見出し画像

『風鬼の金棒と精霊の金塊』:第7話『追う者と追われる者』(協力:ChatGPT)

割引あり



第7話『追う者と追われる者』

 俺はキカの腕を掴み、勢いよく袋を奪い取った。

「クー! やめて!」

 キカの叫びが背後で響くが、俺は振り返らずに駆け出す。都市を救うには精霊の金塊が必要だ。それがないと、風鬼の金棒を完成させることができない。だが、キカはそれを理解しようとしない。

「待って、そんなことをしても都市は救えない!」

 俺は歯を食いしばりながら叫び返す。

「だったらどうする!? 他に方法があるのか!?」

 だが答えを待つ暇はない。今はただ、金塊を集めることだけを考える。風の大陸「ハリウ」の都市はすでに崩壊の危機に瀕していた。異型の精霊たちがゆっくりと街の中心へ向かい、その背後にはねじくれた水の精霊が不気味なうねりを見せている。奴らは都市を破壊することが目的ではない。だが、それが結果としてこの街を飲み込むことになるのは明白だった。

 風の精霊を宿した武器を手に、市民たちが異型の精霊と戦っている。しかし、それでは精霊の金塊は生まれない。俺は知っている。異型の精霊を倒しても、そこに金塊は生まれないのだ。唯一の方法は、風の精霊が直接、異型の精霊を食すこと。

 俺は精霊の袋を抱えながら、目の前の異型の精霊に向かって武器を振り下ろした。刃が水のように変容した身体を裂く。異型の精霊が悲鳴を上げてのたうつ。しかし、それだけだ。金塊は落ちてこない。

「……やっぱり、これじゃ駄目か」

 俺は舌打ちし、風の精霊に命じた。

「食え!」

 俺の呼びかけに応じ、風の精霊が一気に異型の精霊に食らいつく。その瞬間、空気が震え、淡い光を放つ小さな金塊が足元に転がった。

「これだ……!」

 俺は金塊を拾い、袋に詰める。だが、これではまだ足りない。もっと、多くの金塊が必要だ。

 次々と異型の精霊が近づいてくる。その異形の姿は見るたびに異様さを増していた。水の精霊が変質し、肉のように肥大化した身体に、複数の目が浮かび上がっている。その目が一斉に俺を見つめた。

「……!」

 気配を感じ、俺は即座に横へ跳んだ。次の瞬間、異型の精霊が鋭い水の刃を俺のいた場所へ叩きつける。地面が砕け、飛び散った破片が頬をかすめた。

「クー!」

 背後からキカの声が聞こえる。振り返ると、キカもまた異型の精霊に囲まれていた。血を流しながら、それでも必死に剣を振るっている。

「本当に、こんなことをして都市を救いたいのなら……!」

 俺は拳を握りしめた。

「だったら、俺のやり方を止めてみろ!」

 叫ぶと同時に、風の精霊を宿した武器を振るった。異型の精霊の首を跳ね飛ばす。だが、それだけでは何も生まれない。風の精霊が食らいつき、ようやく金塊が生まれる。

 そうして、俺はまた金塊を拾い、袋に詰め込んでいく。

 キカが俺の前に立ちはだかった。

「もう、やめて!」

 息を切らしながら、彼女は叫んだ。だが、俺ももう引き返せない。都市を救うには、もっと金塊が必要なのだ。

「都市を救うには、これしかないんだ!」

「違う!」

 キカは剣を構えた。

「それは、違う……!」

 彼女の目には涙が滲んでいた。俺の中に迷いが生じる。だが、それでも足を止めることはできない。

 俺とキカは激しくぶつかり合い、互いに倒れ込む。体力はすでに限界だった。

 空を見上げると、黒い雲のような異型の精霊が都市の中心部へ向かっていた。都市はまだ持ちこたえている。しかし、時間の問題だ。

 俺は、果たして正しいのか。

 キカは、果たして間違っているのか。

 この戦いの果てに、俺たちは何を選ぶのか。

 俺は倒れ込んだまま、荒い息を吐いた。身体は重く、剣を握る指先すら震えている。

 キカも同じだった。剣を握る手は震え、肩で息をしている。それでも、彼女は俺を睨みつけ、譲ろうとはしない。

「クー……もうやめて」

 掠れた声が耳に届く。俺は唇を噛みしめ、立ち上がろうとする。しかし、足が思うように動かない。

「やめる……? そんなこと……できるわけないだろ」

「違うの、クー……私たちがやっていること、どちらも間違っているのよ」

 俺はキカの言葉に眉をひそめた。

「……何を言っている?」

「私たちは都市を救おうとしている。でも、異型の精霊を倒し続けるだけでは、きっと……本当に救われるわけじゃない」

「じゃあ、どうしろって言うんだよ!?」

 怒鳴るように言い返す。だが、キカは怯まなかった。

「異型の精霊を食らわせることで金塊を生み出す。確かに、それで風鬼の金棒を完成させることはできる。でも、それじゃ都市はまた同じことを繰り返すだけよ!」

「繰り返す……?」

「そうよ。精霊を食らわせ、金塊を作り、武器を強くする。それを続けた先に何があるの?」

 俺は答えられなかった。

「異型の精霊が生まれる理由、それを解決しなければ、都市は本当の意味で救われないのよ!」

 キカの叫びが、胸に突き刺さる。

 異型の精霊はどこから来るのか。なぜ、都市を襲うのか。

 俺は、それを考えたことがなかった。ただ、都市を救うために手段を選ばず突き進んできた。

 その結果、俺はキカと刃を交え、都市を守るために戦っているはずの俺たち自身が、都市を壊しかけている。

「……遅いんだよ、キカ」

 俺はようやく立ち上がり、息を整えた。

「そんなこと言ったって、今は異型の精霊を倒すしかない。このままじゃ、本当に都市は……」

「だから、一緒に考えよう、クー!」

 キカが俺に手を伸ばした。

「異型の精霊の正体を、本当の敵を、私たちが知らなきゃいけない!」

 そのときだった。

 突如、都市の中心部から強烈な光が放たれた。黒い雲のような異型の精霊が、まるで叫び声を上げるかのように身を震わせ、光の渦へと吸い込まれていく。

「な、何だ……!?」

 俺とキカは、目の前の光景に目を見張った。

 光の中から、まるで何かが現れるかのような気配がする。

「まさか……異型の精霊を生み出している根源が……!」

 キカの声が震える。

 俺は剣を握り直し、足を踏み出した。

「なら……確かめるしかない」

 この戦いの本当の意味を知るために。

俺たちは倒れ込んだまま、互いの視線を外さなかった。息が荒い。胸が痛む。それでも、ここで折れるわけにはいかない。

遺跡の奥から、鈍い光が滲み出す。石壁に刻まれた模様が浮かび上がった。古の人間と精霊が、何かを築き上げる姿——まるで、忘れ去られた記憶が甦るように。

「……なんだ、これ……?」

壁画に指を伸ばした瞬間、遺跡が震えた。耳をつんざく崩落音。細かい石片が宙を舞う。奥の闇から、ぞわりと這い寄る不穏な気配がする。

異型の精霊が……都市を飲み込もうとしている。

膨れ上がった影が、波のように揺らめきながら押し寄せる。その形が、人の顔のように歪み、狂った笑みを浮かべた気がした。

「クー……行こう。一緒に。」

不意に、キカが俺の手を握った。その熱が、冷え切った身体にじわりと広がる。

迷いが、すべてを呑み込む前に。

「……ああ。決着をつける。」

俺たちは、神器の真の意味を求め、闇の奥へと歩を進めた。

(第8話『風鬼の金棒の完成』 へ続く)

ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 0〜
PayPay
PayPayで支払うと抽選でお得

いつもサポートありがとうございます♪ 苦情やメッセージなどありましたらご遠慮無く↓へ https://note.mu/otspace0715/message