
第3ステージ『水の円盤と精霊の法水』:第8話『信仰の覚醒』(協力:ChatGPT、Gemini)
第8話「信仰の覚醒」前編
数日が経った。
水の都に戻った私たちを待ち受けていたのは、静かな絶望だった。
青の鎧を纏った兵士たちが、神殿跡の前で円陣を組んでいる。その中央には、倒れた市民たちと、祈ることしかできなくなった神官たち。大司教ヴァイと司教ウアが、混乱の中でも揺るがぬ姿勢で立っていた。
しかし、彼らを包囲しているのは人ではなかった。
「……また増えてる」
私は胸元の水の円盤をぎゅっと握る。
異型の精霊たちが、闇に滲むように水の都の路地から現れていた。
通常の精霊とは違う。歪んだ形、虚ろな目、呼吸すらしていないかのような沈黙。人と共にあるべき精霊が、人を脅かす存在へと変異している。
「巫女様!」
ナギの叫び声が響いた。彼は調査団の仲間とともに、異型の精霊の包囲の外側にいた。彼らも逃げ場を探しているが、神殿の周囲はすでに封鎖されている。
「このままじゃ全滅する!」
クーが金棒を構えながら舌打ちする。
「くそっ……こいつら、どこまで増えやがる……!」
異型の精霊たちは、まるで呼吸するように膨張し、波紋のように広がっていた。
それに対し、兵士たちは踏みとどまり、青の鎧に刻まれた紋章をかざして防御陣を張っていた。
「おおおおおおおお!!!」
盾を掲げた兵士が叫ぶ。だが、その叫びは虚しく、異型の精霊が彼の体を包み込んだ。次の瞬間、鎧の隙間から黒い霧のようなものが噴き出し、彼の姿は静かに消えていった。
「なっ……!」
「ポリナさん!」
キカの手が袋を強く抱きしめた。
「何か、何か方法は……!」
私は水の円盤を掲げ、祈るように呟いた。
「ワイナ……私を導いて……」
しかし、針は揺れない。
何かが違う。
私は呼吸を整え、周囲を見渡した。
ヴァイとウアが、神殿跡の入り口に立ち、私を見ていた。
ヴァイの目は揺らがない。
「巫女よ」
彼は静かに言った。
「そなたの信仰は、未だ不完全である」
「……何?」
「信仰が不完全であれば、精霊もまた、不完全な形となる」
ヴァイは手をかざした。
すると、異型の精霊たちの動きが一瞬止まる。
「これは——試練」
ウアが続ける。
「積み重ねられた信仰の集積。その証を否定するのか?」
「証……?」
ウアの言葉に、私は息を呑む。
「この都は、信仰によって支えられてきた。だが——」
ヴァイが手を振ると、異型の精霊たちが再び動き出す。
「信仰が変わる時、それは試練となる」
私は拳を握る。
「ならば、答えを出すまで……この都は、異型の精霊に飲み込まれると?」
ヴァイはただ静かに微笑んだ。
「信仰を捨てるか。信仰に溺れるか。どちらを選ぶ?」
クーが歯ぎしりする。
「ふざけるな……!」
「……いや」
私はゆっくりと首を振る。
「これは、私の試練なのね」
ヴァイは微笑み、静かに頷いた。
「答えを見つけるがいい。巫女よ」
その瞬間、異型の精霊たちが一斉に動き出した。
水の都の崩壊が始まる。
第8話「信仰の覚醒」後編
水の都が沈む。
いや、厳密には違う。
異型の精霊がまるで潮のように押し寄せ、建物という建物を呑み込みながら拡がっていた。静かに、ゆっくりと。まるで、ただそこにあるべきものに戻っていくかのように。
「う、動け……!」
クーが金棒を振るい、一体の精霊を叩き潰す。しかし、霧のように崩れた精霊は、次の瞬間また形を取り戻した。
「……無駄よ、クー」
私は唇を噛み締めた。
「これは、浄化では止められない」
「じゃあどうしろってんだよ!」
「……わからない」
私は胸元の水の円盤を握る。けれど、針は相変わらず揺れない。
導きがない。
「ワイナ……なぜ……?」
水はすべてを浄化し、すべてを抱擁するもの。なのに、なぜこの都の水は異型の精霊に呑まれていくの?
私は、何かを間違えた?
「ポリナさん!」
キカの叫びに振り向くと、大司教ヴァイがこちらを見据えていた。
「巫女よ、答えは見えたか?」
その声は、どこか静かで、残酷な響きを帯びていた。
「あなたは……このままこの都が沈むのを受け入れるつもり?」
ヴァイは首をゆっくりと横に振った。
「信仰とは、試練を受け入れることだ」
「それは……ただの諦めよ!」
私は叫ぶ。
ヴァイはゆっくりと目を閉じ、次に開いたとき、その瞳はどこまでも深く、冷ややかだった。
「では問おう、巫女よ。そなたは信仰を持たぬまま、精霊を導くつもりか?」
その言葉に、私は凍りついた。
そう——私は、信仰を捨てた。
水の精霊をただ信じるのではなく、自らの意思で導くために。
でも、それは信仰の否定ではないのか?
信仰のない巫女に、精霊を導く資格など——。
「……ちがう」
「何?」
私は顔を上げる。
「私は、信仰を捨てたんじゃない。信仰にすがることをやめただけよ」
ヴァイが目を細める。
「言葉遊びに過ぎぬ」
「違うわ!」
私は水の円盤を掲げた。
「私は、ただ祈るのではなく——精霊と共に進む!」
その瞬間——
水の円盤の針が、初めて震えた。
いや、それだけじゃない。
都市を覆っていた停滞した水が、静かに流れを取り戻し始めたのだ。
「……!」
ヴァイが、初めて驚いたように目を見開く。
「水が……?」
キカが呟く。
クーも息を呑む。
異型の精霊たちが、一瞬だけ動きを止める。
私は、静かに呟いた。
「ワイナ……導いて」
すると、円盤の針が、都の中心を指した。
「ポリナさん、あれ!」
キカが指差した先——それは、都市の大聖堂の地下。
私は確信した。
「……答えは、そこにある」
ヴァイが、微かに笑う。
「ならば、進むがよい。巫女よ」
その瞬間——異型の精霊たちが、一斉にこちらを振り向いた。
「行くぞ!」
クーが叫ぶ。
私は息を整え、水の円盤を胸元に抱いた。
私は、水の都の真実を探しに行く。
(第9話『』 へ進む)
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