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ハードボイルド・キャンディ・タウン -2

何度、あたしが足を運ばせれば、気が済むっていうんだい?都市に入るための入口が、しっかりくっついてるんだろ?しかも、小さな扉程度の都市門だっていうのに、突破するだけでこのざまだ。

あたしが使える研究費のほとんどは、もうデータ解析と移動費で消えかかっている。まだ扉すら開かない。このままじゃ、共同研究者のトムの手元に残った研究費を充てるしかなさそうだ。まだ遺伝子解析も未着手だから、たんまり残ってるだろう。

どうして当局はこの未確認浮遊都市の解明に本気で取り組まないのか、やっとわかったよ。

秘密裏に誰がやっても、門が開かなかったんだ。これまでずっと。

*

現われては消えるその都市は、「さまよえる都市」と俗に呼ばれた。姿をみせる時間は限られていた。しかも運が良ければ見ることができるレベルだった。

そのサイクルに何らかのアルゴリズムが隠されていると誰が計算しても、その規則性は見出されなかった。まるで素数の不規則性みたいだ。十進法とはまったく異なる数を応用させなければ、この問題解決は無理だとあたしは思う。

考え方がまったく異なる、エイリアンなんだ。

幸いあたしあたしたちは、暗号による都市門までの到達方法まで解明していた。都市が現われなくても、都市門まではアクセス可能だ。

*

共同研究者の意気地なさときたら、ほんとムカつく。相手は火星人だから何が起こるかわからない、と言っていつも及び腰だった。

しまいには、もう歩けないと言って、へたへたと門の前で座り込んでしまった。これだから生き物しか扱ったことのない生物学者は困る。

結局、あたしが計器やら火薬やらを運ぶために、往復する羽目になった。

そのうち、あたしたちは気づいた。準備周到にしようと門に火薬を仕掛けると、門がそれを察して頑強な装備をしはじめるのだ。門はあたしたちの行動をしっかりと観察していて、危険を察知して防御態勢を張る仕組みになっているらしい。

この都市は決して死んでなんかいない。

*

だから、あたしは研究所長に相談したんだ。「火星の軍隊から武器を調達して欲しいのです」。

もちろん即答で断られた。

あたしは取り憑かれたように、知り合いの歴史学者や科学者をあたった。すると、自称インディを名乗る男が、こっそりバズーカ砲を隠し持っているという情報を得た。彼はもう老いぼれていて、もう今後使うことは無いだろうという。

自称インディには別に本名がちゃんとあったが、なぜかインディという名前にこだわった。インディと呼ばないと、不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。

「この狭い星に、わしはたくさんのものを求めてさまよい歩いた」と自称インディはあたしを部屋に招き入れるやいなや、話し始めた。「岩窟にあった妙な骸骨は、手に取った途端に砂になった。古い海岸線跡にあった奇妙な難破船化石には、ギラギラ輝く石が詰まっておったが、袋に入れた途端に言葉を発して消えた。たぶん宝石などではなく、録音テープだったのかもしれんのう」などと延々と自慢話を聞かされるので、ついには「じゃ、これ借りていくね。あたしも困ってるんだ」とバズーカ砲を担いだ。「元気を出しな、今度飲もうよ」と彼は言った。それ、あんたの台詞かい?

*

いや、さすがにバズーカ砲を運ぶのは骨が折れたね。タクシーの運ちゃんも「そのごつごつした大きな荷物の中身はなんですかい?」と気になっていた。よっぽど誤魔化そうと思ったけれど、きっと開けろと言われそうだから「バズーカ砲だよ」と中身を見せてやった。

「こいつは驚いた!なんに使うのか聞かないことにするが、すごくいかしてるよ。最高だね」と運ちゃんは気に入ってくれた。砂漠に入るとスピードだって飛ばしてくれた。コンプライアンスなんて彼らには時代遅れなんだろうな。

走っていると、あり得ない場所すなわち砂漠のど真ん中の道で、一台のタクシーとすれ違った。「こんなところまで・・・」と運ちゃんは気にしていた。目的地に着くと、大声で「達者でな」と運ちゃんが去っていった。

さあ、ここからだ。門に感づかれずにあたしはこいつをお見舞いしなくちゃいけない。あたしは急いで、ケースからバズーカ砲を取り出した。

暗号を描いて都市門が現われると、相棒と一緒にもうひとり野郎がいることに気づいた。誰だ?と考えていたら門が防御の体制に入ってしまうから、あたしは取り敢えずぶっ放すことにした。

とにかく「おまえらそこをどきな!」

バズーカ砲、最高だぜ。

(To be continued.)

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