と言う。
出かける時はシャツにベスト、ハンチング帽。小さな私と散歩に行く時も、いつも革靴。革靴がコツコツ鳴る、その音を聞くのが好きだった。
私が5歳くらいの時。
友達に家の場所を教えてもらい、話の記憶だけを頼りに祖父に連れて行ってもらった事がある。
私の言葉も認識も足りず、友達の家は見当たらない。この近くだったはずと言い張る私を自転車に乗せ、祖父は黙って歩いてくれた。
コツコツ。革靴の音。
家には辿り着けなかった。
さらに遡って出生時。
私は八月に生まれる予定で「葉月」という名前が候補にあがっていた。
「はじきちゃん。ハジキ(鉄砲)みたいだな。」
訛ってしまって祖父にはイマイチだったらしい。
(たまたま葉月さんが読んでいたら、ごめんなさい。葉月さん素敵です。)
けっきょく私は八月をお腹の中で過ごし
九月に生まれ、「み」のつく名前になった。
「み」の名前も、祖父は訛っていたけれど。
祖父が、〇〇ちゃん。と声に出して
響きを確かめ、考えてくれていた事。
後から知って嬉しかった。
* * *
祖父が夢で何を言いたかったのか
やはり全然分からない。
しっかりしなさいと?
お供えが気に入らない?
なんなの、もう。
ねえ、おじいちゃん。
コツコツ。
革靴の音が耳に響く。
不器用に布団を叩かれた感触が、
まだなんとなく残っている。