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『風鬼の金棒と精霊の金塊』:第11話『新たな道、そして疑問』

割引あり



第11話『新たな道、そして疑問』

俺は風鬼の金棒を背に、ハリウの都市を見下ろしていた。崩壊しかけていた街は、ゆっくりと復興の兆しを見せている。瓦礫の山だった広場には、精霊たちの力を借りた工事が進み、市民たちが新たな生活を築き始めていた。だが、その目には不安の影が色濃く残っている。

「クー、準備はできた?」
背後からキカの声がした。俺は振り返り、彼女の真剣な眼差しを見た。あいつはいつだって迷いがない。少なくとも、表面上は。

「ああ、水の精霊の異変を確かめに行く。風鬼の金棒も使い方が少しずつ分かってきたしな」
俺は金棒を握りしめ、風の感触を確かめる。神器は俺に力を与えるが、それ以上に何かを奪っている気がした。

「ねぇ、クー」
キカが視線を落としたまま口を開いた。
「本当に、このまま神器を完成させていいの?」

その言葉に、俺は息を呑んだ。まさかキカの口からそんな疑問が出るとは思わなかった。

「…何を言ってるんだ?」
「だって、精霊の金塊は精霊たちの記憶と意志の結晶なんでしょ?それを人間が利用するなんて…精霊にとっては、裏切りになるんじゃない?」

キカの声は震えていた。まるで、自分自身に問いかけているようだった。

「俺たちは、精霊と人間の未来のために戦ってるんだぞ。犠牲は仕方ない」
「でも、それで本当に未来が作れるの?」

俺は返す言葉を失った。キカの瞳には、迷いと葛藤が渦巻いていた。


サリファの決意と警告

サリファの研究室は相変わらず散らかっていたが、彼女の表情は鋭かった。
「記録を残す者として、私はここに残るわ。まだ調べたいことがあるの」

「水の精霊の反乱が始まっている、って本当か?」
俺が尋ねると、サリファは頷いた。
「ええ、情報は断片的だけど、確実に何かが起きている。水が不安定になっているのは、その影響だと思うわ」

「なら、俺たちが行く意味はある」
「ただし、気をつけて。命は単なる道具じゃない。精霊と人間の繋がりそのものよ」

サリファの言葉が胸に引っかかった。神器を集めることが、本当に正しいのか?


風の精霊王の助言

ハリウの空がざわめいた。強い風が吹き、砂塵が舞い上がる。俺とキカの前に、風の精霊王マカニが現れた。彼の姿は半透明で、まるで風そのものが形を成しているようだった。

「お前たちの旅は、ただ神器を集めるためではない。それがどうあるべきかを考える旅でもある」

マカニの声は低く響いた。
「次の地で、お前たちはさらなる答えを見つけるだろう。風鬼の金棒は、精霊の道を開く鍵となる。精霊の道を探せ」

「精霊の道…?」
俺が問い返すと、マカニは微笑んだ。
「お前たち自身が、答えを見つけるしかない」

風が強まり、マカニの姿は霧散するように消えた。残ったのは、静寂とキカの不安げな表情だった。


衝突と別れ

「やっぱり、私は納得できない」
キカが声を荒げた。
「命に頼らず、精霊と共存する道を探すべきだよ!」

「共存だと?」
俺は思わず笑ってしまった。
「そんな理想論で、この状況が変わるのか?精霊たちが暴走してるんだぞ」

「でも、それは精霊の意思じゃないかもしれない!人間が勝手に神器を作ったから、精霊が苦しんでいるのかもしれない!」

キカの叫びが胸を刺す。俺は言い返せなかった。

「俺は、命を使ってでも精霊を鎮める。犠牲が出たとしても、それが俺の使命だ」
「…本当に、それが正しいと思ってるの?」

キカの瞳に、涙が浮かんでいた。俺は目を逸らした。

「…分からない。でも、進むしかないんだ」


旅立ちと疑問

風の精霊たちが、俺たちを見送りに来ていた。彼らは静かに頭を下げ、風に溶けるように消えていく。

「俺たちが進むことで、この世界の真実が見えてくるはずだ」
俺はキカに言ったが、彼女は無言のままだった。

ハリウの都市を後にし、俺たちは水の精霊の泉へ向かう事にした。だが、心には重い疑問が残っていた。

神器を完成させることが、本当に正しいのか?
精霊と人間の関係を、俺は本当に理解しているのか?

次の目的地、水の精霊の泉。

俺は前を見据えた。
「行くぞ、キカ」

キカは微かに頷いたが、その瞳はどこか遠くを見ているようだった。

(第12話『水の惑星への旅立ち』 へ続く)


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