予想される民主党のボロ負けの本当の意味
明日の米中間選挙で、共和党が上下院を制し、各州知事選や州議会選でも全体的な勝利を収めることが、民主党シンパの主流メディアでも予想されています。結果は、「完敗」「惨敗」「ボロ負け」に近いものとなるでしょう。
その原因については、バイデン大統領の不人気や、高インフレによる国民の生活苦に効果的な策を打てなかった失敗がまず挙げられることとなるでしょう。もちろん、これらは重大な要因です。政権党に対する国民の審判です。
ですが、たとえトランプ前大統領が続投していたとしても、1期目からの積極的な財政出動を継続してインフレを高進させ、同じような批判票を喰らったことでしょう。加えて、中間選挙は与党に厳しい結果になるものです。そのため、経済失政は民主党大敗の決定的な理由であるものの、本質的なものではないと感じます。
では、今回の中間選挙の結果は、特に歴史的意義のない、循環的なものに過ぎないのでしょうか。筆者は、違うと考えます。予測される民主党の総崩れが、過去20年ほどにわたりリベラル派が推進してきたナラティブ(政治的な物語)の象徴的敗北になると見るからです。
それは、郊外在住の白人女性、黒人やヒスパニック系など、伝統的に民主党の強固な支持基盤が、今回の選挙戦で民主党から大きく離反している事実から読み取れます。民主党は、ナラティブをコントロールする力を失ったのです。
民主党系のシンクタンク、サードウェイが11月7日に発表した世論調査の結果によれば、55%が「民主党は説教くさい」と答え、同じく55%が「民主党は極端すぎる」と回答しています。また、共和党についても55%が極端すぎるとしました。いずれにせよ、民主党のナラティブは嫌われており、選挙予測を見ると、有権者が「両党とも極端だが、共和党の方がマシ」と考えていることが読み取れます。
After conducting their own nationwide polling, the center-left think tank Third Way has concluded that “While it might be comforting to blame any midterm losses solely on historical trends, this [survey] data makes crystal clear that there is a much deeper problem at play.”
ご存じのように、新聞・テレビ・ラジオなど米主流メディアやソーシャルメディアなど米主流プラットフォームにおける政治言説は、圧倒的に大卒エリートのリベラル派が支配しています。見るもの聞くもの、すべて民主党の「物語」であふれています。にもかかわらず、民主党は選挙で民心を掌握も制御もできなかったのです。この事実は重大です。
過去20年ほど、行政や経済・金融、社会政策のあらゆる面において、グローバル化や「多様性」、さらに「社会正義」が追求され、同意や服従をしない者は社会的な排除を受けてきました。そのため、「リベラルにあらずんば人にあらず」のような雰囲気が支配しました。
ですが、政敵共和党のナラティブにあるように、それは犯罪増加や移民問題の悪化をもたらしたと、多くの人が考えるようになったのです。その潮流の変化が最初に現れたのが2016年のトランプ前大統領の当選です。
また、コロナ禍の最中には、各州の民主党の為政者たちが中国の習近平主席が行うような極端なロックダウン政策を米国に持ち込み、従わない者を厳罰や排除に処したことを、有権者はよく覚えています。
2020年にはコロナ禍のパニックの中で民主党が政権に返り咲いたものの、大きな変化の潮流は水面下でさらに大きくなっていました。それが、確定の形で不可逆的に定着するのが2022年の中間選挙だと、筆者は見ています。つまり、米政治史上のより大きな地殻変動の一環であるということです。
地殻変動の核心は、本来は南部奴隷主の党であった民主党が1930年代にアイデンティティを真逆に転換して「労働者の党」となっていたものが、再び大卒エリート、大企業の味方の党へと変貌する一方、奴隷解放を行った共和党が「資本家の党」へと変化を遂げていたものが、民主党からの難民となった労働者層や黒人、ヒスパニックの受け皿になっているという「再入れ替わり現象」にあります。
ある大陸の一部が地殻変動で切り離されて移動し、別の大陸にくっつくような歴史的な過程を我々は目撃しているわけです。
筆者が繰り返し述べていますように、共和党は今も大企業寄り、富裕層寄りの党です。ですが、あまりにも民主党の労働者に対するネグレクトがひどく、また本来は保守的である黒人やヒスパニックの価値観を逆撫でしたため、民主党が愛想を尽かされたのです。この先、民主党はさらに大卒エリートの党、大企業の味方の党としての本質を明瞭に体現するようになりましょう。
今回の中間選挙において予想される民主党の大敗は、単なる循環的なものではなく、党のナラティブの敗北そのものであり、階級的な地盤変動を象徴するものとなるでしょう。
労働者と大卒エリートの階級的対立としての米中間選挙の分析を書いています。ご一読ください。
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