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命の羽衣と精霊の絹糸:第5話:「暴走する精霊」(協力:ChatGPT)再改修版

割引あり



第5話:「暴走する精霊」

風が狂っていた。

 私は、嵐の中心に立っていた。

 街の至るところで悲鳴が上がっているのが聞こえる。屋根が軋み、木片が宙を舞い、露店の布が剥がされ、どこかで金属の軋む音がした。もはや、世界そのものが軋んでいるかのようだった。

 さっきまでの混乱は何だったのか。モンスターの襲撃。家々を焼いた炎。人々の絶望。それらは、今やすべて消し飛ばされ、ただこの暴風だけが残った。

 「なんなんだよ、これは……!」

 ハクの声が、風に引き裂かれるように掻き消えた。

 私は口を開いたが、自分の声が出ているのか分からなかった。ひとまず、みんながどこにいるか確認する必要がある。私は風に抗いながら、足を踏み出した。


市場:吹き荒れる嵐の中心

 突風が吹き荒れる市場では、露店のテントが剥がされ、果物や陶器が宙に舞っていた。人々が避難していく中、一人だけ、混乱に逆らうように市場の奥へ走る影があった。

 ノアだ。

 「ノア!」

 彼は振り向かず、荷車にしがみつきながら何かを探していた。物資を確保しようとしているのか?だが、この状況で動き回るのは危険すぎる。

 私は足を踏み出そうとしたが、突風に押し戻された。その瞬間、視界の隅で何かが舞い上がった。

 白い、何か——

 いや、これは……布?

 私の手の中にある、あの布切れとよく似た織り目をしていた。

 だが、それは一瞬で風に飲まれ、夜空へと消えていった。

 「くそっ!」

 風の勢いが増していく。まるで、何かが私をこの場に留めようとしているかのようだった。


鍛冶屋:風にさらわれた炎

 鍛冶屋にたどり着いたとき、私は思わず息を呑んだ。

 屋根が吹き飛ばされ、残骸が辺りに散乱していた。金床が転がり、火の粉が舞っている。だが、驚くべきことに——

 火はすべて消えていた。

 あれほど燃え盛っていたはずの炎が、まるで最初から存在しなかったかのように、跡形もなくなっていた。

 ハクは瓦礫の中に埋もれた鉄槌を引き抜こうとしていた。

 「無事か?」私は叫んだ。

 「無事ってわけじゃねぇが、くたばっちゃいない!」

 そう言った直後、彼は突然何かに気づいたように顔を上げた。

 「……風が、妙だ」

 妙?

 確かに、この暴風はただの嵐ではない。普通の風なら、こうも選別するようなことはしない。

 炎だけを消し去り、モンスターだけを跡形もなく消し去り、ただ人間たちと街の構造物を残している。

 まるで——

 何かを探しているようだ。


祠:暴風の源

 「パオが……暴走している……」

 祠の前で、レイが呆然と呟いた。

 私は彼女の隣に立ち、目を凝らした。

 祠の周囲は、まるで見えない力場に守られているかのように、風が渦を巻いていた。その中心にあるのは——

 影。

 空気の歪みの中に、何かが蠢いていた。

 見ようとすればするほど、輪郭が掠れ、焦点が合わない。だが確かに、それはそこに「いる」。

 「……パオ?」

 私は思わず、その名前を口にした。

 その瞬間、風が悲鳴のように鳴り響いた。

 視えた。

 風の形をした、巨大な何か。

 人の形ではない。獣のようでもない。ただ、嵐の中心に意思がある。

 その存在が、すべてを拒絶するように、風をさらに激しく巻き上げた。

 「……どうすればいい?」

 私は布切れを握りしめた。

 だが、こいつをどうすればいいのか、まったく分からない。

 「キカ!」

 レイが叫んだ。

 「あなたの手の中の布……それは!」

 風の中で彼女の声がかき消された。

 私は布を見下ろす。ただの、布切れ。

 でも、それを見ていると、泉の中の幻影が脳裏に蘇る。

 ——「その布切れを羽衣に」

 だけど、そんなことどうすれば?

 私は唇を噛んだ。

 考えろ。私にできること。今、この場で——

 「風を導く

 その言葉が、頭の中に浮かんだ。

 どういう意味かは分からない。ただ、私は本能的に布を掲げた

 次の瞬間、風が布に吸い寄せられるように、ざわめいた。

 「……効いてる?」

 信じられない気持ちで布を見つめる。

 すると——

 風が、私に語りかけてきた。

 「……お前は……誰だ?」


終焉と、新たな始まり

 風が次第に穏やかになっていった。

 市場の混乱が静まり、鍛冶屋の跡には静寂が戻る。

 レイが、巫女の力で祠の周囲を浄めると、影のようだったものは霧散し、やがて風そのものに溶け込んでいった。

 パオは、そこにいたのかもしれない

 だが、私たちの前に現れることはなかった。

 すべてが終わった後、私は空を仰ぐ。

 まだ、何かが残っている気がする。

 ——これで、本当に終わりなのか?

 「……レイ」

 私は彼女を見た。

 「暴走の原因、分かった?」

 彼女は、ゆっくりと首を振った。そして、不安げに囁く。

 「……これは、ただの始まりよ」

 風が、微かにざわめいた。

(第6話:「封印された遺跡」へ続く)

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