2月1日、17世紀後半、ロンドンの宮廷を騒がせた、寵姫にしてスパイ、ルイーズ・ケルアイユが聴いた音楽...
ルシル・テシエ率いるフランスのバロック・アンサンブル、アンサンブル・レヴィアタンの歌と演奏で、イギリス国王、チャールズ2世の愛人にしてフランス王家のスパイ、ルイーズ・ケルアイユをフィーチャーするアルバム、"Music for Lady Louise"。
harmonia mundi/HMN916119
フランス、ブルターニュ地方の貧乏貴族に生まれたルイーズ・ケルアイユ(1649-1734)。ルイーズの父は、娘をヴェルサイユに送り込み、太陽王の寵姫にしようとこころみるも、太陽王は、王弟妃、イギリス王女、ヘンリエッタ・アンの侍女とする。で、ヘンリエッタ・アンの里帰り(1670)の際、ルイーズを付き添わせ、ヘンリエッタ・アンの兄、イギリス国王、チャールズ2世(在位 : 1660-85)の寵姫にしようと画策。帰国後、ヘンリエッタ・アンが急死すると、1671年、ルイーズは、イギリス王妃の女官という形で送り込まれ、チャールズ2世の寵姫となる。太陽王的には、イギリスをカトリック圏に引き留めることが狙いだったが、当のルイーズは、王の寵愛をいいことに、王妃を差し置いてのやりたい放題!カトリック勢のイメージはがた落ち... 議会はルイーズの国外追放を要求するまでに...
そんなお騒がせルイーズが聴いた、17世紀後半、ロンドンの宮廷における音楽を掘り起こす、"Music for Lady Louise"。ヴェルサイユの巨匠、リュリ(1632-87)のトラジェディ・リリク、『アルチェステ』、『アティス』、『ロラン』からのナンバーに、ブロウ(1649-1708)、ロック(ca.1621-77)、パーセル(1659-1695)ら、17世紀後半、イギリス音楽を牽引した作曲家たちによる、イギリス・オペラ黎明期の多彩なナンバーを取り上げ、さらに当時の流行歌、「フランスから最近来たにやけた男が歌う新しい歌」(ちょっと皮肉めいてる!)なども挿み、"田舎の音楽"、"ソフトな音楽"、"狂気の歌"、"嘆きの歌"の4つのパートを構成、フランス趣味を漂わせつつ、表情豊かに、ルイーズがいた当時のロンドンの宮廷の雰囲気を再現。
それは、ピューリタン革命(1649)により瓦解したイギリス音楽(キリスト教原理主義の共和政府による音楽忌避政策... )が、王政復古(1660)により息を吹き返し、突然、大陸から、バロックが流入する頃の音楽... 音楽の最先端を突っ走るイタリア、独自路線で大輪の花を咲かせたフランスに比べ、圧倒的に後れを取っていたイギリス音楽が、革命以前のルネサンスの記憶と、外からの刺激を手探りでひとつに綯い、生み出される響きの興味深さ... ある意味、ニュートラルだったのかもしれない。で、このニュートラルさに、後のヘンデルを予感させるのだよね... いや、リスタートとなっての初々しさ、瑞々しさ感じられて、それがまた魅力たり得ている!
そんな、"Music for Lady Louise"... にしても、おもしろいところを切り取ってくる、テシエ+アンサンブル・レヴィアタン!フランス語、英語、それぞれのナンバーを卒なく歌い、演奏し、17世紀後半のサロン・ミュージックとでもいうのか、絶妙にライトさを出してくる。で、レディー・ルイーズのちょっとチャラいような雰囲気をそこに乗せてくるようで、おもしろい。しかし、リスタートを切った17世紀後半のイギリス音楽の活き活きとした気分、思い掛けず、魅惑的!