見出し画像

第12回 宮地亭 横浜

パシフィコ横浜で開催されたカンファレンスの仕事で、ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテルに4日ほど投宿した。原則、ケータリングやお弁当を提供いただけるのだが、せっかく横浜にいるので、どこか出かけようと、いろいろと調べてみた。準備の期間がなく、ほぼ前日か当日の予約となると、ほとんど全滅に近かったが、一軒ようやくひっかかった。『宮地亭』という店だ。メインは鉄板焼きらしい。東急東横線の反町で長く営まれ、2018年、高級そうなレストランが並ぶ横浜は馬車道の一角に移転された。

エントランスからかなりスタイリッシュな造りで、テーブル席が中心、個室もある。ちょっと想像した感じとは異なるものの、迷いなく鉄板の前、カウンターを希望した。カウンターに立つのは男性が2人。見るからに迫力のある、店主と思しき壮齢の方と、二枚目の長身。聞けばこちらは娘婿だという。お酒を悩んでいるとソムリエバッチを付けたお嬢さんが登場する。そして、大声で元気よくダイニングを仕切っているのは、おそらくお母さんだろう。入口からのアプローチや内装が放つイメージに比して、極めて暖かい接客。いわゆる家族経営の店だったのだ。

インターネットを散見すると、多くはぼくが感じたままとは少し異なる紹介で、普段はほとんど読まないレビュアーの記事を斜め読みしてみても、それに即した食事をされている様子。新参者のぼくの受け止め方で印象を崩しても逆にお店に申し訳ないのかもしれない。しかし、鉄板の圧倒的な力、というか、そこに立つ義理の父子のコンビネーションが『宮地亭』の一つの特徴で、店やウェブが提唱するお決まりのコースでは、なかなかそこに触れられないような気がする。鉄板上に出来上がる料理を確かめながらのアラカルト注文は楽しいし、予算的にも安価に収まる。

『宮地亭』では、毎日市場で仕入れるという鮮魚も一つの名物と唄っている。ダイニングから奥の厨房の様子は見えないが、そこに魚担当の料理人がいるのだろう。カワハギをお願いしたら、肝が切り身に巻かれて出てきた。肝を醤油に溶くと塩辛くなるし、なにより小皿に肝が残るので、このやり方は肝好きにはたまらない。客の大半が選ぶというパリパリサラダも、いい箸休めとなった。

でも、やはり鉄板だ。アワビも和牛、餃子まである。しかしここは、ソースだけではなくナポリタンやペペロンチーノなど様々にラインナップされている焼きそばに食指が動く。まずはソース焼きそばをオーダーして驚愕した。麺にしっかりとソースがコーティングされていて全く水っぽくない。というか、最初から麺自体に味がついているような仕上がりなのだ。不思議だったので長身の男前に質問すると、じっくりと火を入れることでソースの水分を飛ばすのだという。焦げもしないし固まらないのも技術とすれば見事だ。あまりにも面白かったので、続け様にナポリタン風も頼んでみた。

いろいろと質問をしたせいなのか、お忙しい合間を縫って、女将さんがエントランスまで見送りに出てくださった。直にお店の魅力をお伝えしたら、少し家族経営の難しさを語られハッとした。あれだけの席数を少人数で回すのは大変なことだろう。ゆえ、11月12月は、予約を受ける際、コースでお願いしているとのことだ。残念ながら、コースに焼きそばはないので、ぜひ追加でトライしていただきたいと思う。

宮地亭
神奈川県横浜市中区太田町5-63-2 アーバネックス横濱馬車道 1階
050-5589-7511

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?