第1回 YAKITORI 燃es
こちらにお立ち寄りくださった皆様、本当にありがとうございます。そして、あけましておめでとうございます。
女性起業家として著名な粟飯原理咲さんからその名をいただいた「大人の食べ歩き」というタイトル。その後も「新・大人の食べ歩き」と改めて継続し、20年を迎えようとしている。
では、大人の食べ歩きとは何なのか。ビジネス書的に例えれば、戦略はコミュニケーションで、その戦術の一つが食べ歩きということ。食べ歩きは、あくまでコミュニケーションを円滑に実現するための一つのコマに過ぎない。ぼくはその一つを大人という視点や振る舞いから紐解くだけで、戦略はそれを活用する個々人の采配である。この考え方は昔も現在も変わらない。とまあ、あー、またまた硬い内容で始めてしまった。
SDGsの大いなる影響もあり、最近とみに、食の未来、レストランの将来が語られ始めた。料理人もオーナー側も、外野のマスコミも押しなべてのようだ。それらは誰に対して、そして誰のために訴えようとしているのだろう。当然、未来・将来にその現場にいる世代へ向けてであるはず。ところが当の本人たちは、スタンプラリーや映える写真の方が楽しいに決まっている。そんな群像の享楽を奪うことなく、未来・将来へも何らかの気づきを含ませる「大人の食べ歩き 第3章」。できるかどうか構想自体も判然としないままだが、なんとかここでトライしたい。
今回の店は六本木の「燃es」。焼鳥店である。串については西のカツに対し東の焼き、みたいな原稿を若い頃はよく書いたが、こういった文化論はすっかり過去の話で、つまらない。
焼鳥のおいしさは、ほとんどが鶏の質と串打ちで決まると個人的には思っている。「燃es」の料理長、沼能大輔さんは、まだ若手ながら串打ちの技術に関し都内屈指だろう。単純に、とても食べやすいのである。焼鳥は原則、いや絶対に串から直接食べる料理だ。ゆえ、箸を置いていない焼鳥店もある。串の根本に近い肉を口にするとき、時折ハードボイルド小説の主人公になった気分でガシとやるケースが多い。でも「燃es」の場合、最後までスルッと口に入る。特に女性に優しい。詳しくは分からないけど、肉のサイズや串を刺す位置など絶妙に調整されているような気がする。
続いて火入れのこと。「燃es」の串を手に取ると驚くほど串が冷たい。もしかしたら肉も生ぬるいのかと訝しく思ってしまう。だが、もちろん肉はアツアツで、しかもパサつかず、しっとりとまとわりつくのに、カリカリであってほしい皮の部分などは、心憎いほどクリスピーに仕上がる。沼能さんの立つ焼き台をみれば、熱源と肉との距離も想像がつくし、調理中ほとんど炭に触ることがない様子で、なるほどなあと納得するけど、高度な火入れの話よりも、持つ手の部分が熱くないので食べやすい。ということは食べることに対しストレスがない、ゆえにさらにおいしく感じられる。
沼能大輔さんは、キャリア15年と聞くが、まだ30代半ばと若い。
ぼくが本稿でターゲットと狙う世代である。最近の若手料理人には珍しい無頼派で、毎夜仕事終わりで飲み、休日も昼から飲む。いっぽうで、奥様をフランス料理店のクリスマスディナーに連れて行くところが、旧態依然とした昔の職人とは違う。しかも、新旧焼鳥職人の中にぐいぐいと迫って交流を持つし、フェイスブックでのぼくとの共通の友人は、フレンチの料理人ばかりだった、といっても、ぼくはほとんど焼鳥の方を存じ上げないが……。
沼能さんの仕事ぶりや人間関係を見聞きすると、彼にとって焼鳥は戦術であり、戦略は料理そのものなんだと気づく。というより、時には柔軟に時には執念深く焼鳥だけと向き合うことで、次第に焼鳥職人ではなく、はっきりと料理人に見えてくる。いわば大人の食べ歩きを極めれば自然とコミュニケーションの達人になっていくのと同義である。
沼能さんは、これからもずっと焼鳥しかやらないだろう。それが彼にとっては料理のすべてを手がけ掌握していることになるのだから。
YAKITORI 燃es
東京都港区六本木7-13-10 宮下ビル 1F
完全予約制 予約はOMAKASE でのみ
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