《東北編》瀬織津姫の正体
力不足…
あれだけのことをしても
誰も気づいてくれなかった。
翌朝、瀬織津姫との対話(というより
かなり閉ざしていたため、わたしが話すことの
方が多かったが)が始まった。
真っ先に、伝わってきたのは
力不足を嘆く感情だった。
あなたに力がないわけがない。
あなたのおかげで、あなたが率先して
引き受けてくれたおかげで
救われた命がたくさんある。
それに、誰も気づいてないなんて思わないで。
わたしだって、あの出来事を境に目覚め始めたし
あれから11年の中で、気づき
行動している人たちも実際にいる。
だから、誰も気づかなかったことなんて
決してないのだ、ということを伝えた。
守ろうと、たった一人で立ち上がり、
尽力してくれたことに感謝します。
本当に大変なことだったと思います。
わたしは伝え続けたー
でも、もうあなたは一人じゃないし
自分の命を自ら投げ打つようなことは
もう、しなくていいのです。
あなたを助けたいと願う存在はたくさんいる。
龍、鹿、人、海に住うものたち、風。
たくさんの存在があなたと共に
在りたいと願っている。
だから一人ぼっちだなんて思わないで。
あの時は一人だったかもしれないけど
わたしも含めて、共に立ち上がる存在たちが
あなたにはいることを忘れないでほしい。
率先して、飛び込む姿は本当に強く美しかった。
でも、もう戦士のような鎧を脱ぐ時。
本来のあなたはもっと軽やかで、
もっと柔らかい。
「わたしがやらなければ誰がやる?」
私たち、一人ひとりがやる!
あの時とはもう違う。
だから、私たち一人ひとりの力を信じてほしい。
「わたしがこの11年間、必死に
抱えて来たものはなんだったのか…」
気づいてほしい
目覚めてほしい
伝えなきゃ
そう思って当たり前だし、
必死になるのもすごくわかる。
だって、あなたは人が好きだから。
だからこそ、気づいてもらえないことが悲しかった。
それが、自分に力がないからだって思った。
でも、そこまであなたが抱える必要はないんです。
気づく人は気づくし、
気がつかない人は気がつかない。
そう決めて生まれてきているから、
結果までのすべてを
あなたが背負う必要はどこにもない。
そう、伝え続けた。
あなたはなぜ、金華山を
東北という地を選んだのですか?
そう問うと、こんなイメージが伝わってきた
美しい海、そこに住う人々の笑顔、鹿たち
美しい風景、なびく風、東北に住う芯の強い人々
それを見るのが好きで好きで仕方ないのだ
と
それが、あなたの本来の目的では?
一人で立ち上がり使命に命を投げ打つことが
あなたがここに来た本当の理由ではないはず。
どうか、思い出してー
ここに来た時のあなたを
あなたはただ、存在するだけで
ただそれだけで充分だということを
使命を果たせたからとか
できなかったからとか
正直どうでもよくて、なんでもいい
だって、あなたが何をしていても
何を選択しても
愛おしくて仕方のない存在なのだから
あなたも人間に対して、
そういう視点を持っているのではないですか?
それと同じように、あなたも宇宙から
そういう視点で見られていることを
思い出してほしいー
「・・・!」
「わたしも守られていたのか・・・?」
そう、あなたはその存在たちに
愛されているし守られている。
だから、あなたは救えなかったと思っていても
決してあなたのせいだとは誰も思っていない。
でも、そう思って「わたしには力がない」
って閉じ籠るあなたですら愛おしい。
だから、なんでもいい。
だから、思い出してー
あなたがここに来た目的を、何をしても護られている
この安心感の中で、ただ存在すればいいんだと
いうことを。
あなたが人間を守ってきたように
あなたもまた、守られる存在であるとー
本当の姿を見せてください…
すると、硬い殻にヒビが入って
全身を覆っていた鱗がパラパラと
剥がれ始めた。
その中から、柔軟なエネルギーの
美しい女神が羽衣を身に纏い
姿を現した。
その姿は天高く舞い、
東北を包み込んだ。
そして、東北を覆っていた
鱗に息をふーーーーっと吹きかけ
パラパラと剥がしていき
桃色の柔らかく、やさしいヴェールで
日本全体を覆った。
鎧で身を固め、戦士のようだった瀬織津姫が
本来の姿に戻った瞬間であった。
わたしの名は天津織姫ー
瀬織津姫、またの名を
向津姫という。
向つとは天離=天から遠く離れた向こうの意であり
自ら進んで天界を離れ、
人に寄り添うと決めた女神はいつしか、
自分が元いた場所=天界とのつながりを
忘れてしまった。
天との分離は、孤独感を生む。
その中で、たった一人、人間を守るため
必死に戦ってきた女戦士は
天とのつながりを思い出し
天津織姫となった。
終わり、かと思ったが
さらに瀬織津姫の想いに潜ることとなるー
つづく