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30年前、はじめてバイトしたときの話。

はじめてバイトしたのは、
高校1年の夏だった。

自転車で10分ほどのところにあった文房具店に
定規を買いに行ったとき、
ふと「バイト募集」のチラシが目に入った。

お店に入り、定規を選んでレジに持っていき
お会計をしたあと、気づいたら
「バイト募集しているんですか?」と聞いていた。

その後はあまり覚えていない。
田舎の個人商店。
時給は650円だった。

バイトの目的はお金じゃなくて
「働いてみたい」というただの好奇心。

中1の冬に飼ってもらった柴犬の女の子に
子宮の病気の疑いがあり、
避妊手術を受けたあとだった

もしまた次に何かあったとき、
少しでも足しになるように。

とバイト代は、
愛犬のためにほとんど貯金することにした。


お店にはご主人と奥さん、子どもが3人。
社員さん、パートさん、バイトさんが数人ずつ。

社員さんは会社のご用聞きに。
パートさんとバイトで掃除、店番、発注、
飼い犬の散歩を交代でこなした。

お店と倉庫の間で
ポメラニアンが一匹飼われていたけれど
よくご主人に蹴られていた

人間不信だったその子に
新入りは皆次々と噛まれた

私も何回か噛まれて
すっかり犬恐怖症になってしまった
実は今でもよその犬は少しこわい

ただせっかくはじめたバイトを
そんなことでやめるわけにもいかず、
どうしたら噛まれずにそこを通過できるか。
毎回工夫を重ねた
できるだけ背中を見せないようにしながら
倉庫から荷物を運んで
犬が私を覚えてくれるのを待った

土日はパートさんがいないので
バイト数名で店を開ける

一人がお店の隣の公園で犬の散歩をして
エサをあげる
残りの二人で開店準備をした

お店のわんこも私も
だんだんといろんなことに慣れていった

バイトさんは私を含めて3人。
残り二人は大学生だった。
一人は医大生。
いつも店番の最中に分厚くて
難しそうな本を読んでいた
もう一人は、社員さんの知り合いのお嬢さんで
普通の女子大生だった。

翌年、一つ年下の高校生が入った。
目がくりっと大きくて童顔の伊藤さんは
私立高校に通っていた。
とてもかわいいチェックのスカートの制服を着ていて、「高校は制服で選んだ。」と言っていた。

そのあとにも同級生のバイトが二人入った。
一人は大嶋さん。素朴で明るい子で、
もう一人は近所の寿司屋の娘さんだった。

年末には忘年会と言って
そのお寿司屋さんでみんなでお寿司を食べた。

飛び込みで駆け込んだ文房具屋さんのバイトは
結局、引っ越すまで3年間続けた

咬み犬だったポメラニアンは
パートとバイトに可愛がられ
何回か野良犬の子どもを産み、育て、
どんどん穏やかになっていった

残念ながら、
もうそのお店はなくなってしまったけれど
休憩中にパートさんが淹れてくれて
コーヒーの味を覚えたり
お店の紙袋を手づくりしたり
万引きしそうな子を見張ったり
エプロン姿のまま、
近くのコンビニに買い物に行ったり
お給料以上の体験や経験、
人との出会いを与えてくれたバイト生活だった。

今もそのお店で買った文房具を使っていて
時々、思い出す

あのとき、バイトに応募した
自分を褒めてあげたい

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