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第30回 B-TRE 麻布十番
ぼくの妻がフローリストであることは、ここでも時々書いている。主戦場は、ブライダルだったり舞台上の装花だったりする。毎月一週間は花のレッスンを恵比寿と鶴見で主宰し、レストランのダイニングを飾る花も得意だが、お祝いのアレンジ花をよく作っている。オーナーの誕生日や会社の上場記念、母の日・父の日など需要は事欠かず、何よりレストランの新規オープンにはよくお声がかかる。というのも、店先に数多く花が並ぶ中で、妻の作るものがひときわ個性的で目立つらしいのだ。
さらに、新規オープンのレストランに、客ではなく納入業者として赴く際の店側の対応が興味深いらしい。妻は、新しい店に花を贈る方の代理であり、自分が今後新たな客になるかもしれない、という気持ちを心に秘めているのだ。
広尾の『ボッテガ』は、お届けの後、その対応に大絶賛だったが、直後に星を獲得し瞬く間に予約が取れなくなってしまった。いっぽう、憤慨して帰ってきた店もある。今や東京でトップクラスのイタリア料理店なのだが、その移転リニューアルに届けた際の対応がひどかった。相手の顔も見ずに、その辺に置いといてというぞんざいさ。それを聞いて、ぼくもなんとなく足が向かなくなった。
つい先日、妻が納品した麻布十番のイタリア料理店。
○○さんからですと伝えるなり「マジですか!」と、すっとんきょうに驚き全身で喜びを表現したシェフの姿がとても印象的だったという。では行こうと、早速『B-TRE』を予約。妻はオーブン前すでに店のレイアウトを把握しているのでカウンターを希望したがすでに満席でテーブルとなった。
都営大江戸線麻布十番駅からすぐながら、静かな方のエリアで好立地。ここは元々同じイタリア料理の『イル・マニフィコ』があった場所。コロナ禍も乗り越え、そこそこ広めの店舗で10年以上やってこられたかと認識するも、閉店していたとは意外だった。
その場所をほぼ居抜きで引き継いだ、活きのいい鈴木光薫シェフと女性が2人で厨房を担当。自らも酒飲みと称する女性がダイニングを仕切る。その自称に違うことなく、ワインは概ね手が出やすい価格に値付けされていて気持ちが軽くなる。
満席のカウンターも、もう一卓ある2人用のテーブルも、前の店からの客ではないかと思われる外国人家族連れとぼくたち以外全て、レストラン関係者。新規オープンの最初って助け合いというか、こんな感じなのかと微笑ましい。さらに会話の内容は一般客に対するよりも濃密なので、聞き耳を立てる価値も大きい。
メニューは現在のところアラカルトオンリー。客に頭を使わせる店が増えて喜ばしい傾向だ。料理は東京では久々の、イタリア!と叫びたくなる内容だった。加えて、フレンチ並みの仕込みの入念さが光る。カルパッチョがしっとりと燻製されていたり、イタリアではめったに使われない牛タンを煮込んでイタリアっぽいトレヴィスと合わせるなど、メニュー数を絞りつつもアラカルトとして抜かりのない前菜だ。バスタは「九条ネギ 貝 からすみのリングイネ」をチョイス。メニュー名ではイメージしにくいが、絶妙な茹で加減塩加減のリングイネをがっつくと、そこにアマルフィの海の記憶が広がり、ホテルのテラス席でランチしたときの「Frutti di mare」、海のフルーツなる海の幸パスタが鮮明に甦った。
さて、ぼくは普段個々のメニューについてアレコレ書かない。それはおまかせコースで出された料理を紹介しても、次の機会に同じものが食べられないからだ。おいしそうな写真を記憶に留めて、あれが出てくるかなあと待ちわびてもいっこうにに出てこない経験をされたのは一度や二度ではないだろう。
しかし、アラカルトオンリーならば、自分で考え迷ったからこそ愛着が生まれる。メインは迷わずチキンのディアボラ。最近この名前をほとんど「サイゼリヤ」でしか見なくなったので、すぐさま飛びついて、ファミレスとは違う本物のディアボラにかぶりつく。
ずっとこのまま、アラカルト中心で続けられることを望みます。旨い物屋さんの王道を貫きながら、本物のイタリアを伝えてほしい。
■B-TRE
東京都港区麻布十番1-4-3 熱田ビル 1階
03-6459-1264