REBORN
緑の海で、溺れている夢を見た。
葉っぱが身体を優しく包み、サワサワと風の通る音が聞こえる。
視界一杯に広がる緑に囲まれながら、
ドクン、ドクンと、自分の鼓動が小さく小さく鳴っている。
一瞬、魚のようなものが、目の前を過ぎていった。
「まさか」と思いながらも目で姿を追うと、
それは正真正銘の魚で、
気持ちよさそうに緑の中を泳いでいる。
僕は魚の真似をして、緑の中を泳いでみる。
緑を掻き分けながら、少しずつ、少しずつ進んでいく。
魚が何匹か、僕を追い越していった。
「この泳ぎの下手な奴は何者だ?」と言わんばかりに、横目で僕をチラリと見て、スイスイ、スイスイ、進んでいく。
そんな魚達の姿を見て、ふと思う。
このまま進んでいった先、一体どこに辿り着くのだろうか?
緑の海に、終わりはあるのだろうか?
ゴゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴ、
ゴゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴ、
不気味な音がどこからともなく聞こえてくる。
何かに急き立てられるかのように、僕の鼓動が速くなる。
「これは文明の音だ」と、僕は無意識に認識する。
緑は、その皮膚に、まるで鳥肌がたったかのように、
ザワザワ、ザワザワ、と落ち着かない。
緑が泣いていた。声を上げて泣いていた。
僕は居たたまれなくなって、
「もうやめろ!」と大声を上げるが、
不気味な音に、問答無用で掻き消される。
ゴゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴ、
ゴゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴ、
不気味な音が、緑全体を飲み込もうとしている。
恐怖や悲しみの色が、緑色に混ざっていく。
どんどんどんどん、広がっていく。
と、そこで、僕は思い出す。
誰かの声を、誰かの顔を。
人間が、単なる破壊者ではないことを。
なぜ、こんな大切なことを忘れていたのか。
ポケットに手を突っ込んで、それを取り出す。
幼い頃、父からもらった、小さな小さな、光る種を。
「これは創造の種だ」と、父は微笑んでいた。
「人間は、単なる破壊者ではない。創造者でもあるのだ」
父の言葉が、僕の体中の細胞を揺さぶっていた。
ゴゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴ、
ゴゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴ、
不気味な音は、さらにさらに大きくなっていく。
僕は、父からもらった、その種を、
右手に持って、高く高く掲げた。
種は、まるでこの世界を覆い尽くすかのように、
強く強く輝き始める。
と、同時に、誰かの囁き声が聞こえてきた。
「さあ、創造の時間の始まりだ」
「さ、そろそろ起きる時間よ」
妻の声で目が覚めた。
見慣れた天井に部屋、そして妻の顔。
窓から飛び込んでくる朝の光がまぶしい。
僕はグッショリ寝汗をかいていた。
夢から醒めて安心したのか、それとも不安になったのか、
なにやら複雑な感情が、身体の中にある。
まるで、夢の続きのように、握りしめた右手を、ゆっくり開くと、
ただただ何の変哲もない、汗で湿った僕の掌が、
窓から入ってくる朝日を受けて、キラキラと輝いて見えた。
と、その時、
空耳か、それとも空想か、妄想か、
どこからともなく、誰かの囁き声が、聞こえてきた。
「さあ、創造の時間の始まりだ」
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読んでくださり、ありがとうございます。
今回は、 fug さんの写真から得たインスピレーションを元に、
短い物語(のようなもの)を描かせていただきました。
今日も、すべてに、ありがとう✨
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