世にも奇妙な実況セリフと“伝えない勇気”。/シナリオライター13年生の頭の中
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ガラガラガラッ
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客「前置きはいらねぇ!まとめてくれ!」
しむら「あいよぉ!」
改めまして、シナリオライター13年生のしむらです。いろいろ書くシナリオライター。とにかく作るのが好き。パンダも好き。レッサーパンダも好き。
今日はアドベンチャーゲーム(ADV)のお話
わたくししむらは、日々ゲームシナリオを書いたり、監修するお仕事をしています。
書いたシナリオは、いわゆる「アドベンチャー(ADV)」形式で再生されることがほとんどです。
自分でもノベルゲームやアドベンチャーゲームを作る事もあって、近年ではもはやアドベンチャーゲームに特化したゲームシナリオライターになりつつあります。
アドベンチャー形式のゲームでは上記のような画面構成が基本。背景もキャラも、基本的にはあんまり動きません。
ゲームの黎明期やファミコン時代に比べれば、最近のADVは(3DモデルやLive2D等等のおかげで)キャラが呼吸したり、ポーズを変えたりなど、生き生きとしたしぐさを表現できるまでにはなりました。
が、それでもADV画面に持たせられるシナリオの情報量は、映画やドラマに比べたらとてつもなく少ない。
なぜなら、カメラで映せるのが
・背景(一枚絵、静止画)
・キャラ(基本あんまり動かせないもの)
・セリフ
だけだから!
ADV形式のシナリオを書くときは、
このADVならではの制限をきっちり理解したうえで――
否。それ以上に――
この制限ゆえに生まれがちな"世にも奇妙なセリフ"があることを良く知ったうえで、物語世界を描きだしてほしい。
…と、わたくししむらは常々思っております。
さりげなく、の技巧
ADV画面で映せるのは
・背景(一枚絵、静止画)
・キャラ(基本あんまり動かせないもの)
・セリフ
だけ。
つまり、画だけでは伝えきれない情報がたくさんあるということになります。
上記のようなベーシックかつシンプルなADVを例にすると、立ち絵のキャラは、画的には「ただ立っているだけ」です。
が、なにか食べているシーンであろうが、踊っているシーンであろうが、食べたり踊ったりするアニメーションをいちいちつけるわけにもいかないので、「ただ立っている」画面のまま進行します。
画が動かない代わりに、読み手にキャラの「動き」「行動」を伝えるためには、セリフや演出でさりげなく伝えていくことになります。たとえばこんなふうに。
この「さりげなく伝える」というのが、シナリオライターの腕の見せ所。プロのライターであってもいつまでも頭を悩ませる部分だと思います。技巧、工夫、表現の幅が試される。
では、「さりげなく」に失敗すると、どんなことになるでしょうか?
「伝わらない」? はい、それも正解です。
しかし、それ以上にヤバいこととして――
説明セリフならぬ「実況セリフ」なるものが生まれてしまうのです。
実況セリフとは
具体例をお見せするため、私の優秀なアシスタントもといChatGPTちゃんに手伝ってもらい、ADVシナリオ制作中に生まれがちな実況セリフの例を書いてもらいました。
友達以上恋人未満の仲である男女、黒助くんと白美ちゃんが、付かず離れずの距離を保ちながら街中を歩いていたときのことでした――
中盤の白美さんのモノローグにご注目。
白美さんが黒助さんの動きを仔細に説明する姿は、
さながらスポーツ中継の実況アナウンサーのようです。
これは完全に「さりげなく」ではなく、白美が――もとい、その白美のセリフを書いているシナリオライターが、読者に向かって説明・実況をしてしまっています。
実況セリフの何がいかんのかというと、読んでおわかりかと思いますが、
・普通の人はこんなこと言わないし思わないだろうという違和感を生む
・突然の実況解説にその場の空気が壊れる。シリアスなシーンではとくに
・シンプルに聞いてておもしろくない、退屈
…などなど、人により感想はそれぞれでしょうが、こうしたことが挙げられるかと思います。
さて本題。
実況セリフを作らないためには「さりげなく」を意識することが大切です。
しかし前述の通り「さりげなく」はマジで難しい。
プロだって表現に悩むこと多々。
「この情報をさりげなく伝えるのに、もっといいセリフがあるはず…!!」
と、悩み、あらゆる表現を模索して頑張ってみることもあるでしょう。
しかし、ちょっと待ってください。
本日のnoteの表題は「さりげなくの技巧を伝授します!(ばばん)」ではございません。
“伝えない勇気”なる、自己啓発書チックなタイトルでございます。
レッツ・シンキングタイム
「さりげなく」ができなくて悩んだら、一度筆を止めて、このようなことを考えてみましょうか。
今、自分が伝えようとしているこの情報は、
読み手がこのシナリオを楽しむために、
本当に必要なものだろうか?
と。
先の黒助くん白美ちゃんのシーンを例に考えてみましょう。
実は「黒助の動き」を読み手に仔細に伝える必要性ってそんなにないと思いませんか?
先程のシナリオを、私の方でこのようにリライトしてみました。
最初の悪い例では、黒助の動きの情報として
というのがありました。多いですね。
これらのうち、次の情報についてはバッサリカットにしました。
このシーンがアニメーションだったら、黒助の動きを引きのアングルで映して視聴者に見せることもできますが、ADVの画面でこれは伝えられない。だからセリフで伝えよう! ――となるかもしれませんが、
そもそもこの動きがなくたって、黒助が猫を抱えて戻ってきたら「あっちでこういう動きをしてたんだな」というのは想像がつきます。また、これらが「絶対に読者が知っておかなければならない情報」とは言えないため、勇気を持ってバッサリスッパリカットでいいと思います。
そもそも、ADVの画で表現しきれない人間の動きを「さりげなく」で伝えることは難しいのです。
そのことも理解した上で、表現のハードルをあげることをやめて、いさぎよくあきらめる。
また、その他の情報については、カットすると状況が目に浮かびにくくなりそうなので残しました。が、セリフで説明するのではなく、演出と「さりげないセリフ」に助けてもらう形にしています。
捨てるべき情報はいっそ捨て、必要かつ「さりげなく」で伝えやすいものだけを残します。
また、しれっと「さりげなく」のコツも書き残しておきますが、前述の通り「会話」にすることで、実況セリフから抜け出しやすいというのがあります。これについてはまた別の記事で書こうかなと思います。
伝えない勇気。
さて、ここまでバッサリだのスッパリだの言ってきましたが、今日の私が一番言いたいことをまとめると、
実況セリフをなくしたいなら、まず最初に“伝えない勇気”を持とう
ということなのです。
「絶対に“この画”を読者に伝えるんだ!」
「絶対に自分の頭の中のすべてを伝えるんだ!」
こういった執着が強いと、読み手にとっては必要のない情報までセリフで表現しようとしてしまい、その情報の多さゆえに「さりげなく」することもうまくいかず、世にも奇妙な「実況セリフ」が爆誕してしまいます。
根本的な考え方として、ライターの頭の中の、0から100まですべて伝えようとするのではなく、
「伝えたほうがいい情報」
「伝えなくていい情報」
を、勇気を持って選択できるといいよね!という話がしたかったのでした。
いわゆる「エッセンシャル思考」というやつに近いかもです。たぶん。
まとめ
選択といえば、「ゲームシナリオライターに不可欠な能力とは選択する力」という素敵な格言が載っている書籍があります。こちらもぜひチェックしてみてください!
いただいたご支援は、今後の更なる創作活動のために活用したいと思っています。アプリゲーム作ったり、アニメ作ったり、夢があるの!(>ェ<)