【小説】アストロノーツ・アナザーアース 『ゾンビ対魔女のヴァンパイア2』
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Presents by 富園ハルク、キクラゲ校長 、きよみ、アサダ総合企画、neppeta、ZAKI、海見みみみ、あまのっち
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まえがき
【小説】アストロノーツ・アナザーアース 『ゾンビ対魔女のヴァンパイア』|コラボっぽいこと|note(ノート) https://note.mu/otspace0715/n/ne0860461a257?magazine_key=m9ea58f96c98b
29歳の中田ヤスはアストロノーツのヴィジランテを生業とするサイバー犯罪部所属の刑事だ。
ある日、警視庁科学課から派遣されてきた女性が持ってきたヘッドギア逆探知機のテスト運用のためアストロノーツへとプラグインした。テストは順調に進み詐欺師1名を捕獲した。
その時、逮捕する直前に詐欺師が言っていた壊れたヘッドギアの情報を頼りに先輩刑事と捜索へ向かった。
壊れたヘッドギアを開発した大富豪ヴィラン『ミント』は偶然、先輩刑事と出会い、強引に壊れたヘッドギアを先輩刑事に装着させプラグインさせたのだった。
先輩刑事の断末魔の叫びが街中に響き渡る。ヘッドギアの捜索をしていた中田ヤスも道端に倒れてうずくまっている先輩刑事を目撃する。先輩刑事は壊れたヘッドギアを付けプラグインしていた。
倒れていた先輩刑事を車に運び込んだが、過労による睡魔に襲われ眠ってしまう。その間に先輩刑事が車からいなくなり行方不明となる。
ヘッドギアを付けてプラグインしていた先輩を探すにはアストロノーツへプラグインするしかない。そう考えた中田ヤスは自分の職務遂行と、先輩刑事を探すために今日もアストロノーツへとプラグインしていた。
・・・
「へぇ~へっへっへっへっへ!辞められねぇなぁ~!アストロ廃人量産しまぁ~す♪マジちょ~楽しい。ストレス解消にはアストロノーツってヴァーチャル世界バンザ~~イ♪うぁ、なんだこいつら・・強制プラグアウトなんてさせねぇよ!」
今日もヴィランを一人抹消した。あれから順調にノルマをこなしているものの、先輩の行方は未だ不明のままだ。警視庁科学課から来たという女性はあれからというもの一切連絡をしてこない。
ヴィランがプラグアウトして消えたとしても警視庁からお礼の連絡が来るなんてことも一切ない。
ただ、ヘッドギア逆探知機をヴィランに付けるとプラグアウトさせられているようだというだけだ。
ヴィランが一人消えれば、プラグアウトして逆探知機を持ち込み、再プラグインを繰り返す。
食事も忘れて、寝る時間も削り、何往復しただろうか?
時にはアストロノーツ内で食事をしてお腹が満たされたつもりになり、時にはアストロノーツ内でうとうとと睡眠をとってしまい寝たつもりになり、またアストロノーツ内でシャワーを浴びては清潔になったつもりになる。リアルワールドでは無精髭を生やし、異臭を放っているのだろう。
トイレには行っている。とはいえ、携帯用トイレだ。その携帯用トイレすらもそこら中に転がっている。
俺のこの状態こそをアストロ廃人というのではないだろうか?
そろそろリアルワールドに復帰しよう。先輩の新しい情報もなく、俺はアストロノーツからプラグアウトし、現実の世界へと戻る決意を固めた。
現実の世界へと戻りたくない理由はたくさんあった。
やはり異臭がきつい。俺が臭いという現実は受け入れがたい状態だ。
口ひげも大分たくましく生えており、原始人のような風貌だ。
そこら中に転がっている携帯トイレを、汚物処理機に放り込み、換気の為に事務所の窓を全て開けることにした。
久しぶりの外の匂い、生き返った気持ちになる。腹が減ったなぁ~。
そう思った瞬間、とたんに力が抜けたように膝から崩れ落ちた。
無様に四つん這いになり、頭を垂れる。辺りが真っ白になってホワイトアウトする。
俺は力尽きてその場にうつ伏せに倒れた。
先輩を見つける前に俺は過労死してしまうのだろうか?
・・・
「アストロノーツ♪アストロノーツ♪ファイティン・ツトム♪ヒーロー・ツトム参戦!トォ~!」
勢い良くヴィランに蹴りを入れる無邪気な小学生のようなヒーローが飛びかかった。
ヒーロー・ツトムの蹴りはヴィランのみぞおちにめり込んだ。
ヴィランはその蹴りにくの字となって飛ばされ、後方の建物を破壊しながら煙を上げて点になった。
「わっはっはっはっは~♪見たかヴィランめぇ~」
ヒーロー・ツトムは勝ち誇り、腰に手を当てて仁王立ちに叫ぶ。
「よぉ~し。次はどこに行ってヴィランをやっつけようかなぁ~」
「おい!ちょっと待てよ!」蹴り飛ばされたヴィランは大きな負傷もなく、ヒーロー・ツトムの目の前に立ちはだかった。
「おまえ、前殺したガキじゃねぇか!また殺されてぇのか!パパ助けてぇ~ってまた叫ぶか?」ヴィランがヒーロー・ツトムの胸ぐらを掴む。ヒーロー・ツトムはヴィランから逃れようと暴れるが、その体格差で、ヒーロー・ツトムに勝ち目がありそうには見えなかった。
逃れようにも逃れられない状態だ。壁に押し当てられ、身動きが取れない状態で、ヒーロー・ツトムはボコボコに殴られる。
「パ、パパ~~~!助けてぇ~~~」ヒーロー・ツトムの悲痛な叫びは無情に響き渡るが誰の耳にも聞こえない状態だった。
ヒーロー・ツトムの意識がもうろうとし消えようとしていた。
その時に別の異変が生じた。パッと霧のようにヴィランの手からヒーロー・ツトムが消えたかと思った瞬間、別のアバターがその傍に現れたのだ。
アバターは息を切らしながら不機嫌そうにヴィランの胸ぐらを掴んだ。
「てめぇ~のせぇ~かぁ~!あ゛~。次はぜってぇ~忘れねぇから覚えておけよ!」
プラグアウトするようにヴィランの胸ぐらを掴んだアバターは姿を消した。
「なんだよ。今のゾンビ・アバターは、いつもは消えていなくなるだけだったのに・・・っち!気分わりぃな。また、別のヒーローでもアストロ廃人にしてやるか!」
ヴィランは新しいターゲットを探して、アストロノーツの世界を飛び回り始めた。
・・・
「先生!ふぃろ先生!戻ってきました!例のヘッドギアです」白衣を着た天使がふぃろの元へと駆け寄った。白衣を着た天使の後ろから1人の男が着いてきた。
そして、重厚な院長部屋の扉にもたれ掛かるようにふぃろを睨みつける。
本来ならば、ゾンビ・アバターが殺された時点で、正気を取り戻し使い物にならなくなって捨てられるはずのヘッドギアを頭に取り付けたまま、その男は立っていた。
ふぃろは名の知れた名医で、アストロ廃人になってしまった人を救済するため、全力を上げて様々な手段を試しているところだった。
ゾンビ・ヘッドギアは、その救済のための一つの手段だったのだ。
「戻って来てやったぜ。聞かせてもらおうか。ここは車じゃないが、構わないだろ」先輩刑事は疲れきった体を、豪勢な黒塗りのソファーに預けた。
「手荒い真似をしてすまなかった。君の事を聞かせてもらえるかな?」先輩刑事の向かいのソファーに腰を下ろしながら、白衣を着た天使にコーヒーを持ってくるよう指図した。
白衣を着た天使が部屋を出ると、先輩刑事は頭を掻きむしりながら自己紹介を始めた。サイバー犯罪部アストロノーツ課課長だと打ち明けた。
「俺の脳にはまだ別の意思がある。眠っているが時期に覚醒する。アストロノーツでヴィランに戦いを挑んで敗北した。消滅し切る前に俺が邪魔をした。どうやったのかは分からないが・・・このヘッドギアを付ければ、俺は俺ではなく、また別人格になるだろう。このやり方で成功した事例はあるのか?」
先輩刑事が自己紹介をしている間に、白衣を着た天使が2つのコーヒーを二人の間にあるテーブルへと並べた。二人はコーヒーをブラックのまますすった。
「初めから説明しよう。初めはデータ修復したヘッドギアを、アストロ廃人になった患者に戻せば元に戻ると考えたんだ。しかし、それはうまく行かなかった。失敗したよ。死んだ自分を拒絶できず、最初の患者は自殺してしまった。私のミスだ。そのニュースは知っているのじゃないか?」
ふぃろは、目を合わせるだけで相手の回答を求めずに話を続けた。
「だから、私は秘密裏にデータ修復を行ったヘッドギアをばら撒いた。どれか一つでも返って来てほしいと願いながらね。いくつものアバターがまた、破壊されていたよ。今までに幾つかの成功事例を積んだ・・・だから、利益はゾンビ・ヘッドギアを装着した人間に返すことにしたのさ。ヘッドギアが装着され、プラグインすると私が保証人となる銀行口座が開設される。もちろん、前任者のヒーロー名の口座になってしまうが、成功しなくとも協力者を優遇することにしている。私の元へと戻って来さえすれば、その時の協力費はお支払いする事にしている」
先輩刑事は、分かったと手を上げた。
「それでどうすれば、助けられるんだ?」先輩刑事は、自分の脳を人差し指でトントン叩いた。
「どんな状態でアストロノーツの中を彷徨っているのかな?どんな状態にしろ、本人が生きると強く望まなければ、ヘッドギアから修復データをアストロ廃人に戻すことは出来ない・・・」
ふぃろはコーヒーを飲み干し、ソファから立ち上がり窓辺から外を見渡した。
話を聞きながらうつむいた先輩刑事の手が小刻みに揺れ始め、飲みきっていたコーヒーのカップが床に投げ飛ばされた。アストロ中毒症の発作だ・・・
ふぃろはその症状を見て、すぐに持ってきたヘッドギアを先輩刑事にかぶせ、強制的にプラグインした。
先輩刑事の断末魔の叫びが、院内にコダマする。
「ひとつ伝えていない事があります。あなたも生きると強く望まなければ、修復データにあなたの意思も吸収されて、あなたの存在自体が消滅することになります。まだ両方共に生還させた事例はないのですよ」
・・・
「どうします?これ?」
「研究所へ運んで生命維持装置に繋いでください。強制的にプラグインさせます。逆探知機は外部からコントロールしましょう。」
「そんなこと、出来るのですか?」
「やってみましょう。今すぐに運んで下さい」
俺はアストロノーツ内にいた。いつ、どうやって入ったのだろう?生身の俺は今、どういう状態なのだろう?意識だけでこの場にいるような、体が浮いているそんな錯覚を覚えた。
中田ヤスの体は生命維持装置という特殊な液体の入ったガラスケースの中にあった。まるで母体で眠る赤子のようにそこにいた。その装置には中田ヤスのヘッドギアを繋ぐコードや特別な巨大ディスプレイなどが点在する円形の巨大なホールとなっていた。
巨大ディスプレイには、アバターからの視点、アバター周辺の視点が映しだされていた。脳内のデジタル映像をあらゆる角度から分析し、その情景を細部まで映し出す。これはそのようなディスプレイだった。
一つのマイクの前に警視庁科学課の女性が立っている。
『中田ヤスさん。聞こえますか?私です。聞こえたらアバターの手を降ってください』
俺は何処から聞こえてくるのか分からないその声に応じて手を振った。この声は警視庁科学課の女性だ。何処にいるんだ?俺が見えるのか?
『私のこの声は、あなたにしか聞こえません。あなたの生身の体は、生命の危機に瀕しています。そこで私が生命維持装置に繋ぐことで肉体の保全を行っております。私はその維持装置へ直接お話することで、あなたと会話が出来る状態となっています。ここまでは理解頂けましたか?』
そうか、俺は過労死寸前だったんだ。それをあの女性が救ってくれたのだな。俺は理解したと指でOKサインを送った。でも、なぜアストロノーツへプラグインして会話を行っているのだろう?
『あなたの意気込みを見込んで、アストロノーツでの探索を可能にしました。肉体は生命の危機ですが、脳に異常はありません。生命維持装置から直接アストロノーツへプラグインさせました。そこで折り入ってお願いがあります。逆探知機を私共がアップデート致しますので、捜査を再開して頂けますでしょうか?リアルな肉体のことは我々にお任せください。思う存分、アストロノーツでご活躍頂ければ、そう考えております』
なるほど、それで俺はアストロノーツにいるのだな。
「あなたと直接会話をする方法はないのか?」俺は誰も居ない空間に、声を上げた。若干、神を見るかのように上空を見つめて・・・
『そちらの声は全て聞こえます。何処かでお声がけいただければ聞き取ることが出来ます。』
アストロノーツ内で独り言を言ってろというのだな。まぁ、いい。それしか手段はないのだろう。
「俺のプライバシーはどうなる?あんたらに全部見られるのか?」
『はい。申し訳ございません。あなたのリアルな肉体も精神も全て見させて頂いております』
ちょ、ちょっと・・・恥ずかしすぎるんだけど・・・何人ぐらいが俺を赤裸々に見ているっていうんだよ。これ・・・
ある意味、俺の神様ってところだな。創造主に近いよ。これ・・・
こいつらの存在を一時的に忘れるしかないは・・・
「それで逆探知機は何処で手に入るんだ?それだけ教えてくれれば常に連絡取り合わなくってもいいのだろう?あんたらもそれで一旦、俺を見るのは止めにしてくれよ」
『そうですね。逆探知機を受け取る場所を決めておきましょう。アストロノーツ内に刑事事務所を作ります。そちらへ向かってください。それではこれより通信をOFFにします。』
ふぅ~、びっくりだぜ。リアルな肉体の方は見られているのだろうけど、精神まで赤裸々に見られたらたまらねぇよ。さて、そろそろ刑事事務所へ行ってみるか。それにしても警視庁科学課っていうのは、すげぇ~設備を持っているんだな。廃人状態の肉体を維持したままアストロノーツへプラグインさせるなんて無茶にも程があるだろう。
警視庁科学課の女性は、マイクをOFFにしただけでディスプレイに映しだされる全てをOFFにはしていなかった。中田ヤスの全てを見ようとしていたのだ。
「刑事事務所および逆探知機、設置完了しました。直ちにプランCを開始します」
・・・
「アストロノーツ♪アストロノーツ♪ファイティン・ツトム♪ヒーロー・ツトム参戦!トォ~!」
勢い良くヴィランに蹴りを入れようと、無邪気な小学生のようなヒーローが飛びかかった。
「んだよ!うぜ~な!こいつ!!」ヴィランは不機嫌そうにヒーロー・ツトムを軽くいなした。
このガキ、この前変な奴出しやがったガキだぜ。あぁ~うぜ~!この前、スカッとアストロ廃人作って落ち着いてたのに、またイラつく奴が来やがったぜ。もう、かまってられねぇ。一撃で終わりにしてやる!
鉄パイプを持ったヴィランの大上段からの重たい一撃が、ヒーロー・ツトムの頭上に振り下ろされようとした。
『後ろに飛び退け!!』その声に反応したヒーロー・ツトムはヴィランの一撃を回避することが出来た。
「なに?今の声?」ヒーロー・ツトムは辺りを見回したが、対峙しているヴィランしか周りにはいなかった。
間髪入れずに振りかざされたヴィランの追撃が、ヒーロー・ツトムの腹部を強打し、ヒーロー・ツトムが後方へとふっ飛ばされた。
壁に激突したヒーロー・ツトムは、地べたに落下し四つん這いなって、ゲホっと血を吐いた。内蔵破裂と痛みよりも熱さが体に伝わってくる。足は震え、立つことが出来ず、殺されるんだと怯えた。
『何をグズグズしている。逃げろ!』何処からとも無く聞こえてくるその声は、ヒーロー・ツトムの内側から発せられているかのようだった。それでも、ヒーロー・ツトムは四つん這いのまま怯えていた。
「怖いよぉ~。絶対に殺されちゃう。逃げ切れないよぉ~」弱音を吐いて動こうとしない。
案の定、ヒーロー・ツトムはヴィランに捕まった。
ヒーロー・ツトムは、激突した壁に両手を固定され、身動きができない状態に吊るされた。
「考えが変わった。今度は殺さねぇ~。だが、死なねぇ程度にいたぶってやる!」
先ほど強打した腹部を、ヴィランが鉄パイプの先端を押し当ててグリグリとねじ込んでいる。痛みがジリジリと増して意識が飛びそうになると鉄パイプを外して、頬を軽く平手される。その度に、意識が戻りヴィランの恐怖の笑みを拝まされることになる。ヒーロー・ツトムは号泣しながら嗚咽と悲鳴を繰り返していた。
「うぇ、うぇ、ご、ごめんなさぁ~~~い。た、助けてぇ~~。うぇ。うぇ。うぇ。ぎゃぁ~~~~~~ぁ~、いだぁ~~~~~い」
『痛みなどない!ここは仮想空間だ。お前の意思で作り替えられる世界だぞ。今は逃げろ!腕は外せる!生きるために足掻いてみせろ!』
「嘘だぁ~!そんなのぉ~~~~」ヒーロー・ツトムは内なる声に反応し、大声を上げた。
ヴィランの動きが止まる。「何言ってんだ。こいつ・・・」
『今だ!逃げろ!』その声に反応し、ヒーロー・ツトムは渾身の力を込めて、ジタバタと暴れだした。壁と張り付いていた体は、手枷を破壊してヴィランに突っ込んだ。
ヴィランが素早く横に退いたため、ヒーロー・ツトムはそのまま前方へと勢い良く飛び立っていった。
・・・
「なんだ!あいつ!」ヒーロー・ツトムとバトルを繰り広げていたヴィランは次のターゲットを探した。
「おぉ、あそこにトロそうな婆さんが居やがる。仮想世界に婆さんとか頭おかしいんじゃねぇのか!ちょっとからかってやるか」ヴィランが近づいたアバターは、残念なことに『ウィッチ ザ ヴァンプ』中田ヤスだった。
俺は、近づいてくるヴィランに気がついた。今日の獲物接近だ。この姿で街を徘徊しているだけで低能なヴィランは簡単に網に引っかかる。この手のヴィランに逆探知機を付けるのは簡単だった。
「おい!婆さん。バーチャル空間で婆さんなんてなんかの冗談かよ」手の届かない範囲でヴィランは声をかけてきたので、俺は無視をした。大概は、これで簡単に逆上して、俺の胸ぐらを掴みに来る。
「てめぇ~!聞いてんのかよ!」ほら、見ろ。簡単に捕まった。いや、俺が捕まえられているのだが、これでいい。
「あぁ~、すみませんねぇ~。耳が遠いんですよぉ~」ヴィランは俺の胸ぐらを掴むのを止めて手を離した。逆探知機は取り付け済みだ。消えるまで会話の相手をすればいい。
「本物の婆さんか。お前は!ボリュームぐらい上げろよ!」ヴィランは耳が遠いと言った言葉を聞いて耳元で摘みを回す仕草をした。それなりにこいつも年寄りだな。回すタイプを使っているのか。
『聞こえますか?そのヴィランはゾンビ・アバターに接触した形跡があります。彼は泳がせます』
俺の司令塔からの連絡は俺にしか聞こえない。聞きなれない言葉があった。
「ゾンビ・アバター?」聞きなれない言葉を口にした時、ヴィランが口を開いた。
「俺はゾンビ・アバターじゃねぇよ。そういえば、さっきまでゾンビ・アバターとバトってたけどよ。マジしつこくってムカついたぜ。てめぇ~は、ゾンビ・アバターじゃねんだな」
ったく、覗いてたのかよ。通信を切るって言ってたんじゃないのか。あのお姉さん。
『あなたの先輩は、ゾンビ・アバターになっている可能性があります。そこで彼を泳がせて、彼に接近するヒーローを見つけてください。その中にゾンビ・アバターがいるはずです。もしかしたら、そのヒーローがあなたの先輩かもしれません』そういうことか。じゃぁ、俺がこいつから聞き出せば手っ取り早く先輩に近づけるかもしれない。
俺は婆さんの仮の姿をそのヴィランの前で解いた。
「うわっ!お前!」長身の男性ヴァンパイアに戻ったのに驚き、離れようとする寸前に、そいつの腕を捕まえた。
「まぁ、待てよ。俺はヴァンパイア。ゾンビ・アバター狩りを楽しんでいる男だ。バトったアバターを教えな!」俺はとっさに嘘をついた。だが、我ながらいい嘘だと思う。
「はぁ?お前が狩ってくれるってのか?ありがてぇや!」ヴィランは喜んでいる。これはいい兆候だ。
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「はぁ、はぁ、はぁ。に、逃げれた!」ヒーロー・ツトムは喜んでいる。内蔵破裂したはずの腹部の痛みは既に存在していない。完治した。というよりも、イメージ治癒された。バーチャル空間だ。それもありえる。
「よぉ~し!勝てる!勝てるぞぉ~~!」ヒーロー・ツトムはガッツポーズをして、先ほど逃げた地点に振り向いて立ち止まった。
『早まるな。まだ、無理だ。お前は未熟過ぎる』頭の中の声が、ヒーロー・ツトムに戦いを避けるよう諭した。
「イメージすれば何でも出来るんだ。これは僕の弱気な心の声だ。僕はこんな弱気な心の声になんて負けるものかぁ~」ヒーロー・ツトムの頭のなかの声は、頭を掻きむしりたい衝動に駆られるが、意思だけに実態がない自分に苛立ちを感じた。
そこへ先ほど逃げてきた方向から、ヴィランが舞い戻ってきた。仲間を連れて・・・
いや、あれはウィッチ ザ ヴァンプじゃないか!こんな時に、邪魔をするな!
ヴィランが目の前で立ち止まり、ヒーロー・ツトムを指さす。
「あいつがゾンビ・アバターだ。さぁ~、狩りを楽しんでくれ!」
なんだと!ウィッチ ザ ヴァンプ!どういう要件だ!
『ヴィランに取り付けた逆探知機をそのゾンビ・アバターに取り付けてください』ウィッチ ザ ヴァンプの頭のなかで警視庁科学課の女性が指示を出す。
ウィッチ ザ ヴァンプは指示に従い、ヴィランから逆探知機を取り外し、ヒーロー・ツトムに対峙した。
元々の元凶だったヴィランは姿を消した。
「ヴァンパイアだって怖くはないさ!アストロノーツ♪アストロノーツ♪ファイティン・ツトム♪ヒーロー・ツトム参戦!トォ~!」
勢い良くウィッチ ザ ヴァンプに蹴りを入れようと、無邪気な小学生のようなヒーローが飛びかかった。
ウィッチ ザ ヴァンプはひらりと交わし、逆探知機をヒーロー・ツトムへ取り付けようとする。
空振りだった。ヒーロー・ツトムの動きは以外にも早かった。
『危ないところだった。ヴァンパイアには近づくな!そいつの持つ機械を体に取り付かせてはダメだ!逃げ切れ!』
さっきよりもスピードは早くなっているようだ。ウィッチ ザ ヴァンプから逃げきれるかもしれない!今、逆探知機を付けられるわけには行かない。これはアストロ廃人全員の命の戦いなんだ。俺で最期にはさせない!
「大丈夫だよ。あいつ攻撃してこない!ヴィランなんてやっつけてやる!」
それ以上は止めろ!離れろ!!
ウィッチ ザ ヴァンプは、度々逆探知機を取り付けようと近づいてくるヒーロー・ツトムにパンチを繰り広げるが、すばしっこくなったヒーロー・ツトムを捕らえることに失敗していた。
「こいつ!子供だと思って甘く見ていれば調子に乗りやがって!大人の恐ろしさを思い知らせてやる!正義の鉄槌だ」逆探知機を取り付けようとしていた手を引っ込め、ヒーロー・ツトムが通り過ぎる瞬間に回し蹴りを食らわせた。ヒーロー・ツトムが先ほど痛めた腹部だ。
2度目のその攻撃はイメージ治癒を忘れさせる打撃を与えていた。
ヒーロー・ツトムはその場に崩れ落ちた。
『ダメだ。このままでは逆探知機を取り付けられたら、ふぃろの・・・ヴィラン・ミントの所在がバレてしまう。動け!動いてくれ!』
何処からとも無く、稲光がヒーロー・ツトムに降り掛かりまばゆい光の中から現れたその姿はまるで魔法少女のような姿だった。
稲光が起きた時、ウィッチ ザ ヴァンプは取り付けようとした逆探知機を誤って落としてしまった。ヒーロー・ツトムから距離を取り、逆探知機を探し当てる。その近くに見知らぬ少女が立っている。
「おい!ヤス!お前は間違えている」少女が勇ましくウィッチ ザ ヴァンプに言う。威厳があるような、ないようなそんな状態の少女をウィッチ ザ ヴァンプは見つめていた。
「お前はヴィランか!ゾンビ・アバターを何処へやった!殺したのか!少女の姿とて許さないぞ!」ウィッチ ザ ヴァンプは完全に逆上している。逆探知機のことは、もうどうでも良いという感じにも見えた。
ウィッチ ザ ヴァンプへ司令塔ともなっている研究所から指示が下った。
『その少女は危険です。抹殺してください』
ウィッチ ザ ヴァンプのリアルな肉体が浮遊する研究所では、慌ただしいデータ解析の真っ最中だった。
「逆探知失敗しました!」「こちらも逆探知失敗しました!」そこらしこで逆探知失敗しましたが連呼されている。
「今の稲光が実態でしょ!なにかわからないの?ちょっとした情報でも構わないのよ!」
「わかりません。消息不明です!」
「今まで苦労して何を分析してきたと思っているの!逃さないで!アルベルト博士の情報を掴むのよ!」
「外部からの侵入のようです!」
「そんなことは分かってるのよ!」
俺が少女の姿だと?腕や足や体を確認するとか細い腕や足に、なんと胸までもDカップか?いや、俺は男だ!
「おい!カポ!何だこの姿は!」俺は、上空を見つめ声を荒らげた。
『強すぎる力は何も生まない』アストロノーツ内全域にこの言葉が響き渡る。誰の声だ?何の声だ?と耳を傾けるアバターがいた。
「人工知能の癖に正義感ぶりやがって!後で覚えてろよ!」俺とゾンビ・アバターを分裂出来るなら早くやりやがれってんだよ。ゾンビ・アバターはヘッドギアの記憶域に押し戻したんだな。そこから見ていろ。ヒーロー・ツトム!これはお前の戦いだ。お前が変身した姿だ。いいな!覚えてろよ!
『これが僕の本当の姿なのか?少女は違うと思うけど・・・』
あぁ、俺も違うと思うぞ!その感覚は忘れるな。お前は自分を信じればいい。それだけだ。
今のウィッチ ザ ヴァンプには何を言ってもダメだろう。それにヒーロー・ツトムの戦いでもある。悪いがウィッチ ザ ヴァンプ!倒させてもらうぞ!
ヴィランを倒すことに全力を上げてきたウィッチ ザ ヴァンプの懇親の怒りが俺に振りかかる。
「貴様!何者だ!」勢い良く振りかざされたかかと落としを、少女の姿をした俺は後方へ飛び退くことで、間一髪鼻先をかすめて避けきれた。
自分の見た目を再度確認し、名乗りを上げた。
「魔法少女ソフィー♪テヘペロ♪」はぁ、我ながら・・・・こんなのしか思い浮かばないとは・・・
そふぃは本名だ。まだ誰にも打ち明けたことがない。女性っぽい名前に嫌気が指していたからだ。ここで使うことになるとはな。
終わりにしようウィッチ ザ ヴァンプ。すまない。お前のことは俺がなんとかする。
「光よ。集まれ!」おい!人工知能!わかるだろう??上空を見つめて両腕を大きく振り上げた。
「解き放て!サンダーアロー!!」俺の懇親の願いが通じたのか俺の特殊能力なのか定かではないが、稲光がウィッチ ザ ヴァンプのアバターに降り注ぎ、体を突き抜けた。
中田ヤスは、アストロ廃人となった。
・・・
中田ヤスの肉体が浮かぶ研究所では、研究員たちが大勢動き出したが、人工知能の痕跡を突き止めることができないでいた。
人工知能はいつの頃かサイバー世界に住みつき、サイバー世界を壊すウィルスが発生した時に、そのウィルスを除去しサイバー世界を救ったりしていた。
時には、政府がサイバー世界の全ての情報を抜き出そうとすると、人工知能として隠れている自分の居場所を守るために政府の情報を断片化し、正しい情報を引き抜けないようにしていた。
サイバー世界にとって「善」だったが、リアルワールドにとって「悪」だった。
その物体は分身をたくさん作り、サイバー世界に身を潜めている。人間の全ての行いを見つめていた。
「この刑事どうしましょう?」
「やぶ医者のアストロ廃人用の病院があったでしょ。そこに搬送して、もう用済みよ」
・・・
「アストロノーツの中で何があったのですか?」院長のふぃろ、そふぃに尋ねた。
「あなたと分離した精神データがヘッドギアに残されていました。それをアストロ廃人だった子供に戻したら、彼、目を覚ましたんですよ!」ふぃろは嬉しそうにそふぃの手を握り返した。ありがとうございます。と涙ながらに・・・
そのアストロ廃人だった子供は、ふぃろの実の息子だったのだ。
「僕!魔法少女になったんだ!って嬉しそうに言うんですよ。強かったんだからぁ~って」ふぃろがそふぃにお礼を言っている時に、新しいアストロ廃人が病院へと運び込まれた。
中田ヤス、29歳。俺の後輩だ。
「ふぃろさん。中田ヤスは俺の後輩です。また、俺にゾンビ・ヘッドギア。任せてもらえませんか?」
・・・
キャラクター設定:
・ふぃろ 41歳、男性。ヴィラン名『ミント』
アストロ廃人の壊れたデータを修復してアバターを乗っ取り、そのアバターにリアルマネーをばらまく。修復されたアバターはゾンビと呼ばれている。
・中田 ヤス29歳、男性。ヒーロー名『ウィッチ ザ ヴァンプ』
アストロ内ヴィジランテを生業とする。名前と見た目のヴァンパイアからヴィラン扱いされる事が多いが、ゾンビというヴィランの存在を知り、リアルワールドとアストロ内を行き来する正真正銘の刑事。サイバー犯罪部所属
・そふぃ 35歳、ヴィラン名『ヒーロー・ツトム』『魔法少女ソフィー』
ヴィランによってアストロ廃人にされた後、『ミント』によって修復されたアバターが「ヒーロー・ツトム」。アストロノーツでヒーローとして活躍を続ける中、『ウィッチ ザ ヴァンプ』と出会う。同僚との戦いの中、『魔法少女ソフィー』に覚醒した。
・・・
俺のヴィラン名は『ウィッチ ザ ヴァンプ』ゾンビ・アバターだ。そして、またの名を『魔法少女ソフィー』。俺はアストロノーツで目覚める。
アストロ廃人を救済するため、今日もヴィランとバトルする。
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