見出し画像

第3ステージ『水の円盤と精霊の法水』:第4話『水の都の澱み』(協力:ChatGPT、Gemini)

割引あり



第4話:水の都の澱み(前編)


水鏡の間に立つたび、私は息が詰まるような感覚に襲われる。
水面は鏡のように澄んでいるのに、そこに映る景色はどこか歪んで見える。
それが、私の内面の澱みを映し出しているからだと、分かっているからだろう。

足音が響く。大司教ヴァイと司教ウアが、厳かな歩調で私の隣に並ぶ。
「ポリナ、心を乱してはならぬ。秩序は信仰の礎だ」
ヴァイの言葉は、いつも変わらない。静かで、重い。
彼の声を聞くたびに、私は自分が囚われているのだと感じる。
停滞を守る信仰。それが私の使命。しかし、胸の奥には小さな棘が刺さっている。

水鏡の間の中心が青く光り始めた。
惑星間の旅路を繋ぐ星間移動のドック。
まるで水面が裂けるように、青い光が回転し、渦を巻く。
その渦の中心が弾けるように輝き、空間がねじれるようにして乗り物が姿を現した。
異なる世界の空気をまとい、冷たい霧が辺りに漂う。
それは宇宙の深淵へと続く門のようだった。
私はその光に飲み込まれそうな感覚に襲われ、思わず息を呑む。
背筋に冷たいものが走り、心臓の鼓動が高鳴る。

「来たか」
ウアの声が鋭く響いた。瞳が細められ、鋭い視線が光の渦を射抜く。
緊張が走る中、光の渦が収束し、精霊の力をまとった乗り物が静かに浮かび上がった。
異なる世界の空気をまとい、重々しく水鏡の間に降り立つ。
水の都ポロハナに、異質な存在が足を踏み入れる瞬間だった。

乗り物の扉が音もなく開き、先頭に立つ男が姿を現す。
鋭い目つきの中年男。
その目には、すべてを見通すかのような冷徹さが宿っている。
ナギ――海の精霊の探査を任されていると名乗った。
彼の足取りは迷いがなく、まるでこの場を支配するかのような威圧感があった。
大司教と司教に近づき、握手を求めて軽く挨拶を交わす。
その動きには一切の隙がなく、周囲を警戒するように視線を巡らせていた。

続いて乗り物から降りてきたのは、好奇心旺盛そうな若い女性。
「カリンです。情報収集を担当しています」
目が輝き、この場所を興味深げに観察している。
無邪気な笑顔の裏に、鋭い洞察力を隠しているようにも見えた。

屈強な体格の男が一歩前に出る。
「ソウマ。防御専門だ。皆を守るのが役目だ」
重厚な声が響き、彼が頼りになる存在であることを一瞬で理解させる。
その体躯はまるで要塞のように堅固で、周囲に圧倒的な威圧感を放っていた。

最後に、柔和な表情を浮かべた男が静かに頭を下げる。
「ユウリです。水の大陸との交渉を担当しています。よろしくお願いします」
控えめな態度とは裏腹に、その佇まいには確固たる自信がにじんでいた。

私は一歩後ろに下がり、彼らを観察した。
彼らが何者なのか、何を目的にしているのかは分からない。
だが、一つだけ確かなことがある。
この中に、見知った顔があった。

「マル…」
思わず名前が口を突いて出た。
その瞬間、私の中で何かが軋んだ。
過去の記憶が呼び覚まされ、胸が痛む。
目の前の存在が現実なのか、幻なのか。
混乱と動揺が心を掻き乱した。

――あの時、私は彼に何を頼んだのだろう。

記憶の底に沈んでいた情景が浮かび上がる。
静かな部屋。闇に包まれた空間で、私はマルに向かって言った。
「完成された神器を破壊してほしい」
私の声が震えていた。罪悪感に押し潰されそうだった。
しかし、私はそれを頼まなければならなかった。
停滞を守るために。秩序を乱す存在を消し去るために。

マルはその時、何も言わずに頷いた。
あの冷たい瞳。まるで感情が欠落しているかのような無機質な表情。
彼は私の頼みを、何の躊躇もなく受け入れた。
その事実が、私をより一層罪悪感に苛ませた。

「ポリナ?」
ヴァイの声に、私は我に返った。
「はい、大司教様」
私は頭を下げ、動揺を隠した。
しかし、心臓の鼓動は激しく脈打っていた。
大司教と司教もマルについては既に面識があるのか、軽い会釈だけを済ませていた。

――なぜマルがここにいるのか。
――あの依頼の続きを果たしに来たのか。

私は思わず拳を握った。
澱みが、また広がっていく。
水鏡の間の水面に、歪んだ自分の姿が映っていた。


第4話:水の都の澱み(後編)


使者団の歓迎の儀式が終わり、水鏡の間を後にした私は、大司教ヴァイと司教ウアに伴われて長い回廊を歩いていた。
回廊の壁には水流が滝のように流れ、淡い光が揺れている。
その光景は美しいはずなのに、今の私には不気味に感じられた。
――あの依頼の続きを果たしに来たのか。
その疑念が、私の心に重くのしかかっていた。

「ポリナ」
ヴァイが低い声で呼びかけてきた。
「はい」
私はすぐに顔を上げ、平静を装った。
「使者団の目的、気づいているな?」
「はい。火の惑星からの依頼で、海の精霊の調査を行うために来たと聞いています」
私は慎重に答えた。

「だが、それだけではない」
ヴァイの瞳が鋭く輝いた。
「彼らの調査は、我らの秩序を乱す可能性がある」
「秩序を…乱す?」
「そうだ。火の惑星は変化を求める。それは我々を脅かすものだ」
ヴァイの言葉は重かった。
「ポリナ、お前には彼らの動向を監視し、秩序を守ってもらいたい」
「…分かりました」
私は深く頭を下げた。
これは命令だ。逆らうことは許されない。

「ウア、お前もポリナをサポートせよ」
「はい、大司教様」
ウアの冷たい声が背後から響いた。
彼の視線を背中に感じ、私は不安を押し殺した。
――マルの真意を探らなければ。
私は心の中でそう誓った。


数日が経ち、私は使者団に同行することとなった。
水の都の外れにある海岸線。
穏やかな波音が聞こえる。
しかし、その静けさの裏には異質な気配が漂っていた。

「ここが調査地点か」
ナギが海を見つめながら呟いた。
冷静沈着な彼の表情に、一瞬の緊張が走ったのを見逃さなかった。
「カリン、情報を収集しろ。ソウマ、周囲の警戒を怠るな」
ナギは的確に指示を出し、調査団のリーダーとしての実力を示していた。
「了解!」
カリンは海に向かって手を翳し、何かを感じ取っている様子だった。
その様子は、まるで精霊と対話しているかのようだった。

「ポリナ様」
ユウリが近づいてきた。
「こちらの環境について、少し教えていただけますか?」
彼の柔和な笑顔は警戒心を和らげる。
だが、私は簡単には気を許せなかった。
「この海は、精霊が眠る場所だ。近づきすぎると危険だ」
私は無機質に答えた。

「なるほど…精霊の力か」
ユウリの目が一瞬だけ鋭く光った。
私はその変化を見逃さなかった。

「ポリナ」
背後から声がした。マルだ。
私は振り返り、彼の冷たい瞳と目が合った。
「話がある」
マルの声は低く、感情が感じられなかった。

私たちは少し離れた岩陰に移動した。
「なぜここにいるの?」
私は抑えた声で問いかけた。
マルは無表情のまま答えた。
「依頼を果たしに来ただけだ」
「…依頼?」
私は息を呑んだ。記憶が蘇る。
――完成された神器を破壊してほしい
あの言葉が、私の中で反響する。

「風鬼の金棒を探しているの?」
「そうだ」
マルの答えは、余計な飾り気がなかった。
「完成された神器を破壊する」

私は震える声で言った。
「あれは正しい選択だったの?」
「俺は依頼を熟すだけだ。呼ばれたから来た」
マルは淡々と続けた。
「それが依頼だ。」
「…私は…」
言葉が喉に詰まった。

「ポリナ!」
遠くからウアの呼ぶ声が聞こえた。
私は反射的に顔を上げた。
「監視を忘れるな。お前には秩序を守る義務がある」
ウアの目は冷たく光っていた。

私は動揺を隠して頷いた。
「分かっています」
そして、マルに背を向けた。
心臓が激しく脈打っていた。

――秩序を守るために。

だが、それは本当に正しいことなのか?
胸の奥に澱みが広がっていく。
まるで、この水の都全体に満ちているような、不気味な淀みが。

――私は、何を守っているのだろう。

水面に映る自分の姿が、ゆらゆらと歪んでいた。


(第5話:『流れを断つ祈りの代償』 へ続く)

ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 0〜
PayPay
PayPayで支払うと抽選でお得

いつもサポートありがとうございます♪ 苦情やメッセージなどありましたらご遠慮無く↓へ https://note.mu/otspace0715/message