『日本のSDGs それってほんとにサステナブル?』はじめに無料公開
近年、ビジネスや教育などさまざまな場で目にするSDGs。2030年までの達成を掲げ、日本でも官民挙げて推進キャンペーンが展開されています。でも、中には「それが本当に持続可能な社会につながるの?」と思ってしまうような使われ方もしばしば。そんな「モヤモヤ」を直視し、本当の持続可能性につながるSDGsとはどういうものかを考えるために、ノンフィクションライターの高橋真樹さんが日本全国を取材して1冊の本にまとめました。その『日本のSDGs それってほんとにサステナブル?』の「はじめに」を無料公開します。
「SDGsって、なんだかモヤモヤする......」
それが、筆者がこの本を書きはじめた動機だ。本書に興味を持ってくれた方なら、SDGsについては知っていることだろう。ごく簡単に説明すると、SDGsとは「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略で、国連に加盟する国々が2015年に合意した、世界を持続可能にするために達成すべき17のゴール(大きな目標)と、それを実現するための169のターゲット(より細かい目標と手段)である。各ゴールの内容は「貧困をなくそう」「ジェンダー平等の実現」「気候変動対策を」などで、達成期限は2030年までと定められている。
そのSDGsになぜモヤモヤするのかといえば、日本のSDGsをめぐる状況への違和感があるからだ。日本ではいまや、買い物に行っても電車に乗っても、SDGsのロゴマークを見ない日はない。企業のホームページにSDGsのロゴマークをかかげるのは当たり前で、ビジネスマンたちは襟元に誇らしげにSDGsバッジを付けている(一部では「オジサンバッジ」と呼ばれているらしい)。そのため、国際会議などで外国の識者から、「日本ではこんなにSDGsが浸透しているのか!」と感動されることがあるという。
by Project Kei (CC BY-SA 4.0)
ところが、たとえばSDGs推進本部を設立し普及の旗振り役をしている日本政府は、SDGsのコンセプトとは真逆の政策を行うことがある。あるいは、SDGsのロゴマークを大々的にかかげて社会貢献をPRしている企業が、不祥事を起こし問題になったりしている。もちろんSDGsが広まることによって良くなっている面もある。けれど、いままで企業がしてきた「いいことをしているアピール」と、どう違うのかがわからないという人も多いはずだ。
背景には、SDGsそのものが少々わかりにくい面があることも関係している。取り上げるテーマは世界中のありとあらゆる問題で、あまりに幅広い。また、193のすべての国連加盟国が賛同したものだけに、あいまいな記述も残り、かならずしも問題に対する具体的な解決策を提示しているわけではない。各国の妥協の産物という側面は、たとえばLGBTQと呼ばれる性的マイノリティの権利などが言及されていないことにも表れている。
さらに、各国や地域の事情に合わせて書かれてはいないので、SDGsの本質を現場の実情に当てはめて読み取り、自分たちの課題に落とし込んでいく必要がある。それがけっこう難しい。大きな目標としては誰もが賛同する内容であっても、何を優先し、どんな対処をするかという具体的な内容では、立場や読み取り方によってまるで変わってしまうからだ。これが日本政府や企業による「なんちゃってSDGs」を許すことにもつながっている。
こんなことを言うのは、筆者がひねくれ者だからだろうか? でも、周囲に聞くと、実は同じようなモヤモヤを感じている人が大勢いた。この本は、筆者自身の疑問も含め、そんなモヤモヤを少しでもスッキリさせたいと思ってまとめたものだ。
他方で、SDGsを全否定する人たちもいる。たとえば日本の産業界の一部には、「SDGsは欧州の産業界がビジネスでリードするために、新しいルールを日本に押しつけるためのツールだ」という意見がある。もちろん、欧州の産業界だって理想論だけで動いているわけではない。でも、SDGsができたルーツをたどれば、それは間違いだとわかる。古い常識にしがみつき、新しいチャレンジを拒む言いわけとしてSDGsを批判するのはやめたほうがいい。
また、社会活動家の側からも、「SDGsは企業の宣伝のための都合のいいツール」だとか「政府のアリバイ作りのようなもの」だという批判もある。現実にそのように使われてしまっている面があることは確かだが、批判されている内容はSDGsの本質とは言えない。
SDGsを適切に扱えば、社会課題の解決に役に立つ。人類は、まぎれもなく史上最大の危機を迎えている。安っぽい映画のキャッチコピーのようだが、残念ながら本当の話だ。本書の取材を始めた2020年2月、猛威をふるい始めた新型コロナウイルスのパンデミックは、1年を経たいまも収束が見えないままだ。新型コロナの発生と拡大は、人間の環境破壊や経済活動と深く関係している。
また、執筆を始めた夏には、激しい気象災害が立て続けに日本列島を襲った。冬に入ると突発的な豪雪が各地で被害をもたらした。年々激化する異常気象の背景には、温室効果ガスの排出などを要因とした気候変動の悪化がある。産業革命以降、人類の活動が地球の生態系や環境にあまりに甚大な悪影響をもたらすようになったことで、これまでとは異なる地質年代「人新世(アントロポセン)」が提唱されるまでになっている。
イラスト=ちから(mokumoku studio)
でも映画と違って、ヒーローが助けに来てくれるわけではない。こうした危機にどう対処すればいいのか?
その指針となるのがSDGsだ。SDGsの正式名称は「我々の世界を変革する――持続可能な開発のための2030アジェンダ」という。要するに、「いまの持続不可能な世界を変えなきゃいけない」という宣言である。そこには関係のない人など一人もいない。
SDGsの達成期限は2030年。残り年となったいま、あらためてSDGsとは何かを読み解き、社会のあり方を見つめ直し、一刻も早い実践に移ることが求められている。この本で、そのためのヒントを提供できれば幸いだ。
『日本のSDGs』目次
はじめに――モヤモヤする、日本のSDGs
第1章 SDGsは何をめざしているのか?
第2章 これでいいのか? 日本のSDGs
[インタビュー]ニールセン北村朋子さんに聞く デンマークがSDGs先進国である理由
第3章 日本とSDGs 八つの論点
[インタビュー]井田徹治さんに聞く 日本は環境危機とどう向きあうべきか?
第4章 パートナーシップで貫く七つの実践例
[インタビュー]田中信一郎さんに聞く SDGs時代の持続可能なまちづくり
おわりに――できない理由よりできる方法を探す
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著者プロフィール 高橋真樹(たかはし まさき)
ノンフィクションライター,放送大学非常勤講師。国内外をめぐり持続可能性をテーマに取材・執筆を続ける。エネルギー関連 の著作に『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書),『親子でつくる自然エネルギー工作』全4巻(大月書店),『そこが知りたい電力自由化』(大月書店)など。『観光コースでないハワイ』(高文研),『イスラエル・パレスチナ 平和への架け橋』(高文研,平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞),『ぼくの村は壁で囲まれた』(現代書館)など国際関係の著作も多数。映画『おだやかな革命』(監督:渡辺智史)のアドバイザーも務める。2017年からはドイツ仕様のエコハウスに暮らし,ブログ「高橋さんちの KOEDO低燃費生活」にて情報発信を行う。
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