
命の羽衣と精霊の絹糸:第10話「灯の試練」(協力:ChatGPT)再改修版
第10話「灯の試練」
扉が静かに開いた。
ひやりとした空気が、肌にまとわりつく。私たちが試練の間を抜けるたびに、遺跡は少しずつ表情を変えていた。
「……行こう」
レイが低く呟く。私たちは並んで暗闇へ足を踏み入れた。
最初に気づいたのは、闇の濃さだった。
目を凝らしても、ほとんど何も見えない。風の試練では、淡く光る浮遊石が足場を照らしていたが、ここにはそんなものはない。ただ、わずかに足元がぼんやりと照らされている程度。
「レイ、何か感じる?」
「……ううん。でも、ここ……妙に静かじゃない?」
確かに。音がない。
私たちの足音すら、どこか吸い込まれていくように響かない。風の試練では、風が囁き、石が軋む音があった。だが、ここはまるで音が存在しない空間みたいだ。
私は慎重に歩を進めた。
数歩先に、何かが揺らめいた。
炎──いや、違う。火ではなく、光が"瞬いた"のだ。
それはまるで、閉じたまぶたの裏で光を見たような、不確かな残像。
私は無意識にレイの袖を掴んだ。
「ねえ……今、見た?」
「うん。……けど、何だったの?」
わからない。
だが、この遺跡が試練の場である以上、"何か"が私たちを見ているのは間違いなかった。
しばらく進むと、空間が広がった。
ぼんやりとした光が、天井の見えない闇の中で点在している。壁際には奇妙な燭台が等間隔に並び、その上に乗った火がゆっくりと揺れていた。
だが、火は温かくなかった。
燃えているのに、まるで"冷たい"。
──冷たい炎。
私は嫌な予感を覚えた。
「キカ、あれ……」
レイが指さした先に、"誰か"がいた。
──影のようなものが、ゆっくりと立ち上がる。
その姿ははっきりとは見えない。光の合間にのみ浮かび上がり、闇が満ちると消える。
幻覚ではない。
"ここにいる"。
「……試される者よ」
声がした。
まるで光そのものが発するような、不定形で、しかし確かに意思を持った何かの声。
「灯を識れ」
その瞬間、空間が一変した。
炎が消えた。
いや、**"灯りが消えた"**といったほうが正しい。
私はとっさにレイの手を掴んだが、そこにいるはずの彼女が見えない。
漆黒。
完全な闇。
光が一滴もない世界に、私は閉じ込められていた。
「レイ──」
叫ぼうとしたが、声が出なかった。
いや、違う。音が届かない。
まるで、ここに"存在する"ことすら許されていないみたいに。
私は恐怖を振り払おうと、手探りで進もうとした──その時。
──"視えた"。
そこに、"何か"がいた。
いや、違う。
光の中にだけ、それは"いた"。
ぼんやりとした残像。形を持たぬまま、光の点滅に合わせて、存在が揺らめく。
私は気づいた。
「光がある時だけ"そこにいる"。光が消えると"いない"。」
──違う。
光が消えると"見えない"だけ。
──"ずっとそこにいる"のだ。
背筋が凍る。
私は"それ"の姿を見たわけではない。だが、確信した。
灯があるからこそ、それは存在する。
ならば、この試練は──
「……灯を識れ」
声が、耳元で囁いた。
突然、視界が戻った。
いや、光が戻った。
私は息を荒くしながら、辺りを見回す。
レイがいた。私の腕を掴み、真っ青な顔でこちらを見ている。
「……今、見た?」
彼女の声が震えていた。
私は、小さく頷く。
──"光のあるところに"いる者。
──"闇の中に"いる者。
どちらも、この試練の"何か"なのだろう。
そして、私たちはその間にいる。
「……あれ」
レイが指さした。
祭壇。
風の試練と同じように、最奥には古びた石の祠があった。
だが、今までと違い、それは"灯りに照らされていた"。
この試練は、光に近づくことを求めている?
「行くしかない」
私は決意し、祭壇へ向かう。
──その瞬間。
灯が"揺らいだ"。
そして、影が動いた。
「っ……!!」
レイが息を呑む。
──それは、"今までとは違う何か"だった。
確かに形を持ち、"見えている"。
影は、私たちのほうへ向かってくる。
私は息を詰めた。
この試練は、"灯を識れ"。
ならば、私はどうするべきなのか。
光へ向かう?
それとも、闇を受け入れる?
答えは、まだ分からない。
──だが。
私は一歩、踏み出した。
影が、揺らぐ。
レイが息を詰めるのがわかった。彼女の視線は、私の先にある"それ"を捉えていた。
──影が、こちらを見ている。
だが、私は怖れなかった。
灯を識れ。
そう言われたのだ。
ならば、私は──
私は、影へと向かって歩き出した。
影は、私の動きに呼応するように揺らめいた。
灯が揺れるたびに、その輪郭は崩れ、また形を成す。
私は気づいた。
これは、"見えている"のではなく、"見せられている"。
ならば、私に試されているのは何か。
答えは──
私は、意を決して祭壇の前に立った。
そこに、古びた石の祠がある。
私は、静かに手を伸ばした。
その瞬間、影が"消えた"。
──否、それは"灯の中に溶けた"のだ。
私は、祠に指を触れた。
光が弾ける。
私の手から、何かが流れ込んでくる感覚。
──これは、"灯の精霊"の力?
違う、もっと根源的なものだ。
マウの力が、強くなる。
私の中に、熱が走った。
燭台の炎が一斉に燃え上がる。
レイが驚いて後ずさる。
私は、胸の奥で理解する。
この遺跡が待っていたのは、灯の精霊の解放。
それが、私たちが"試練を越えた証"なのだと。
──次の扉を、開く時が来た。
「……行こう」
レイと私は、遺跡の奥へ向かった。
閉ざされた封印の扉は、もと来た道を戻り、2つの試練が交わる場所にある。
灯の試練と、風の試練。
その狭間に、扉は存在していた。
"封印の扉"。
──これが、遺跡の真実へと続く道。
私は、手のひらを扉へとかざした。
灯の精霊の力が、私を導く。
そして──
扉が、ゆっくりと開いた。
(第11話:「遺跡の真実」 へ続く)
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