捨てられないのは、ものではなく記憶
二度と使わないだろうなと思う音楽機器を処分することができない。
それを使っていた頃に住んでいた部屋のこと、ヘッドホンで耳をふさいで、世界と切り離されたような気持ちでいた頃の自分が、すべて詰まっているような気がして。
あの頃なりたかったのは、クリエイターではなく、あの人と仕事をする私、だったかもしれない。
久しぶりにあの人の作品に触れた。
尊敬とか憧れなんて言葉はもう、使わない。
可愛げのない、ふてぶてしい気持ち、ばかげた執着をもって、あの人を想う。
それでも、あの頃寝ても醒めても切望していたように、いっしょに仕事をしてみたい気持ちがまた沸き起こる。
似たような夢を追っていた友達の夢を見た。
彼女はもう、作詞も作曲もやっていない。地に足をつけて、日々を生きている。
この夏、久しぶりに詞を書いた。
自分の夢をなだめるために。
こっそりと、あの人に感謝の気持ちを伝えるために。
ところで
私はいま、自分の言葉を持てているだろうか。
あなたの目を通して見える景色をとらえたいと必死だった、あの頃の呪縛が解けて。