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第3ステージ『水の円盤と精霊の法水』:第7話『水の円盤の導き、信仰の対価』(協力:ChatGPT、Gemini)

割引あり



第7話「水の円盤の導き、信仰の対価」前編(1/2)

私は足を止めた。

洞窟の奥へ進むほど、空気が冷たく重くなっていく。まるで水の底に沈んでいくような感覚だった。未完成の水の円盤は、私の手の中で不規則に震え続けている。

「……ポリナさん!」

後方からキカの声が響いた。彼女は肩で息をしながら、慎重に足元を確かめるように進んでくる。

「ここ、本当に進んで大丈夫なんですか? なんだか……空気が、変です」

彼女の言葉に、私も無意識に背筋を伸ばす。確かに、この先には何かがいる——そう感じる。しかし、直感的な恐怖以上に、私は水の円盤の針が示した方向が気になっていた。

ほんの一瞬だけ、針は奥の光を指した。

「大丈夫よ」私はそう返したが、内心ではその言葉がどれほどの重みを持つのか分からなかった。

洞窟の壁を伝う水滴が、不自然な軌道を描きながら流れ落ちていく。まるで見えない力が水の流れを歪ませているかのようだ。

「……ポリナさん、水の精霊王は、この先に?」

キカの問いに、私はゆっくりと首を横に振った。

「分からない。でも——」

言葉を継ごうとしたその時、洞窟の入り口方面から突風が吹き抜けた。背後から、低く響く衝撃音。

「——っ!」

私は反射的に振り返る。

遥か後方、暗闇の中でクーが異型の精霊と対峙していた。
水路に立つ彼の影が、一瞬、歪んだ水面に映り込む。

「クー!」

呼びかけようとしたが、次の瞬間、洞窟全体が軋むような音を立てた。

天井から落ちてくる水滴が、今度は逆流するように上昇し、そして消えた。

……ここに何かいる。

それは、まだ姿を見せないまま、確かに私たちを見つめていた。

「ポリナさん、もう引き返したほうが——」

キカが言いかけた瞬間、水の円盤が震え、針が激しく回転した。

その動きに私は凍りつく。

今まで、どんなに乱れても、円盤の針は「どこか」を指し続けていた。

それなのに——今は違う。

針はただ狂ったように回転し続けている。まるで「道など存在しない」と告げるように。

「……嘘よ……」

私は無意識に呟いていた。

水の円盤が示す道がない? そんなはずはない。

私は信じていた。たとえ未完成であっても、水の円盤は精霊の導きを示してくれると。

「ポリナさん!」

キカの叫びに、私はハッと我に返った。

背後、入り口方面から吹き荒れる風が強くなっている。
——クーがまだ戦っている。

こんな場所で立ち尽くしている場合ではない。

「引き返すわ」

そう言って踵を返した瞬間、私の耳に微かに囁くような声が届いた。

——“水の円盤は信仰を糧に進む”——

「……っ」

それは、水の精霊王ワイナの声だった。

過去に何度も会っている、その確かな存在。

しかし、今のこの声は——私の記憶の中のものではない。

「ポリナさん……?」

キカが不安そうに私を見つめている。

私は微かに首を振り、彼女に言った。

「行くわ。クーを迎えに」

そして、私は洞窟の入り口へ向かって駆け出した。

狂った水の円盤を抱えたまま——。


第7話「水の円盤の導き、信仰の対価」後編(2/2)

私は洞窟の入り口へ向かって走った。

足音が濡れた石の床に響くたび、空気が肌にまとわりつく。まるで洞窟そのものが私の進む道を拒んでいるようだった。

キカが後方から小さな息を切らせながらついてくる。

「……道がなければ、私たちが示さなきゃいけないのよ」

それが本当に正しいのかどうか、自分でも分からなかった。

信仰を糧にして進む——水の精霊王ワイナの囁きは、まるで私の信念を試しているかのようだった。

“信じるものが、道を指し示す”

そんな言葉は、何度も説法の中で聞いてきたはずだ。

でも——今の私は、その信じるものを手放し始めている。

ポロハナの神殿で教えられた精霊王への絶対的な信仰。
それがあればこそ、水の円盤は道を示してくれると信じていた。

けれど——それだけでは足りないのかもしれない。

「ポリナさん……!」

キカの声が震えていた。

「どうして……」

彼女の問いは、まるでかつての私自身の声のようだった。

私は振り返り、キカの小さな手を握った。

「精霊王は、私たちが進む道を選ぶことを待っているのかもしれない……」

キカの目が揺れた。

「でも……選ぶって……どうすれば……?」

その答えは私にも分からない。

ただひとつだけ確信できるのは、信仰を守ることと、精霊の導きを求めることが同じではないということ。

信仰に固執していた私は、ただ水の円盤の力にすがるだけだった。

けれど、今の私は違う。

導かれるのを待つのではなく、自分で導かなければならないのだ。

私は水の円盤を見つめた。

相変わらず針は狂ったまま回り続けている。

「……信じられなくても、進まなきゃいけないのね」

囁くように言った瞬間、針の動きが一瞬だけ止まった。

次の瞬間、背後から吹き荒れる風が洞窟の壁を擦り、低いうめき声のような音を響かせた。

「クー……!」

私は再び駆け出した。

やがて、入り口の微かな光が見え始めた頃だった。

クーの怒号が風の中に混ざって聞こえてくる。

「……てめえなんかに……負けるかよ……!」

私は足を速めた。

洞窟の先に、クーの小さな背中があった。

異型の精霊の影が揺れ、粘つく水音とともにうごめいている。

クーは風鬼の金棒を振りかざしながら、何度も精霊を打ち払おうとしていた。

けれど——その姿はどこか危うかった。

「クー!」

私は叫んだ。

クーはちらりとこちらを振り返り、すぐに視線を戻す。

「ポリナは下がってろ!」

そう言いながらも、その足元はふらついていた。

私は水の円盤を胸元に抱きしめ、そっと口を開く。

「……ワイナ……私を……導いて……」

その瞬間——水の円盤の針が再び震え始めた。

今度はゆっくりと、洞窟の入り口を指す。

私の胸の中で、かすかな暖かさが広がっていく。

そうだ。

これは、精霊王が示している道じゃない。
私が、導こうとした道に精霊が応えているのだ。

「クー! 退いて!」

私の叫び声が洞窟に響く。

クーは一瞬だけ私を睨みつけた。

「何言ってやがる……!」

「信じなさい!」

その言葉に、自分でも驚いた。

クーは一瞬、戸惑ったように立ち尽くした。

その隙に私は水の円盤を掲げた。

「ワイナ……!」

静かな呼びかけに応じるように、針が入り口の光の方向を示す。

異型の精霊がその動きに反応し、ゆっくりと体を引いた。

円盤の光が僅かに明るくなる。

私は祈りの言葉を呟いた。

その瞬間、入り口方面から流れ込んでいた停滞した水がゆっくりと動き始めた。

「ポリナさん……!」

キカの声が震える。

クーは何かを理解したように、金棒を構えたまま後ずさった。

私はまだ信じられなかった。

けれど、確かに水が循環を取り戻し始めている。

これが——私が選んだ道。

信仰を手放して初めて見えた、新しい信仰の形だった。

私は、精霊を信じる。だけど、それだけでは足りない。

信じながら、進まなければならないのだ。

やがて、異型の精霊は静かに消えていった。

クーは肩で息をしながら私を睨みつける。

「……まだ、お前のやり方が正しいなんて思っちゃいねえからな」

私はそっと微笑んだ。

「それでいいわ。あなたはあなたの道を信じて」

クーは鼻を鳴らし、背を向ける。

キカは手にしていた袋を強く抱きしめた。

「ポリナさん……次は……?」

私は水の円盤を見つめた。

針は今、まっすぐ洞窟の外を指している。

「……探すわ」

私もまだ恐れていた。

でも、進まなければならない。

信仰に囚われるのではなく——信仰を抱えたまま、自らの道を示すために。

私は小さく呟いた。

「……導いてみせる」

洞窟の外から差し込む光が、私たちを照らしていた。

(第8話『信仰の覚醒』 へ続く)

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