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第26回 falo+ 虎ノ門
2023年暮れの麻布台ヒルズに続いて、虎ノ門ヒルズ・ステーションタワー4階にも飲食店フロアがオープンした。虎ノ門ヒルズって、その名前を冠したメトロの駅までできたのに、虎ノ門横丁などがあるビジネスタワーには駅から意外と歩く印象だったが、2024年1月にオープンしたステーションタワーは、その名の通り駅真上である。
麻布台ヒルズでも感じたが、ヒルズと名のつくビル群は、手を抜かない・ケチらない・派手さはないけど贅を尽くした感がある。工期は遅れていると聞くも、物資がない・人出が足りない時代に、次々と新たな展開を絶やさない企業力には感心だ。漏れ聞こえる冷徹さには目をつぶるとして。
店舗のリーシングを見ても、三井や三菱といつた大手よりも何枚かうわ手のような気がする。
さて、最近新しくできる駅は、改札を一か所に集め間口の広いゲートを作る傾向にあるが、虎の門ヒルズ駅もそうで、お互い違う改札で待っていてすれ違うことがなさそうだ。といっても、最近は食事の前に駅で待ち合わせをするという、ちょっとロマンチックな習慣はほとんどなくなってしまったが。
無機質なエスカレーターを上がったエレベーターホールで最初に迎えられたのが、ドラえもんにそっくりな、おそらくは虎に寄せたキャラクター“ぼく、トラのもん“
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森ビルにしては、なかなかぶっ飛びの和みキャラである。
飲食フロア4階に着くと、各店舗が営業をしているのかどうか不明なほどひっそりとしている。多くの飲食店の入口も、勝手口ではないかと勘違いするほど間口が狭く、それ以外に窓などなく壁に閉ざされていて、中の様子はうかがえない。目指す『falo+』も、一瞬他に入口はないのかと探してしまった。大谷翔平の10年分のギャラに相当する巨大ビルのエントランスをくぐってきたのだから、各店舗に大層な門をつけることはない、との発想だろうか。
『falo+』の最初の印象は、客の寛ぎを最優先に考えた、奇想天外かつ素晴らしいレイアウトだ。基本はセンターのオープンキッチンを囲む20席のカウンターだが、まっすぐではなく半円を繋げたような形で、客はカウンターとテーブル双方の利点を享受できる。また、フロアに段差をつけて、客同士の視線や会話が絡まない工夫もある。半円が出っ張った分、キッチンは狭くなるし、段差でサービスも大変だろうと拝察もするが、客の快適さは半端ない。
ところで、このグループの基幹店である自由が丘『mondo』の、四角いテーブルも丸い食卓もない奇抜なダイニングは、最初こそ驚愕したものの、客が整然と並ばない分、視線が交錯しない類まれな特徴に気づいたし、コロナ禍で密を避けようと叫ばれたときも、このレイアウトが恐ろしいほどハマっていた。こう表現しても、なかなか『mondo』のデザインを文章で説明するのは難しい。だが一つ特筆したいのは、『falo+』が『mondo』のデザインコンセプトを踏襲しつつ都会的に昇華させている姿だ。もし、これらのデザインに興味を持たれた方は、ぜひ自由が丘にも訪れてほしい。
料理については、代官山『falo』と同様の焚火イタリアン。ただ、代官山のような大きな炭火台がないので少し伝わりにくいかもしれない。しかし、メインでイノシシの肉をお願いしたら、火入れが完璧で味わいも文句のつけようがなかった。厨房で動くスタッフは、客に全てを見られながらも自由度の高い環境が功を奏し、溌剌として若々しく好感が持てる。ここに紋切型の完璧さを求める必要はないのだろう。
『falo +』を統括する宮木康彦シェフの料理を、ぼくは長年食べてきた。数多い料理人の中でも、間違いなく「おいしい料理」が作れるシェフの筆頭だ。『falo +』で用意される数種類のパスタにも、その実力が息づいている。おそらく日本のイタリア料理店で食べられる最高峰かと思う。前菜もメインも分け隔てなく素晴らしいが、ぜひパスタのためにお腹のスペースを残しておくことをお勧めしたい。
■falo +
東京都港区虎ノ門2-6-1 虎ノ門ヒルズステーションタワー 4階
03-6268-8300