伊藤章良 食随筆家

1994年齋藤壽氏によって創刊された『料理王国』でデビュー。情報ポータルサイトにて「大…

伊藤章良 食随筆家

1994年齋藤壽氏によって創刊された『料理王国』でデビュー。情報ポータルサイトにて「大人の食べ歩き」連載スタート。その後『クーチャンネル(現在閉鎖)』で、2021年末まで「新・大人の食べ歩き」として一貫した食べる側の視点で書き続ける。著書に『東京百年レストラン(Ⅰ~Ⅲ)』。

最近の記事

第35回 鳥敏 恵比寿

  居酒屋やイタリア料理店など多店舗を展開する会社のオーナーから、いい焼鳥職人の見分け方ってありますかと聞かれたことがあった。ぼくは単純に、容器を用いて満遍なくざあざあと塩を振るか、指を使って自分の目指すところに必要な量だけ塩を当てるかの違いではないですかと答えた。   この視点で今の東京の高級高額焼鳥店を俯瞰すると、新たな地図が出来上がるのは明白だ。異論もあるだろうから、今ここでその議論に入るつもりはない。取り上げたいのは、高級高額そして予約困難焼鳥店と、行ったことはないけ

    • 第34回 食堂とだか  五反田

      ぼくは、予約が相当に難しい店のことは記事にしない。訪問が困難な店を取り上げても席が押えられないなら、情報として読者のお役に立てず、自己満足以外意味がない。実際自分は、予約の取れない店訪問に対し何もステータスを感じないし、興味もほとんどなくなった。その店が予約困難になる前に行ってしまう、というのがモットーである笑。予約困難になった時点で進化は止まるからだ。   五反田にある『食堂とだか』の店主戸高雄平さんとは、とある食事会で知り合った。帰り道が同じ方向で少し話をする時間があった

      • 第33回 ワインマンファクトリー 田町

        前回、料理を作るプロとおいしい料理を作るプロについて、音楽家の例を挙げて書いてみた。比較的ご理解をいただいたようだが、つまりは、「素材の持ち味を生かす」だけでは、他店の皿との差別化は難しいということだ。ゆえ、似たような写真ばかりがネット上に溢れるのかもしれない。素材の持ち味に加わる独創性こそが、おいしい料理を生み出すための才能なのだろう。   今回紹介する『ワインマンファクトリー』の井上裕一シェフは、元々目黒の山手道り沿いでイタリア料理店『アンティカブラチェリアベッリターリア

        • 第32回 haruna 白金

          先月フーディのことについて書き、何か反響あるかなあと構えていたが、ぼくには何も聞こえてこなかった。尊敬する証券アナリストにして超美食家のKさん曰く、伊藤さんの文章は長いのでフーディは読まないですよと諭された。これからも頑張って長い文章を書いていこうと思う。   さて、 あるピアノの演奏を聴いて、この演奏が、ピアノの先生によるのか、2000人を沸かせるコンサートピアニストのものか、ぼくには、その差が説明できるほどには分からない。友人のカナダ人ギタリストは、好きなギタリストとして

        第35回 鳥敏 恵比寿

          第31回 ホテリ・アアルト  福島 会津

          会津・裏磐梯に『ホテリ・アアルト』というオーベルジュがある。地元郡山の建設会社が2009年に築40年の山荘をリユースした。別館もあるのでその後立てまわしもされたかと拝察するが、大小含めて全17室がほぼフル稼働し、人気は東北隋一とも聞いた。オーベルジュという一般になじみのない言い方は施設側は使わず、いっぽう、フィンランド語らしいが、何度聞いても記憶に残らないホテル名である。北欧を意識した木造りの豪奢な建物だがサウナはない。そして、★やランキングに関わりのないシェフ。そこには、フ

          第31回 ホテリ・アアルト  福島 会津

          第30回  B-TRE 麻布十番

          ぼくの妻がフローリストであることは、ここでも時々書いている。主戦場は、ブライダルだったり舞台上の装花だったりする。毎月一週間は花のレッスンを恵比寿と鶴見で主宰し、レストランのダイニングを飾る花も得意だが、お祝いのアレンジ花をよく作っている。オーナーの誕生日や会社の上場記念、母の日・父の日など需要は事欠かず、何よりレストランの新規オープンにはよくお声がかかる。というのも、店先に数多く花が並ぶ中で、妻の作るものがひときわ個性的で目立つらしいのだ。   さらに、新規オープンのレスト

          第30回  B-TRE 麻布十番

          第29回 テレビのグルメレポートとは

          前回の伊勢参りで、テレビのグルメレポーターをしていた経験を書いたところ、いくつか問い合わせをいただいた。ぼくがレギュラー出演していたのは、「ニッポン百年食堂」という番組で、全国各地に点在する百年以上続いている食堂を訪ね、実際に食してレポートをするという内容だ。   ★そのときの様子をwebにまとめた記事「日本食堂遺産」はこちらhttps://www.otoriyosetecho.jp/column/itoakira/   このオファーをお引き受けした時、ぼくは一つのお願い、と

          第29回 テレビのグルメレポートとは

          第28回 お伊勢参り

          3月上旬、極寒の三重県伊勢市に出向き、お伊勢参りに行ってきた。幼少期関西ですごしたぼくには、伊勢神宮に行く機会が何度かあったし、レギュラー出演していたテレビ番組のロケでも内宮に伺った。係の方についていただき1時間以上かけて解説付きの案内を受けた。「五十鈴川のほとりにたたずむ伊藤」みたいな恥ずかしいショットも撮られたにもかかわらず、実際の放送ではワンカットも伊勢神宮のシーンは使われていなかった。テレビ番組なんて、そんなもんである。   以来の伊勢。今回は三重県で開業するドクター

          第28回 お伊勢参り

          第27回 アド 初台

          バレエやオペラ、レコード大賞の会場としても知られる新国立劇場。新宿から京王新線で一駅の初台にあり、新宿からも歩ける距離。しかし、外食としては、あまり足が向くエリアとは言えない。初台で最も知られるのは駅前の立ち食いそば店で、レコード大賞のプロデューサーを長年担当していた友人も、あそこで蕎麦を食するのが楽しみだとよく語っていた。   その初台に、昨年11月末、気鋭のフランス料理店オープンとの情報を耳にする。シェフの、麻布十番でモダンノルディックを標榜する『アシッドブリアンツァ』に

          第27回 アド 初台

          第26回 falo+ 虎ノ門

          2023年暮れの麻布台ヒルズに続いて、虎ノ門ヒルズ・ステーションタワー4階にも飲食店フロアがオープンした。虎ノ門ヒルズって、その名前を冠したメトロの駅までできたのに、虎ノ門横丁などがあるビジネスタワーには駅から意外と歩く印象だったが、2024年1月にオープンしたステーションタワーは、その名の通り駅真上である。   麻布台ヒルズでも感じたが、ヒルズと名のつくビル群は、手を抜かない・ケチらない・派手さはないけど贅を尽くした感がある。工期は遅れていると聞くも、物資がない・人出が足り

          第26回 falo+ 虎ノ門

          第25回 宮崎酒房くわ 恵比寿

          九州は、各県ごとに特徴ある料理が存在する。とんこつラーメン、からし蓮根、馬刺し、とり天・・・。そして宮崎と言えば、チキン南蛮と真っ黒な鳥の炭火焼き。ぼくは鳥料理の中でも密かに心動くのがこの炭火焼で、想像するだけで・・・、パブロフの犬状態になる。。特に親鳥のかったいやつが好みで、もちろん宮崎の街中にて頻繁に食するが、空港の土産物店でもギリギリまで物色してしまう。   :現在は行動範囲が少し変化したのだが、その昔、毎日のように赤坂界隈でランチを取っていた時期があった。不思議と赤坂

          第25回 宮崎酒房くわ 恵比寿

          第24回 バルセロナ滞在記

          ぼくの中で、スペインのバルセロナは特別な都市である。 行くたびに嫌な体験ばかりが重なるパリを除いては、世界中に素敵だと思える町はいくつもあって、訪れるたびにまた来たいと願うのだが、バルセロナは別格   大きな理由は、1992年に開催されたバルセロナオリンピック開会式の音楽に、日本から坂本龍一を起用したこと。その当時、すでに世界のサカモトだったかもしれないが、自国民ではなく日本人の音楽家に依頼していただいた恩義を、ぼくは一生覚えている。YMOの高橋幸宏によると、嫌々やっていたそ

          第24回 バルセロナ滞在記

          第23回 マドリード滞在記

          10月は、半分以上ヨーロッパに滞在していた。かの地を知る人たちからは、寒いから気を付けてと口々に言われたので、防寒服をいくつも持って行ったものの、全く使わずに終わった。朝晩こそ冷えるが日中はほぼ毎日Tシャツ。それだけ暑かったし毎日が晴天だった。先日のラグビーワールドカップ決勝戦を見ると、雨だったこともあるが観客は皆さん寒そうで、ぽくへの忠告は、数週間分早かったようだ。   今回の旅の目的の一つは、スペインのマドリードで、ピカソの有名な作品『ゲルニカ』を鑑賞すること。ヨーロッバ

          第23回 マドリード滞在記

          第22回 サカトケ乃カミ 大阪梅田

          ぼくは酒をたしなむし、それ以上に酒場の風情が好きだ。ただ、どちらかと言えば、せっかちにあおるよりは座ってじっくり飲みたい派だ。中島らも氏が言い出したといわれる「せんべろ」、つまり千円程度でべろべろになりたい気分の時も座れる酒場を探すことが多い。なので、立ち呑みを選ぶ際には厳選する笑。   かなり前だが、東京の酎ハイ街道や立石界隈を克明に紹介していた「酔わせて下町」というタイトルも含め秀逸なブログがあった。その著者とも飲んだことがあったが、彼曰く、立ち飲みはエクササイズと心得

          第22回 サカトケ乃カミ 大阪梅田

          第21回 帝里加(デリカ) 汐留

          中国人が、世界中で彼らのコミュニティを形成しているのは周知のことだが、中国の料理を中華料理と呼ぶのは日本だけだそうだ。店中に響くように中国語で怒鳴り合いながら、たどたどしい日本語で接客する中国料理店は、まるで自然界の強力な外来種のように、日本固有の中華料理、言い換えれば町中華を駆逐しつつある。   「回鍋肉」や「干焼蝦仁」などは、作ったことのない日式のレシピで調理し、「酢豚」「冷やし中華」といった聞いたことすらないメニューまで、見様見真似で中華料理を作る中国人の逞しさは大した

          第21回 帝里加(デリカ) 汐留

          第20回 シオタ 江戸川橋

          何回か前、千歳船橋のフランス料理店『ラドレ』を紹介した時も書いたが、東京でこれぞというフランス料理らしいフランス料理店に出会うのはなかなか難しい。ただそれは、劣悪なテレビ番組に苦言を呈することと同様にむなしい議論で、結局そんな放送は観なければいいのだし、フランス料理を出さないフレンチレストランには行かなければいいのだ。こう暑いと、フランス料理店の紹介には少々気が引けるが、まだ気温が上がる前の訪問記ゆえお許しください。   江戸川橋と護国寺の間ぐらいにある『シオタ』は、今行くべ

          第20回 シオタ 江戸川橋