シュレーディンガーの子猫 ~余波:セクション5~
大体クレーマーへの対応方法は決まっている。
クレーマー自身には聞きたい答えがあり、その答えを的確に答えてあげれば解決するのだ。
だから、ブラック企業に勤めている人がどうしたいのかを聞き出せれば、それがそのまま回答になる。
「担当の高橋です。本日は私が対応させて頂きます」
まあ、ジャブとしては身元報告からだ。どんな人間が対応するのかで、相手の対応が変わる。
「なんだ。女かよ。俺の今の上司も女なんだよね。そういうやつはさ。感情でモノゴト判断して論理的に考えないわけ、まったく今日は最悪な日だぜ」
ザザザザッ タ・タスケテ ザザザザッ
ゾクッとした寒気を感じた。
クレーマーの発言にではなく、イヤホンから聞こえた声に対してだ。
嫌な感じの音楽が流れてくるな。
深呼吸して、ヘッドセットを外し、チャット画面に向き合った。
典型的な男尊女卑タイプの男か、もしくはひどい女上司のパワハラか、そのどちらかなのだろう。
僕は女キャラの方がクレーム対応にはいいと思っている。
母性対応はある一定のクレーマーには効果的だ。
ジャブは女性キャラ、それでもダメな場合に上司に変わる。とは言っても、あくまでも上司キャラを使って入れ替わるだけの話だ。
クレーマーは僕が二役でクレームに対応しているなんて考えてもいない。
この方が話しが早い。
女性キャラで吐き出すもの全部吐き出させて、それで落ち着く人もいるけど、そうでない人には少し威厳を見せて、上司キャラで共感した風を装う。
そして偉い人に頭を下げられたと相手は満足してくれる時もある。
最後に、そうですね。あなたのおっしゃるとおりです。対応担当者にお知らせいたしますと言えば終わる。
ただ聞き出した内容で、本当はクレームじゃなくって企業として対応してもらったほうが良いとなった時、専門家に変わりますと言って企業側へ迅速に繋ぐ事もある。
このように三段構えでクレーム処理を担当している。
声で対応すると直ぐ嘘だとバレるけど、文字での対応なら中々バレない。
仮にバレたとしても悪いのはクレーマーの方だから、こっちは開き直れるんだ。
「申し訳ございません。ただ今混み合っております。私でよろしければお話をお聞かせください。内容を正しく関係者へとお知らせいたします」
チャット対応は全てデータに保存されている。消すことは許されていないので、どんな話をしたのかがそのまま企業側へ送られる。
相手から有効な情報を引き出した時、クレーム対応は評価される。
クレームから有効な情報が引き出せない時、評価が落とされる。
さあ、吐き出せ。
ザザザザッザーーーーーーーー
チャットをしていた画面が突然砂嵐状態になりブラックアウトした。
ザザザザッ タ・タスケテ ザザザザッ
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次回予告:
「みゃ~お」
「うわっ!びっくりした。なんでここにネコ?」
まだ小さいその子猫は、俺の足にまとわり付いて、スリスリしている。
仕事で溜まったストレスをチャットに吐き出していた。
たまたま繋がったクレーマー対応はどうせAIかなにかで人間じゃないのだろう。
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