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第3ステージ『水の円盤と精霊の法水』:第5話『流れを断つ祈りの代償』(協力:ChatGPT、Gemini)

割引あり



第5話:流れを断つ祈りの代償(前編)


水面が、揺れていた。
空の青を映す穏やかな水面が、まるで息をしているかのように微かに脈打っている。
私はその異様な光景に目を凝らした。

「…あれは…?」
思わず呟くと、隣に立っていたウアが眉をひそめた。
「使者団が調査している場所だな。海の境界線…か。」

境界線――それは、水の都を守るために張られた見えない結界だった。
海と街を隔てるための聖域であり、水の精霊たちが住む場所でもある。
だが、今その境界線が不気味に揺らいでいた。まるで、何かが内部から押し出してくるように。

使者団が警戒しつつ、境界線付近で慎重に調査を続けているのが見える。
ナギが冷静な表情のまま、測定装置を手にして何かを確認していた。
カリンが不安そうに海を見つめ、ソウマとユウリがその背後を守っている。
異常は確かに存在している――だが、それが何かは分からない。

「ポリナ」
不意に声をかけられて振り返ると、マルが冷淡な表情で立っていた。
黒いマントが風に揺れ、彼の周囲だけ空気が異様に冷たい。
「何かを感じているのか?」
その問いに、私は言葉に詰まった。

「…分からない。ただ…不安が消えない。」
胸の奥に広がる澱みが、重くのしかかる。
何かが起ころうとしている――そう確信していた。

その時、海の境界線が大きく波打った。
まるで水が沸騰するように、泡が次々と浮かび上がってくる。
「ナギ! 気をつけて!」
私が叫ぶと同時に、境界線の内側から何かが現れた。

それは、形容し難い存在だった。
黒い影が水面から浮かび上がり、うねるように蠢いている。
まるで水そのものが生命を持ったかのように、滑らかに形を変えながら広がっていく。
その輪郭は曖昧で、実体があるのかすら分からない。

「…あれは…精霊…?」
ウアが困惑したように呟く。
だが、私はすぐに首を横に振った。
「違う…あれは、精霊の本来の姿じゃない…!」

水の精霊はもっと清らかで、美しい存在のはずだ。
しかし、目の前に広がる黒い影は、不気味な淀みそのものだった。
それは水の精霊が歪んだもの――異型の精霊。

「ポリナ様、下がってください!」
青い鎧を着た警備兵たちが前に出て、武器を構えた。
彼らの武器には水の精霊が宿っている。
その力を使えば、異型の精霊を祓うことができるはずだ。

だが、異型の精霊は一瞬で形を変え、警備兵たちに襲いかかった。
黒い影が彼らに巻き付き、苦痛の叫び声が響く。
「何だ…これは!?」
「精霊の力が効かない…!」

私は息を呑んだ。
精霊を宿した武器が効かない――それは、あり得ないことだった。
異型の精霊は、精霊そのものを喰らっているかのように、兵士たちを次々と襲っていく。

「逃げろ! 境界線を越えさせるな!」
ウアが叫び、司教たちが祈りを捧げ始めた。
だが、祈りの言葉は異型の精霊には届かない。
むしろ、それを嘲笑うかのように、黒い影はさらに膨れ上がっていく。

「秩序を守る義務がある…」
ウアの冷たい目が脳裏に浮かぶ。
私は拳を握りしめた。
街を守らなければならない。信仰を裏切るわけにはいかない。

だが、本当にこれが守るべき秩序なのか?
この黒い淀みは、一体何なのか?

私は震える手で水の精霊を宿した武器を構えた。
「…私が、守らなければ。」

だが、胸の奥の澱みは消えなかった。
まるで、この黒い影と同じように、不気味に広がっていく。

――私は、本当に正しいことをしているのだろうか?

海の境界線がさらに揺れ、異型の精霊が次々と現れてくる。
黒い影が水面を覆い尽くし、街に向かって押し寄せてきた。
私は足を踏み出し、異型の精霊に立ち向かった。

――秩序を守るために。
だが、それは本当に正しいことなのか?

澱みは、ますます深くなっていく。


第5話:流れを断つ祈りの代償(後編)


黒い影が水面を覆い、街へと押し寄せてくる。
異型の精霊は形を変え、触手のように伸びて建物を呑み込もうとしていた。
私は息を呑み、武器を構え直した。

「負けるな! 街を守るんだ!」
ヴァイの力強い声が響く。
彼の全身から青い光が放たれ、水の精霊が渦を巻いて異型の精霊を打ち払っていた。
「これは冒涜だ…精霊を歪めるなど、許されるはずがない!」

ヴァイの怒りは純粋だった。
彼は水の精霊への深い信仰を胸に、迷いなく戦っている。
その姿は凛々しく、私の胸に熱いものを灯した。

「ポリナは左を守ってください!」
ウアが鋭い声で指示を飛ばす。
彼もまた、異型の精霊に立ち向かっていた。
「これはただの異変じゃない…精霊を操っている存在がいるはずだ。」

ウアの目は警戒と猜疑心に満ちていた。
彼は精霊を歪めた者への憎悪を隠そうともせず、冷静に戦況を見極めている。

ヴァイとウア――二人の戦う姿は対照的だった。
一方は信仰に基づく正義感で、もう一方は疑念と警戒心で戦っている。
だが、共通しているのは街を守ろうという強い意志だ。

私は彼らの背中を見つめ、胸が熱くなった。
(私も…同じだ。秩序を守るために…戦う。)
そう自分に言い聞かせて、私は武器を構え直した。

だが、その時だった。
黒い影が急に形を変え、巨大な波となって襲いかかってきた。
「くっ…!」
私は身を翻して避けたが、背後にいた兵士たちが飲み込まれていく。

「ポリナ、一旦退避を!」
ウアが叫ぶが、私は動けなかった。
異型の精霊は、まるで意思を持っているかのように動いていた。
それは、本当に精霊の成れの果てなのか?

「…精霊、なの…?」
疑念が心を蝕む。
精霊は秩序の象徴であり、清らかな存在のはずだ。
だが、目の前の黒い影はあまりにも醜悪だった。

その時、風が巻き起こった。
異型の精霊が突風に巻かれ、形を崩していく。


風の中から現れたのは、クーだった。
彼は異型の精霊に立ち向かっていた。

「クー…!」
私は思わずその名を呼んだ。
彼は風を操り、異型の精霊を次々と切り裂いていく。
その力は圧倒的だった。

「神器を使え!」
クーの声が冷たく響いた。
「精霊は自然の一部だ。だが、一方こうして歪む。」

「何を言っているの…?」
私は困惑した。
「秩序を守ることこそが正しい。それが街の安寧を保つ…唯一の方法だわ。」

クーは私を鋭く見つめた。
「安寧を保つために、腐敗を見逃すのか?」
「腐敗…?」

「神器があってこそ、水は清らかでいられる。神器を使え!」
クーの言葉はまるで刃のように鋭く、私の心を切り裂いた。

「私は…秩序を守ることで、安寧を保てると思っている…。」
そう言いながらも、内心では揺れていた。
神器を完成させてはいけない。でも……
異型の精霊は?

だが、私は答えを出せなかった。
クーは私の迷いを見透かしたように、冷笑を浮かべた。
「ポリナ、お前は秩序に縛られている。だが、それでは何も救えない。」

クーは風のように動き、異型の精霊を一掃した。
だが、黒い影は完全には消えず、再び形を整え始めた。


クーは一時的に異型の精霊を封じることに成功した。
だが、完全に消滅させることはできなかった。

「まだ終わっていない…」
クーが険しい表情で呟いた。
その時、ヴァイが現れ、ポリナに鋭い視線を向けた。

「ポリナ、信仰を揺るがせるな。お前が迷えば、街は崩れる。」
ヴァイの言葉に、私は動けなくなった。
信仰が秩序を守る。きっと……

一方、ウアは眉をひそめ、黒い影を見つめていた。
「これは自然の異変じゃない。誰かが操っている。」
彼の猜疑心はさらに強まり、決意の瞳が燃えていた。
「必ず、操っている者を見つけ出す。」

クーは私を一瞥し、低く言った。
「次は共に戦え、ポリナ。お前が秩序に縛られている限り、救えるものも救えない。」

彼は風と共に去っていった。
残された私は、揺れる心を抱えて動けなかった。
(私は、本当に正しいことをしているのだろうか…?)

黒い影は完全には消えず、水面の奥底で不気味に蠢いていた。
その姿は、私の心の澱みと重なって見えた。


(第6話:『封印された水の円盤、不安定な導き』 へ続く)

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