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『風鬼の金棒と精霊の金塊』:第6話『精霊の金塊の正体』(協力:ChatGPT)

割引あり



第6話『精霊の金塊の正体』

1. 崩壊する都市

冷たい風が吹き抜ける。
俺とキカは、瓦礫の積もった石畳の上に立ち尽くしていた。

「……これは」

キカの呟きが、闇に溶ける。

都市は変わり果てていた。
風の精霊の暴走が沈静化し、街が壊滅する最悪の未来は避けられたはずだった。だが、今度は水の精霊が異常な変化を見せ始めていた。

かつて清らかな流れだった水路は、黒い泡を吹きながら濁流と化し、腐臭を撒き散らしている。
その中から、何かが生まれていた。

「また出たぞ!」

誰かの叫び声が響く。

水路の中から這い出してくるのは、無数の異型の精霊——黒く膨らんだ泡状の怪物たち。
その形は不定形で、何かを食らうたびにその姿を変えていく。

都市の人々は、武器を構えていた。
彼らの手には、風の精霊を宿した武器——それだけが、この異型の精霊を倒す術だった。

風の刃が、泡骸の群れを切り裂く。
しかし——

「……クソッ!やっぱりか」

俺の目の前で、異型の精霊の一体が、風の刃を浴びながらも、かすかに揺らめき、そのまま飲み込んでいった。

風の精霊を食った泡骸の身体が、一瞬のうちにねじれ、変貌する。
形を変え、力を増し、さらに異様な姿へと進化する。

「まずいな」

サリファが低く呟いた。
彼女は試練には同行しなかったが、都市の異変を観測していたのだろう。

「これは……何かを作ろうとしている」

「何かを?」

サリファは答えず、ただ都市を見つめる。
異型の精霊たちは、何かに導かれるように、街の奥へと集まっていく。
まるで、一つの巨大な存在になろうとしているかのように——。

2. 異形との戦い

「くそっ……終わりが見えない」

俺は風鬼の金棒を振り下ろした。
金棒が唸りを上げ、風の刃が異型の精霊の身体を裂く。

その瞬間だった。

倒れた異型の精霊の身体が、奇妙な変化を見せた。
まるで、何かを孕んでいたかのように、内部から風の精霊が生まれ、次の瞬間——

「……金塊?」

キカが驚愕の声を上げた。

そこに残ったのは、小さな金色の結晶だった。
まるで精霊の死骸のように、静かに輝いている。

「これが……精霊の金塊……?」

そう、確かにそれは俺たちが探し求めていたもののはずだった。
しかし、何かがおかしい。

「おい、待て」

キカが周囲を見回す。
都市には異型の精霊が無数に湧いている。
だが——

「討伐したのに、金塊が出ないやつがいる」

その言葉に、俺も息を呑む。

確かに、今の異型の精霊を倒した時だけ、精霊の金塊が生まれた。
しかし、周囲では戦いが続いているのに、精霊の金塊はほとんど生まれていない。

「……風の精霊が異型の精霊を喰らった時だけ、金塊が生まれている?」

キカの声が、不安げに揺れる。

そうか——
異型の精霊が風の精霊を食えば強化される。
だが、逆に風の精霊が異型の精霊を捕食した時だけ、精霊の金塊が生まれる。

これは……何を意味する?

「……都市に戻るぞ」

サリファの冷静な声が響いた。

「このままここで戦っても、事態は悪化するばかりだ。情報を整理する必要がある」

俺は金塊を手に取りながら、歯を噛みしめる。

「……分かった」

街の奥では、異型の精霊たちがさらに集結しつつある。
何か、取り返しのつかないことが起きる前に——俺たちは、一度戻るべきだった。

3. 精霊の金塊の違和感

サリファの研究所に戻ると、すぐに解析が始まった。

「まずい……このままでは、都市の精霊たちは完全に均衡を崩される」

サリファの顔色が変わる。
彼女は精霊の金塊を分析しながら、苦々しく呟いた。

「この金塊……何かが違う」

「どういうことだ?」

「……これまで私たちが知っていた精霊の金塊とは、本質が異なっている。単なるエネルギー結晶ではない」

サリファの指が、モニターに映るデータを指す。
そこに表示されているのは——

「……これは……」

俺は息を呑んだ。

「ミーム……?」

サリファが静かに頷く。

「そう、精霊の金塊とは……精霊が死の間際に残した情報の断片。文化、記憶、力の継承。それこそが、この結晶の本質だったんだ」

キカが息を呑む。

「でも、じゃあ……異型の精霊が食った時に金塊が生まれないのは……?」

「簡単な話だ」

サリファの顔が険しくなる。

「精霊の情報継承の仕組みが壊れかけているんだ」

その言葉が、重く響いた。

「このままでは、精霊の歴史が断絶する」

俺は金塊を見つめる。
ただのエネルギーではない。
これは、精霊たちの「命」そのものだったのか。

4. 崩壊する秩序

俺は金塊を握りしめたまま、サリファの言葉を反芻する。

——精霊の金塊は、精霊が死ぬ間際に残す情報の断片。
——異型の精霊が風の精霊を喰うと、精霊の金塊は生まれない。
——それは精霊の情報継承の仕組みが壊れかけているから。

「……つまり、風の精霊が異型の精霊を喰った時だけ、正常な情報が残るってことか?」

キカが鋭く問いかける。

「そう考えていいわね」

サリファはモニターを操作しながら頷く。
都市で発生した戦闘記録を再生すると、異型の精霊が風の精霊を喰った瞬間、風の精霊が歪み、消滅する様子が映し出された。

「異型の精霊は、おそらく風の精霊の情報を破壊しているのよ」

「……情報を破壊?」

「ええ。異型の精霊は、何も残さない。喰われた風の精霊の記憶や文化は、そのまま消滅してしまう」

俺は眉をひそめた。

「精霊ってのは、情報そのものだったな……?」

「そうよ」

サリファの言葉に、背筋が冷たくなる。
情報の消滅——それは、ただの死よりも恐ろしい。

「待てよ……それじゃあ、異型の精霊が増え続けたら……」

キカが息をのむ。

「風の精霊たちは、二度と再生しなくなる」

都市の中で続く戦闘の光景が頭をよぎる。
風の精霊を宿した武器を手に戦う人々。
しかし、その戦いの中で異型の精霊が優勢になれば、風の精霊そのものが消滅する。

「……やべぇな」

「ええ、かなりね」

サリファの声は静かだったが、その背後にある危機感は伝わってくる。

「異型の精霊は、単に暴れているんじゃない。何かを集めているのよ」

サリファが都市の最新データを映し出す。
そこには、異型の精霊が移動している軌跡が示されていた。

「こいつら、やっぱり……」

異型の精霊たちは、都市の中心部へと集まりつつあった。

「何をしようとしている……?」

俺は拳を握りしめる。

「異型の精霊は、生まれては消え、消えてはまた生まれる存在。でも、その行動には一定のパターンがある……」

サリファが唇を噛みながらデータを操作する。

「もしかすると、都市のどこかに……異型の精霊の“核”があるのかもしれない」

「核……?」

「ええ。異型の精霊の発生源とも言える存在。それが、すべての異型の精霊を統括し、情報を集め、精霊の崩壊を促しているのかもしれない」

「……つまり、そいつをぶっ潰せば、異型の精霊は消えるのか?」

「そう単純じゃないわ。でも、何もしなければ精霊の歴史は完全に断絶する」

サリファの言葉は重い。

「都市の中心部に行く必要があるわ」

俺は深く息を吸った。

「キカ、行くぞ」

「もちろん」

キカも頷く。

「……私も行く」

サリファが立ち上がる。

「研究だけじゃ解決しない問題があるわ。異型の精霊の本当の目的を探る必要がある」

都市は、今まさに崩壊しようとしていた。
その中心部で、何が待ち受けているのか——俺たちはまだ知らない。

しかし、ここで止まるわけにはいかなかった。

俺たちは、精霊の命と歴史を守るため、都市の中心へと向かう。

5. 異形との戦場

都市の中心部へ向かう道は、すでに異型の精霊たちで埋め尽くされていた。
砕けた建物の影から、異形の触手のようなものが蠢き、腐った風を撒き散らしている。

「くそ……っ!」

俺は風鬼の金棒を振るい、迫りくる異型の精霊を叩き潰す。
手応えはある。しかし、倒したはずの個体は、すぐに黒い霧となって消え、別の形で再生する。

「無限に湧いてくるってのかよ!」

「違う!こいつら……集まろうとしてる!」

キカが息を荒げながら叫んだ。

確かに、異型の精霊たちはただ闇雲に攻撃してくるわけじゃない。
倒されても、霧となった個体は一定の方向へと流れ、再び形をなす。

「……おそらく、核に向かってるのよ!」

サリファが息を切らしながら駆け寄ってきた。

「核だと?」

「異型の精霊は、個体じゃない。群体よ!この都市全体が、こいつらの巣になろうとしてるの!」

俺は歯を食いしばる。
確かに、都市の奥から異様な気配が広がっていた。

「なら……倒すしかねぇな!」

金棒を振るい、俺はさらに異型の精霊たちを薙ぎ払った。
そのたびに風の精霊たちが一瞬、輝きを増し、異形を喰らう。
喰らった風の精霊は形を変え、黄金の輝きを放つ——精霊の金塊が生まれる瞬間だ。

「……クー、待って!」

キカが叫ぶ。

「何だよ、こんな時に!」

「もしかしたら……私たちが、間違えてるのかもしれない!」

俺は一瞬、動きを止めた。

「……何?」

「精霊は、本来こんな風に戦う存在じゃなかった。なのに、今は異型を喰らわなければ生き残れない……これって、本当に正しいの?」

「そんなこと言ってる場合かよ!放っておけば、都市は——!」

「だからこそ、考えなきゃいけない!」

キカの瞳は真剣だった。

「この異常な状態が続けば、精霊の均衡が完全に崩れる。異型の精霊を倒せば解決するわけじゃないのよ!」

「……チッ!」

俺は奥歯を噛みしめ、精霊の金塊を拾い上げた。
その瞬間——

——ガアアアァァァァ!!

異型の精霊が突如、変貌を遂げた。
闇が渦巻き、一本の巨大な腕が生まれ、都市の中心を覆い尽くす。

「進化……?」

「違う……これは、核の目覚め!」

サリファが叫ぶ。

「精霊の金塊を奪うことで、異型の精霊はより強力な形へと変化するのよ!」

「ってことは……!」

俺は拳を握りしめた。

「金塊を持ってる俺が狙われるってことか……!」

都市の上空で、黒い霧がうねる。
俺の中で、一つの考えが浮かんだ。

(……だったら、こいつを持って逃げれば……?)

「クー、何を考えてるの?」

キカが俺の異変を察知したようだった。

「おいクー、まさか……!」

サリファの声を背中に、俺は駆け出した。

「待て、クー!!」

「これ以上、都市が破壊されるのはマズいんだよ!」

俺は叫ぶ。

「お前らの言い分もわかる!だけど、今はそんなこと言ってる場合じゃねぇだろ!!」

キカは必死に追いかけてくる。

「違う!!そのやり方じゃダメだって言ってるの!!」

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ!?」

答えはない。

ただ、都市を守るために走る。
しかし、キカの言葉が頭にこびりついて離れなかった。

(……本当に、このやり方でいいのか?)

精霊の金塊が、熱を持って震えていた。

(第7話『追う者と追われる者』へ続く)

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