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2024年に聴いたピアノを振り返って、

2024年に聴いたピアノ、25タイトル。改めて振り返ってみると、実に多彩だったなと... モダンのピアノによる演奏もしっかりと聴きつつ、それぞれの時代の作品をそれぞれの時代のピアノで... フォーレに、サティ、フランス6人組の作品までピリオドのピアノで聴き、その当時の雰囲気を瑞々しく味わい... 一方で、ハープシコードやヴァージナルで聴いてきたイギリス・ルネサンスをピアノで響かせ、現れる、時代から解き放たれた新たな音像に新鮮な思いをし... さらには、タンジェント・ピアノでのバッハも!いや、様々な在り方があって、そうした"様々"に触れていると、揺るぎなくあったピアノのイメージが揺らぐようで、刺激的でした。そんな多彩な2024年から、特に魅了されたタイトル、3つ選んでみた!

💿 ルーカス・ゲニューシャスが弾く、ラフマニノフの1番のピアノ・ソナタ、オリジナル版。最初は、へぇー、オリジナル版なんだ、くらいの感じで聴き出してみたら、驚いた!作曲家、ラフマニノフの、本気度が詰まりまくってるじゃないですか!いや、ヤリ過ぎなくらいに盛り盛りの音楽だけれど、それくらいだから、マーラーの交響曲にも引けを取らない... だから、"ピアノ交響曲"とか呼びたくなってしまう。で、その音楽の下敷きに『ファウスト』の物語があるとのこと... となれば、リストのファウスト交響曲に対抗できるぞ!てか、"ファウスト・ソナタ"と呼ぶべきでは?そんな音楽を、ゲニューシャスがもた見事に弾き上げるのです!クリアにして、ただならぬスケール感を鮮やかに響かせる!魅了されました。

💿 ドナルド・バーマンが弾く、アイヴズの「コンコード・ソナタ」。生誕150年のアニヴァーサリー・イヤーということで、改めてアイヴズ(1874-1954)の興味深さ、おもしろさに気付かされる演奏。いや、ピアノというマシーンだからこそ、錯綜するアイヴズの音楽を整理するようなところがあって、整理されて、その実験性は明瞭となり... そして、アメリカ近現代作品のスペシャリスト、バーマンだからこその、勝手知ったる演奏の、何というスムーズさ!スマートさ!アメリカ実験音楽の源泉たる実験を、まるで魔法のように繰り出して、魅惑してくるのです。

💿 ロジェ・ミュラロが弾く、リスト、『巡礼の年』、全3巻。リストがスイスを旅したことを切っ掛けに生まれた曲集は、リストのライフワークとも言えるほどに、その音楽人生のあらゆる時に作曲され、それそのものが、"旅"のような曲集で... という音楽を、今、改めて、じっくりと辿れば、リストの人生そのものが浮かび上がるようで... そんな『巡礼の年』を編む、ミュラロのピアノがすばらしく、その響きの美しさ、聴き入るばかり。そうして、旅の情景を瑞々しく描き出しつつ、曲集全体からひとつの大きな流れを生み出し、深い感慨が広がるのです。

さて、2024年に聴いたピアノ、その多彩さに話しを戻しまして、印象深かったタイトル、ざっと挙げてみることに... まずは、ヘルムヒェンが、1790年製、シュペート&シュマールのタンジェント・ピアノで弾いた、バッハの6つのパルティータ。ピリオド楽器を用いながら、時代的整合性から離れるという禁じ手!いや、タンジェント・ピアノの独特なテイストで引き出される、バッハの音楽のおもしろさ!ピリオド楽器を、"ピリオド"というフレームではなく、ひとつの楽器として捉えるヘルムヒェンの斬新な視点に感心。一方、時代の転換期を丁寧に捉えたオルサイス、1826/27年製、コンラート・グラーフのピアノで弾いた、フンメルとシューベルト、"LA CONTEMPLAZIONE"。過渡期の弱さではなく、うつろいが生む繊細さ、そのままに響かせ、美しかった。それから、ブラウティハムが、1819年製、コンラート・グラーフのピアノで弾いた、シューベルトの20番と21番のピアノ・ソナタ。ピリオドのピアノの特性を最大限活かしながら、時代を越えてしまうように鳴らしてくるブラウティハム!晩年のシューベルトの先進性が如実に... そして、ピブルが、1829年製、ガヴォーのピアノで弾いた、フォーレの夜想曲と舟歌。フォーレが生まれる前のピアノのアンティークな音色が、得も言えずリリカルなフォーレを響かせて、素敵... で、最後にモダンのピアノによるものも... ぺリアネスが弾く、グラナドスの『ゴイェスカス』!モダンのピアノなればこその万能感から紡がれる、圧倒的なラグジュアリーさ!圧巻でした。

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