
第3ステージ『水の円盤と精霊の法水』:第6話『封印された水の円盤、不安定な導き』(協力:ChatGPT、Gemini)
第6話「封印された水の円盤、不安定な導き」前編
水の都の中心部は、荒れ果てた広場の残骸が不気味な静けさを湛えていた。
異型の精霊が影のように彷徨う姿を遠目に見つめながら、私は深く息を吐いた。
右手には水の円盤。
不吉に揺れる表面の波紋を睨みつけた。
「水の円盤には頼らない。あんたを信じるつもりはないわ」
口の中で呟いてみても、心の奥底に広がる不安は消えなかった。
精霊の囁きが聞こえる。
水の円盤が災厄を招くという声。
完成させなければ災害は続くのか?
でも、完成させれば……再び悲劇が起こるかもしれない。
噂はすでに広まっていた。
水の精霊王がかつて水の円盤を完成させたが、その力は暴走し、都市を洪水に飲み込んだと。
だから水の円盤は封印され、精霊の法水は禁忌とされたのだ。
「ポリナ」
背後からかけられた低い声に振り返ると、司教ウアが立っていた。
彼の目は冷ややかで、その鋭さに思わず身が強張った。
「また、水の円盤を眺めておられるのですね」
「……関係ない」
「未完成の神器は災いを招く」
ウアの言葉には、嘲りが混じっていた。
あの男は信じている。
精霊は人が操らなければ暴走などしないと。
つまり、この暴走は私の責任だと言いたいのだ。
「水の円盤は……」
「それが災害を招いていると分かっていてもですか?」
「災害の原因は未完成の神器じゃないわ」
ウアは薄く笑った。
その微笑みは、私の言葉を愚かだと断じるものだった。
「ポリナ、信仰をお忘れですか?」
「信仰……?」
「信仰があれば、精霊は暴走などしない。そうお教えしたはずです」
私は拳を握りしめた。
確かに信仰は人の心を強くするかもしれない。
でも、私の信仰が不足していると信じているウアの言葉には、苛立ちを覚えた。
「私は、精霊を信じることと、水の円盤を信じることを混同していないわ」
ウアは再び笑みを浮かべ、頭を垂れた。
「ご立派なお考えです。しかし、民を守るために、早く決断を」
その言葉を最後に、ウアは背を向け、去っていった。
彼の足音が消えた瞬間、水の円盤が微かに揺れた。
青白い光が瞬き、水の円盤の針が狂ったように回転を始める。
精霊の囁きが耳をつんざいた。
――未完成の水の円盤は災いを招く。
――災厄は止まらない。
――完成させるには、精霊の法水が必要だ。
「黙れ……!」
耳を塞いでも、声は消えない。
広場の隅に、異型の精霊が現れた。
人の形をしているが、影のように輪郭がぼやけている。
精霊の目が私を捉えた。
水の円盤がまた震えた。
災厄が来る――!
私はその場を駆け出した。
広場を抜け、石畳の路地へと逃げ込む。
精霊の囁きは、ますます強くなる。
――完成させなければ、災いは終わらない。
――しかし、完成させれば……再び災害が……。
狭い路地を抜けると、そこには水脈の洞窟への入り口があった。
不気味な闇が洞窟の奥へと続いている。
しかし、逃げ場は他にない。
「ここに……入るしかないか」
恐怖が喉元に張り付き、足がすくむ。
だが、振り返れば異型の精霊が迫ってきている。
私は意を決して洞窟の中へと足を踏み入れた。
水の滴る音が響き、空気は湿り気を帯びている。
奥へ進むと、微かに光が見えた。
「誰……?」
光の先には、キカとクーが立っていた。
「……あんたたち、どうしてここに?」
キカは微笑み、手に持った袋を見せた。
袋からは見知らぬ力が漏れ出ているのを感じた。
「ポリナ、お前、迷ってるんだろ?」
クーの低い声に、私は一瞬息を飲んだ。
彼の手には完成した神器――風鬼の金棒が握られていた。
完成されたものの持つ圧倒的な力。
畏怖すべき者――。
胸の鼓動が速くなる。
逃げるべきか、それとも、問いかけるべきか。
その時、再び水の円盤が震え、水の円盤の針が狂ったように回転を始めた。
精霊の囁きが耳をつんざく。
――災厄は終わらない。
――完成させなければ、災害は……。
「どうしたの?」
キカの声が遠く聞こえた。
「……私は、何を信じればいいの……?」
洞窟の暗闇が、私を飲み込もうとしていた。
第6話「封印された水の円盤、不安定な導き」後編
洞窟の中は、異様な静寂に包まれていた。
私とキカ、クーの三人は、水脈が流れる細い道を慎重に進んでいた。
後ろを振り返ると、闇の奥に異型の精霊の影が揺れている。
追ってきているのか、ただ彷徨っているのか――判断がつかない。
水の円盤は相変わらず震え、水の円盤の針が狂ったように回転を続けていた。
信じられない。だが、見逃すわけにはいかない。
「ポリナ、水の円盤が騒いでるな」
クーが低く呟いた。
その手には、完成された神器――風鬼の金棒が握られている。
圧倒的な存在感。
私は思わず、数歩距離を取った。
「未完成の水の円盤なんて捨てちまえよ」
クーの目には蔑みが宿っていた。
「違う!災厄は水の円盤のせいじゃない」
自分でも驚くほど、強い口調が出た。
「完成させたら、もっと大きな災害が起こるかもしれない。それを恐れてるだけよ」
「ポリナさんはどうしたいの?」
キカの澄んだ瞳が私を見つめる。
彼女の手には、見知らぬ力を宿した袋が握られていた。
「……わからない。だから、信じられないのよ」
声が震えた。
「信じられない?」
クーが冷笑する。
「だったら、俺が完成させてやろうか?」
瞬間、洞窟全体が震えた。
天井から土砂が崩れ、鋭い音を立てて落ちてくる。
「伏せろ!」
私はキカの腕を掴み、壁際に身を寄せた。
クーは土砂を金棒で払いのけ、不敵な笑みを浮かべている。
「ほら、未完成の水の円盤なんて呪いみたいなもんだ」
彼は金棒を掲げた。
「完成した神器があれば、そんなものは必要ない」
「……あんた、分かってないのね」
「何がだ?」
「完成した神器でも、災厄は止められない。だって、これは精霊の暴走だから」
クーの目が細くなった。
「精霊が暴走するのは、使う奴が未熟だからだろ」
「違う! 精霊が暴走してるのは、もっと根本的な理由がある」
言いながら、自分でも気づいていなかった確信が浮かび上がってきた。
「……水の円盤が狂ってるのは、精霊が導くべき道を失っているからだ」
「導くべき道?」
キカが不安げに尋ねた。
「そう。精霊は、正しい方向に導かれなければならない。でも、今の精霊たちは、それを見失ってる」
「だから、暴走するってのか?」
クーの声には苛立ちが滲んでいた。
「水の円盤を完成させることで、精霊の道を示せるかもしれない。でも、間違った方法で完成させたら、もっと混乱を招く……」
「だったら、どうするんだよ!」
クーが金棒を振り上げた。
「俺は、これを使って暴走を止める。それが正しい道だって、信じてるんだ」
クーの瞳に宿るのは、確固たる意志。
畏怖すべき者――完成された神器の持ち主。
「……あんたは、信じてるのね」
「当たり前だ。未完成のままじゃ、何も変わらない」
「でも、私は信じられない」
「臆病者が」
クーの金棒が青白い光を放ち、洞窟全体が揺れた。
同時に、異型の精霊が襲いかかってきた。
「キカ、下がって!」
私はキカを庇いながら、水の円盤を掲げた。
水の円盤の針が狂ったまま回転を続ける。
異型の精霊はそれに反応し、暴走の度合いを増していく。
――未完成の神器のせいじゃない。
――精霊たちは、導く道を失っているだけ。
「道を……示さなきゃ」
震える手を押さえつけながら、私は水の円盤を正面に掲げた。
針が狂ったままの水の円盤。
でも、その回転の先に、一瞬だけ光が見えた。
「……あれは?」
「何か見えたの?」
キカの声が震えていた。
「……まだ、はっきりとは分からない。でも、何かが呼んでる」
光の方向に向かって、足を踏み出す。
クーが私を睨みつけた。
クーは金棒を構え、異型の精霊に立ち向かっていく。
その背中に、私はほんの少しだけ羨望を感じた。
信じるものを持っている者の強さ。
私には、まだそれがない。
洞窟の奥へと進む。
光は遠く、淡く輝いている。
未完成の水の円盤は狂い続けている。
でも、私は見逃さなかった。
一瞬だけ、針が光の方向を指したことを。
「……道は、きっとある」
この狂った水の円盤の奥に、精霊を導くべき道がある。
それを見つけなければ、災厄は終わらない。
私は、再び歩き出した。
信じられないままでも、足を止めるわけにはいかない。
未完成の水の円盤を見つめ、私は囁いた。
「……導いてみせるわ。たとえ、信じられなくても」
洞窟の奥で、光が微かに瞬いた。
(第7話:『水の円盤の導き、信仰の対価』 へ続く)
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