第25回 宮崎酒房くわ 恵比寿
九州は、各県ごとに特徴ある料理が存在する。とんこつラーメン、からし蓮根、馬刺し、とり天・・・。そして宮崎と言えば、チキン南蛮と真っ黒な鳥の炭火焼き。ぼくは鳥料理の中でも密かに心動くのがこの炭火焼で、想像するだけで・・・、パブロフの犬状態になる。。特に親鳥のかったいやつが好みで、もちろん宮崎の街中にて頻繁に食するが、空港の土産物店でもギリギリまで物色してしまう。
:現在は行動範囲が少し変化したのだが、その昔、毎日のように赤坂界隈でランチを取っていた時期があった。不思議と赤坂って宮崎料理の店が多いなあと感じつつ、なにしろ「チキン南蛮」も「炭火焼」でも、ランチ時の定食になると迫力満点なので好んで足を向けた。赤坂には、ギンザという名前のビルがいくつかあり、そこに確か『桑』なる宮崎料理の店があった、というか全く自信はないが存在していたと記憶する。赤坂で日常的にランチしなくなって久しいので、相当な年月が経っただろうと思う。
コロナ禍の中、恵比寿から白金に向けて散歩をしていたら、高名な焼肉店の隣に『くわ』という宮崎料理の店がオープンしていたことに気づく。おそらく居ぬきであろう、新店舗ならではのピカピカな面構えではないのだが、妙に惹かれた。その場で調べると、元々赤坂にあった『くわ』が恵比寿に移転したとある。『桑』ではない。これをくわと読むのかどうかも覚えていない。でも宮崎出身の気のいい面々による抜群の居心地と炭火の香りがプンプン漂っていた。
時を置かず予約して訪問。パンデミックには逆らえず、まだまだ恵比寿での知名度も低いのか空いており、カウンターに落ち着く。この時期に赤坂から恵比寿に移転するという、自分の店の灯を消したくない意欲と情熱が何より頼もしく、宮崎を愛する人たちによる、地元の料理と地元の酒でのもてなしが快適。九州の甘口醤油を使う鳥刺し、部位や肉質によって3種類用意されている炭火焼。各種焼鳥は、ボリューム感たっぷりだが肉が新鮮なのでスルっといける。そして記憶にあるのとは違うちょっと驚きのチキン南蛮、親子丼まで一通りいただいて満腹。オープンのキャンペーンとかでお会計はあまりにも安価。バブル時代ならクルマでアクセスしやすい好立地だけど、恵比寿駅からそこそこ距離があるので大丈夫かなあと心配しつつ店を後にした。
期せずしてかどうか、『くわ』の店内は、かなり機能的・魅力的であることが後々分かってきた。冬場はがっちりとビニールで囲ってあるテラス席は、喫煙可。ここには生ものは提供しないという徹底ぶり。初回訪問時に気づかなかった、それ以外のテーブル席はすべて個室。プライバシーを重視して個室からはタブレット端末で注文ができる。大手チェーンのようなスケールメリットはないのに、そこまでやるとはご苦労なことだ。カウンターは口頭での注文なので、個室は口頭でも可能。
そして、瞠目すべきは定休日の設定がないこと。ウイークデイはもちろん土日も深夜まで営業。平日はランチもやっている。とんでもない働き者たちだ。バブル期はこのような営業形態も散見したが、働き方改革の波は飲食店にも押し寄せ、サイゼリヤでも10時ラストオーダーの時代なのだ。
先日10時を過ぎてから電話を入れて訪れてみると、個室もテラスも満席。カウンターも予約した席を除いて埋まっている。カウンターは男女とも一人客。おそらくは同業の飲食関係者が、仕事終わりの憩いのひとときを求めて止まり木に座しているのだろう。最寄駅から離れた好ロケーション。彼らの貴重な時間を邪魔する者はいない。
なお、グレートバリューなのは、オープン時だけではないことも付け加えておきたい。
宮崎酒房 くわ
東京都渋谷区恵比寿2-11-7 グリーンハイツ101
050-5597-8619
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