
命の羽衣と精霊の絹糸:第4話:「生の精霊の試練」(協力:ChatGPT)再改修版
第4話:「生の精霊の試練」
静寂が、泉を覆っていた。
風が止まり、木々は息を潜めている。さっきまでの騒々しい追跡劇が、まるで別の世界の出来事のように思える。
私は足元の水面を見つめた。波紋ひとつない、凪いだ水。月の光を映しながら、まるで生き物の目のように、私たちをじっと見返している気がした。
「……ここ、本当に大丈夫なのか?」
ハクが荒い息を吐きながら言った。
「分からない。でも……追手の気配が消えた」
レイが慎重に周囲を見回す。
ノアはしゃがみ込み、手のひらを泉の縁に触れさせた。
「冷たいな。まるで生きてるみたいだ」
その言葉に、私は無意識に手元の布切れを握りしめた。汗で湿った掌に、ざらりとした織り目が触れる。
なぜ、私はこの布を手放せないのだろう。
母の形見……それとも、ただの執着?
答えの出ない疑問が、泉の奥底から湧き上がる靄のように、心の中で渦巻いていた。
静寂を破る声
「……その布切れを羽衣に」
不意に、誰かが囁いた。
声は泉の底から滲み出るように響いた。
水面が微かに揺れる。いや、それは水が揺れているのではなく、何かが “こちらを覗いている” のだと、本能が告げていた。
私は息を呑んで、布を強く握る。
「誰……?」
問いかけに応えるものはなかった。
代わりに、泉の奥から、ゆっくりと黒い影が立ち昇った。
水の中に広がる靄のようなものが、だんだんと形を成していく。
人のようでいて、人ではない。
その輪郭はゆらぎ、定まらない。
目を凝らせば凝らすほど、その姿は歪んでいく。
私は足を一歩引いた。
「……試練が始まる」
レイが、低く呟いた。
幻影の試練
空気が歪んだ。
目の前の泉が、まるで鏡のように反転し、景色が裏返る。
気づけば、私はどこか別の場所に立っていた。
——工房。
赤く燃え盛る炎の中、私はひとり、そこにいた。
熱気に肌を刺されながら、必死に駆ける。
誰も助けてくれない。
誰も、私の声を聞いていない。
「……あんたは、誰?」
その時、炎の向こうに 誰か が立っていた。
ぼやけたシルエット。
私と同じ背格好の少女。
その身に 私が持つ布切れとそっくりなもの を纏っている。
「違う……これは……?」
少女は顔を上げた。
しかし、その顔は影に覆われ、見えなかった。
私は、震えながら手を伸ばす。
——知りたい。
——この布が何なのか。
だが、少女の姿が、炎に溶けるように掻き消えた。
代わりに、泉の声が囁く。
「……その布切れを羽衣に」
「どういう意味……?」
「お前が、それをそう望むなら」
水面に、私自身の姿が映る。
ただの少女。
ただの逃亡者。
ただの、何者でもない存在。
私は、手のひらの布を見つめた。
何も特別ではない。
ただの布。
でも——
私は、それを決して手放そうとはしなかった。
試練の終焉
ふいに、世界が弾けた。
気がつけば、私は泉のほとりに立っていた。
レイ、ハク、ノアが、驚いた顔で私を見ている。
「……戻った?」
息を整えながら、私は頷く。
泉は静かに輝き、その水面に、小さな波紋が広がった。
水の中に影はない。
試練は、終わったのだ。
私は、手のひらの布を握りしめる。
これは、ただの布。
でも、私はこれを——
「行こう」
静寂を切るように、ノアが言った。
私はもう一度だけ泉を振り返り、そして頷いた。
背後の森がざわめく。
何かが動き始めようとしている。
次の試練は、すぐそこにある。
(第5話:「暴走する精霊」へ続く)
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