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どうしても溶け切らないものが、この世の中にあったとしても、それでいいとわたしは思っている…
火星に秋がやって来ようとしている。どうしてだろう、三月だというのに。 ラジオのボリューム…
コインランドリーで見つけた忘れ物、その古びた火星の詩集に、僕は見覚えがあった。 僕が少年…
ひとりのこどもが生まれた。まだ静かで、コロニーの建造も途上だった惑星で、最初の産科病院も…
最近、調子がおかしい。いつも変な夢を見る。 たくさんのドナルドダックが俺のまわりでダンス…
A地点から飛び立った飛行体を高性能レーダーがとらえた。円くて大きくて、柔らかい何かだった…
ルドルフは頑固な性格ではなかった。何事にも無頓着なわけでもなかった。ところが、散発する内戦が激しさを増していっても、けっして彼は国を離れたがらなかった。所有する農場を手放そうともしなかった。ルドルフはニュースの時間になると必ずラジオのスイッチを切った。 近所の仲間が一緒に逃げようと誘いをかけても、彼は明日の用事を理由にずるずる立ち退きを先延ばしにした。この騒乱のさなかに、明日の個人的な予定なんてあるはずがなかった。 未知の爆弾が飛び交うかもしれない、とだれもが口をそろえて
マルティヌスは地下室の鍵をズボンのポケットに仕舞い込むと、地上の空気を胸いっぱい吸い込ん…
「あいつらは、あと一時間で来ますよ」という声がする。僕よりずっと奥の暗闇に隠れている、知…
しなかったことは、するようになると継続性をもつもの。したことのない業務も、新しい勉強も、…
今晩は。 どんなに挫折しても、夢中になれることは次のステップになる。 歳を重ねるほどに、ひ…
何も考えないのがいいんですよね。考えれば考えるほど、知らなかった世界は知らない方向に押し…
第一の証言 やわらかい物腰の言い回しの男の声が、私に尋ねてくるのでございます。 「この辺…
眠りから覚めたビットは、いつものようにお湯を沸かして熱い珈琲を淹れる。窓辺の腰掛から眺める景色は、見慣れた起伏だらけの未開拓地にすぎない。それでも、彼は好き好んで、まるで絵画を鑑賞しているみたいに、凸凹を数えたり、その窪みの形状を楽しんだりした。ビットにとって、この朝のひとときは、誰にも邪魔されたくない、たったひとりきりの至福の瞬間だった。 だからというわけでもないのだが、彼には妻も子もいなかった。結果論からいえば、もし妻子がいたとしたら、呆れられて三行半を突きつけられてい