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命の羽衣と精霊の絹糸:第1話「精霊の街での目覚め」(協力:ChatGPT)再改修版

割引あり



第1話:「精霊の街での目覚め」

 朝の市場はいつもと同じざわめきに包まれていた。陽の光が石畳に斜めの影を落とし、風の精霊が店先の布を揺らす。焼きたてのパンの香ばしい匂いと、干した香草のすっとした香りが混じり合い、私は息を深く吸い込んだ。

 でも——今日は何かが違う。

 ざわめきの裏側で、耳鳴りのような何かが響いている。まるで空気そのものがざわついているみたいに。

「……キカ、何ぼんやりしてんの?」

 振り返ると、ノアが立っていた。軽薄そうな笑みを浮かべた商人で、街の噂なら何でも知っている。

「何か聞こえない?」

「何かって?」

 私は市場を見渡した。いつもと変わらない光景——魚を並べる店主、果物を吟味する旅人、駆け回る子どもたち。でも、風がざわざわと囁くような感覚が消えない。

「精霊の声……かな?」

「最近、精霊の機嫌が悪いらしいな。風の流れが落ち着かないってパオがぼやいてた」

 ノアの言葉に、私はさらに耳を澄ませた。パオ——風の精霊。普段は気まぐれで、空を駆けるだけの存在。それが「ぼやく」なんて、珍しい。

「何が起きてるの?」

「さあな。お前なら直接確かめてくるんだろ?」

 ノアは肩をすくめて笑い、去っていった。私はしばらくその背中を見つめ、それから足を動かした。

——ざわめきの正体を確かめるために。


 市場を抜け、神殿跡へと向かう。

 ここはかつて灯の神殿だった場所。今では崩れた柱とひび割れた石畳が残るだけ。でも、私は幼い頃からこの場所が好きだった。静かで、時間が止まっているみたいで。

 ……なのに、今日は違う。

 空気が異様に重い。風が吹き抜けるたび、肌が粟立つ。まるで何かがここに「いる」みたいに。

 私は足元を探るように進んだ。そして、瓦礫の間に何かが引っかかっているのを見つけた。

 布。


ボロボロな布

 白く、うっすらと光を帯びている。何かの装束の一部……? それにしては奇妙な感触だった。触れた指先が、じんわりと温かい。まるで生き物に触れているような……

 ——その瞬間、空気が弾けた。

 遠くで悲鳴が上がる。風が逆巻き、光が脈打つ。私は咄嗟に布を掴んで駆け出した。


 街に戻ると、市場は混乱の中にあった。

 何かが暴れている。

 見たことのないものだった。狼のような形をしているのに、輪郭が揺らいでいる。炎が燃えているのに、その隙間から風が渦を巻いている。もう一つ——カラスのような影が空を裂く。黒い羽根の縁が青白く燃え、飛び立つたびに熱風を巻き起こしていた。

 何かが……壊れている。

「危ない!」

 突如、横から強い力で引き倒された。直後、炎の塊が頭上をかすめ、石畳が焦げる。

「無茶すんな、キカ!」

 私を押し倒したのは、鍛冶屋のハクだった。精霊の道具を鍛える職人——そして、この街で最も腕の立つ男の一人。

「……ハク?」

「こんなもんが出るとはな……ちっ、精霊が騒いでたのはこれか」

 彼は立ち上がり、腰の短剣を引き抜いた。精霊の火が宿る刃が、わずかに光を帯びる。

「キカ、お前何かしたのか?」

「……わからない。でも、これを拾ったら——」

 私は布を握りしめたまま、襲い来る影を見た。

 ハクが舌打ちをする。

「くそっ、こんなのまともに相手できるかよ……!」

 狼の形をした炎の獣が唸り、カラスのような影が羽ばたく。その瞬間——

 「——来たな」

 ひどく冷たい声がした。

 振り向くと、神殿の巫女・レイが立っていた。長い衣が風に揺れ、その周囲で光が揺らめく。

「レイ……!」

「その布を、見せて」

 私は戸惑いながらも、布を差し出した。

 レイはそれをじっと見つめ——そして、ゆっくりと告げた。

「……これは、“未完成”ね」

 ぞくりと、背筋が粟立った。

 何が——未完成?

「キカ、あなたは何を拾ったのかわかっている?」

「……ただの布、じゃないの?」

「違うわ。これは——」

 言いかけた彼女の言葉を遮るように、炎が爆ぜた。

 狼の獣が再び咆哮し、カラスの影が風を裂く。

 街の空気が、確実に変わり始めていた。

(続く)

(第2話:「灯と風の戦火」へ続く)

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