シュレーディンガーの子猫 ~乱舞:セクション10~
あの猫が出てくることを拒絶しているのではなく、むしろ猫が出てくることを期待した。
これ以上先に進んで現実を直視するぐらいなら、猫に夢を見させてもらったほうがいい。
俺は強くそう願い目を閉じた。
「みゃ~お」
猫の声が聞こえた。
俺は少しホッとして笑みを浮かべる。
ゆっくりと目を開けると、そこは社長室で、今まさに飛び降りようとしている俺が、窓の外に身を乗り出していた。
猫の鳴き声は、身近に感じ眼下には「た、助けて!」と叫ぶ同僚の顔が目に飛び込んでくる。
この猫、どこかで見覚えがあると思ったけど、社長が飼っている猫だったのか。
おまえはどっちsideの猫だ?
これは夢か?過去の幻影か?それとも今が現実なのか?
もう分からない。
あのチャット対応は何だったんだ?
俺の代わりに死にましょうなんて言っていたAIは、一体なんだったんだ。
もう無理だ。
この状況、後戻りできそうにない。
女上司は引き留めようともせず、冷たい目で俺を見ている。
蹴飛ばされて突き落とされないだけ増しだと言うかのように、落ちたきゃ勝手に落ちろとでも言うかのような目で俺を見ている。
なんで、こんな事になっちまったのかな。
まだ、さっきのAIとチャットしていたほうが増しだ。
くそっ、戻れ。
夢の続きでもいい。
この時間が止まって、お前の世界に連れて行ってくれ。
俺は強くそう願い目を閉じた。
「みゃ~お」
「うわっ!びっくりした。またネコ?」
まだ小さいその子猫は、僕の足にまとわり付いて、スリスリしている。
僕はまた夢の中に居るのか?
そんなに寝不足になるほど、昨日はゲームに夢中になっていたんだっけ?
毎日大体午前2時頃まで起きてはいるけど、そんなに寝不足を感じたことはなかったはずなんだけど、慣れない仕事で疲れが溜まっているのかな?
ブラックアウトしたはずのチャットの画面が続いているようだ。
これは夢。クレーマーは夢の中のクレーマーか。
適当に対応しておこう。
これで実績が影響受けるわけじゃないだろう。
「お前が俺の代わりに死ねばいい」
はいはい。ずいぶんな言われようだけどわかったよ。
そうしましょうかね。
小さな子猫が僕の足元でカリカリと爪を研いでいる。
「分かりました。あなたの代わりに私が死にます」
なんなんだ?この夢は……
ザザザザッ タ・タスケテ ザザザザッ
ノイズが頭の中に響いた。
そして今度は、目の前の景色にもノイズが走り、まるでピントの合わないレンズ越しに景色を見ているかのように輪郭がぼやけていく。
度のあわないメガネで景色を見ているのか、メガネを忘れた近視状態で景色を見ているかのようでとても具合が悪い。
目を閉じて眼頭と鼻の間にある「晴明(せいめい)」と言うツボを押した。
このツボは安倍晴明みたいな名前だなと、下らないことを頭に思い浮かべた。
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次回予告:
今の自分の状態が夢の中にあるということを思い出し、自分の夢ならばコントロールできるだろうとそっと目を開けると、内線の音が響く。
「夢の中でまで呼び出しか」
僕は面倒だなと思いながら電話の受話器を上げた。
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