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『風鬼の金棒と精霊の金塊』:第9話『飲み込まれる都市』(協力:ChatGPT)

割引あり



第9話『飲み込まれる都市』

 都市が悲鳴を上げている。

 高層の建物が軋み、崩れ、裂けていく。空中都市ハリウを支える浮遊石の一部が砕け、無数の瓦礫が渦巻く暴風の中で舞い上がる。中心部にそびえる異型の精霊――黒く歪んだ精霊の塊が、都市そのものを取り込もうとしていた。

「これが……こいつの本当の姿かよ……」

 クーは風鬼の金棒を強く握りしめた。異型の精霊は無数の精霊が融合し、一つの巨大な存在へと進化したもの。まるで都市と一体化するように、空間を蝕んでいく。風の流れが乱れ、重力すら狂い始めているのを肌で感じた。

「クー!」

 キカの声が背後から響く。彼女もここまでたどり着いたようだ。だが、今は振り返る余裕がない。

「これは俺たちが終わらせる」

 クーは一歩踏み出した。次の瞬間、異型の精霊が震え、無数の腕のような影がクーたちに向かって伸びてきた。

「来るぞ!」

 クーは風鬼の金棒を振るった。瞬間、都市を覆う暴風の流れが一変する。風を制御するのではない。導くのだ。クーの周囲に渦巻いていた風が、まるで意思を持ったかのようにクーの動きに従い始める。

「……これが完成した力か」

 風鬼の金棒が応えるように振動する。風がクーの足を持ち上げ、クーは軽やかに舞い上がった。

「まるで踊ってるみたいね……」

 キカが呆れたように呟く。しかし、クーは楽しんでいた。風と共に戦う。この感覚こそが、風鬼の金棒の真の力だった。

 だが、異型の精霊も黙ってはいなかった。都市の中心に巨大な渦を作り出し、さらなる破壊を加速させる。

「やばい……あのままじゃ都市ごと飲み込まれる!」

 キカが叫ぶ。彼女の視線の先で、都市の支柱が次々と崩れていく。

「なら、流れを変えるまでだ!」

 クーは風鬼の金棒を天に突き上げた。風がクーに呼応し、暴風の流れが変わり始める。

「風を制御するんじゃない……導くんだ!」

 風が、クーの意思に従って動き出した。異型の精霊の暴風とぶつかり合い、都市の崩壊を遅らせていく。

「クー!」

 キカが何かを感じ取ったのか、クーに向かって駆け寄ってくる。

「私も戦う!」

 彼女の周囲に、光る粒子が舞い始めた。それは、精霊たちの意志だった。キカは精霊の金塊を手にし、何かを悟り始めていた。

 クーたちの戦いは、まだ終わらない。

 俺は風鬼の金棒を握りしめたまま、荒れ狂う風の中心に立っていた。
 水の精霊だったもの──異型の精霊は、無数の黒い触手を伸ばしながら都市の空を埋め尽くしている。その形は定まらず、歪み続け、まるで何かの断末魔のように不気味な音を発していた。

「クー、やり過ぎだ」

 背後からキカの声が飛ぶ。振り返らなくても、その苛立ち混じりの表情が想像できる。

 確かに、俺は今、やり過ぎているのかもしれない。風を操るどころか、暴れさせていた。俺の中の何かが荒れ狂う風と共鳴し、風の鬼神そのものになったかのように感じる。

 けれど、この風がなければ──

「消し飛ばせないんだよ、あれを」

 言いながら、俺は金棒を振るった。空を裂くように疾る風が、異型の精霊の塊へと襲いかかる。
 水だったものが、風に飲まれ、吹き散らされ、断片となる。しかし、その断片はまだ消えない。再び歪み、絡み合い、新たな形を作ろうとしていた。

「くそっ……まだかよ……」

 俺は金棒を再び振るい、より強い風を生み出す。異型の精霊の核を探るように、風を潜り込ませ、砕こうとする。しかし、歪んだエネルギーの塊は容易に砕けない。

「……それは、精霊の記憶の塊だよ」

 静かな声が響いた。サリファだ。

 いつの間にか俺たちの傍に立っていた彼女は、落ち着いた眼差しで異型の精霊を見つめている。

「水の精霊が、ここで積み重ねた時間……その記憶の成れの果て」

 記憶の成れの果て。

 精霊の金塊が経験と記憶の凝縮であるように、この異型の精霊もまた、精霊たちの記憶が変質したものなのか。

「なら、俺は……この風をもっと研ぎ澄ませる」

 俺は金棒を振り上げ、全身に風の気を集めた。

 荒れ狂う風ではなく、導く風を。

 この都市に刻まれた精霊の記憶を、ただ吹き散らすのではなく、その最も純粋な部分へと還すために。

「クー……」

 キカの声が聞こえたが、今は応える余裕がない。
 俺の全身を駆け巡る風の力は、これまでとは違う。金棒と俺の意志が一つになり、精霊たちの名残へと触れていく。

「眠れ──お前たちの記憶が、安らかであるように」

 俺が振り下ろした風は、異型の精霊の核へと真っ直ぐに収束した。
 瞬間、黒い塊は大気に溶けるように散り、静寂が訪れる。

 風が止まった。

 ……だが、都市はまだ揺れている。

「間に合った……のか?」

 俺の問いに、サリファが小さく首を振った。

「崩壊は完全には止まらない。でも、最悪の事態は回避できたわ」

 都市の奥深くで、微かに何かが軋む音がする。だが、それはゆっくりと落ち着いていく。

 俺は金棒を下ろし、深く息を吐いた。

 キカが隣に立ち、俺をじっと見つめる。

「クー……お前、ちょっと怖かったぞ」

「俺もそう思う」

 苦笑しながら、俺は答えた。

 風鬼の金棒が、俺を変えたのか。それとも、俺自身がこの力に溺れそうになっていたのか。

 それを考える暇もなく、サリファが再び口を開いた。

「この戦いの答えは、次の場所にある」

 彼女の言葉に、俺とキカは顔を見合わせた。

 次の場所──

 そこには、何が待っている?

 風の精霊王(マカニ)。

 都市の崩壊が避けられないのなら、精霊たちとの関係をどうするかを考えなくてはならない。

(第10話『精霊王との対話』 へ続く)

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